
ビジネス方法は特許されるか
〜Bilski事件米最高裁判決〜
[2010/07/05] |
米国連邦最高裁判所は6月28日、「Bilski事件」の判決を下した。Bilskiの特許出願は、特定の商品の価格変動に基づいて種々の取引行為を行う商取引の分野におけるリスクヘッジ方法に関するもので、今回の最高裁判決は、純粋なビジネス方法の特許性に関する判断指針として注目を集めていた。結果は、2008年10月の連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決を支持し、Bilskiのクレームは米国特許法101条の特許適格性を欠くとして上告棄却された。一方、CAFC判決で示された、「機械又は変換」テストが101条の特許適格性を判断する唯一の基準である点については否定。また、101条に規定する「方法」も、ビジネス方法というカテゴリ自体を排除しない見解を示した。
今回の判決について、過去のビジネス方法特許を巡る事件を踏まえ、三好内外国特許事務所の弁理士、高松俊雄氏が解説する。
1.ビジネス方法特許
1995年のMicrosoft Windows 95の発売を契機に、グローバルにコンピュータネットワークが普及し、コンピュータ技術、IT技術が飛躍的に向上した。このため、コンピュータネットワークを基盤とする金融・商取引が普及し、世界の経済活動を大きく変革するに至った。
そのような状況の中、1998年に米国でビジネス方法特許を認めるCAFC判決が出されたというニュースが世界中を駆け巡った。State Street Bank事件と呼ばれる事件である。このニュースは、ビジネスモデル特許が認められるという認識を世の中に広め、その結果、ビジネスモデル特許の取得を目的とする特許出願が世界的に急増した。
しかしながら、特許制度は科学技術の改良により産業を発達させることを目的とするものであり、純粋なビジネス方法(金融・商取引)に特許を付与するかどうかについては、慎重な判断がされてきた。
2.State Street Bank事件(1998年7月)
State Street Bank事件は、Signature社が所有するハブ・アンド・スポーク特許(US 5,193,056)の有効性について争われた事件である。ハブ・アンド・スポーク特許のクレーム1は、次の通りである。
クレーム1(筆者訳):
各パートナーが複数のファンドの一つであるパートナーシップとして構築されたポートフォリオの金融サービス構成を管理するデータ処理システムであって、
| (a) |
データ処理を実行するコンピュータ処理手段と、 |
| (b) |
記憶媒体にデータを格納する記憶手段と、 |
| (c) |
前記記憶手段を初期化する第1の手段と、 |
| (d) |
前の日からの前記ポートフォリオ及び各ファンドの資産に関するデータ、及び各ファンド、資産の増減に関するデータを処理し、前記ポートフォリオの各ファンドが保持するシェア比率を配分する第2の手段と、
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| (e) |
前記ポートフォリオについて毎日の増加収入、支出、及び換金された純利益又は損失に関するデータを処理し、各ファンドにそれらのデータを配分する第3の手段と、 |
| (f) |
前記ポートフォリオについての毎日の非換金の純利益又は損失に関するデータを処理し、各ファンドにそれらのデータを配分する第4の手段と、 |
| (g) |
前記ポートフォリオ及び各ファンドについて年度末の合計収入、支出及びキャピタルゲイン又は損失に関するデータを処理する第5の手段と、
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を備えたデータ処理システム。
このハブ・アンド・スポーク特許について、CAFCは、「クレーム1はハブ・アンド・スポーク型のソフトウエアによってプログラムされた装置に関するもので、『有用、具体的かつ有形の結果(useful, concrete and tangible result)』を奏するものである」と認定し、101条の特許適格性を認めた。また、CAFCは、クレームがビジネス方法の形式で記載された場合であっても、例外ではなく、同様に特許適格性を有すると判示した。このCAFCが示した「有用、具体的かつ有形の結果」という判断基準は、その後、永年に渡って、101条の特許適格性を判断する基準として用いられた。
3.Bilski事件CAFC判決(2008年10月)
Bilskiは、純粋なビジネス方法に関する特許出願に対する米国特許商標庁の判断を不服として、CAFCへ控訴した。これに対し、CAFCは、2008年10月、当該事件の法的重要性を考慮して大法廷により判決を下した。
Bilskiの特許出願は、特定の商品の価格変動に基づいて種々の取引行為を行う商取引の分野におけるリスクヘッジ方法に関するものであり、そのクレーム1は、次の通りである。
クレーム1(筆者訳):
商品提供者により固定価格で販売される商品の消費リスクコストを管理する方法であって、
| (a) |
前記商品提供者と前記商品の消費者との間における一連の取引を開始する工程であって、前記消費者は、過去の平均値に基づく固定価格で前記商品を購入し、その固定価格は、前記消費者のリスクポジションに相当する工程と、 |
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| (b) |
前記消費者の反リスクポジションを有する、前記商品についての市場参加者を特定する工程と、 |
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| (c) |
前記商品提供者と前記市場参加者との間における第2の固定価格での一連の取引が、前記消費者との間における一連の前記リスクポジションをバランスさせるように、前記市場参加者との間における一連の取引を開始する工程と、 |
を含む方法。
CAFCは、State Street Bank事件で示した「有用、具体的かつ有形の結果」という判断基準を、本件において適用することは妥当ではないと述べた。その代わり、最高裁がBenson事件(1972年)で示した「機械又は変換(machine-or-transformation)」テストを採用した。このテストは、次の要件を満たすことを要求する。
(1) その方法が特定の機械又は装置に関連付けられていること、又は
(2) その方法により特定の物を異なる状態又は異なる物に変換するものであること。
State Street Bank事件の「有用、具体的かつ有形の結果」テストは、当該ビジネス方法を実行することによる「結果」に注目したが、Bilski事件の「機械又は変換」テストは、当該ビジネス方法を実行する「過程」に注目した点が異なる。CAFCは、Bilskiの純粋なビジネス方法は、「機械又は変換」テストの要件を満たさないため、101条の特許適格性を欠いていると判断した。
4.Bilski事件米最高裁判決(2010年6月)
Bilskiは、CAFC大法廷の判決を不服として、最高裁へ上告した。このため、最高裁が純粋なビジネス方法の特許適格性について、どのような判断を示すか注目を集めていた。
2010年6月28日、最高裁は、遂に長く待ち望まれていた判決を出した。その判決文において、最高裁は次の点について判示した。
| (a) |
Bilskiのクレームは、「抽象的概念」であり、101条の特許適格性を有しない。 |
101条は、特許適格性を有するカテゴリとして、方法、機械、生産品、組成物を規定している。また、判例法は特許適格性の例外として、自然法則、自然現象、抽象的概念を挙げている。最高裁は、Bilskiのクレームが、商取引の分野におけるリスクヘッジ方法に関するものであり、抽象的概念に相当すると判断した。
| (b) |
「機械又は変換」テストは、101条の特許適格性を判断するための唯一のテストではない。 |
CAFC大法廷は、「機械又は変換」テストが、101条の特許適格性を判断する唯一のテストであると述べたが、最高裁はこれを否定した。最高裁は「機械又は変換」テストは、101条の特許適格性を判断する上で、依然として有益なテストであるが、唯一のテストではないと述べた。最高裁は、他のテストの可能性を示唆したが、どのようなテストが可能かについては、言明しなかった。
| (c) |
101条に規定する「方法」は、ビジネス方法というカテゴリを排除しない。273条は、ビジネス方法の特許を認めることを前提に、その先使用の抗弁について規定している。 |
永年に亘って維持された「ビジネス方法除外の原則」は、State Street Bank事件においてCAFCにより否定され、Bilski事件において最高裁により再度否定された。273条はビジネス方法特許を前提とする条文であるため、条文上も既にビジネス方法特許を認めていることになる。
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三好内外国特許事務所
副所長、弁理士
高松俊雄 氏
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5.特許適格性を有するビジネス方法
State Street Bank事件では、ビジネス方法をコンピュータソフトウエアとハードウエアを用いて実現することを具体的に記載したから、「有用、具体的かつ有形の結果(useful, concrete and tangible result)」を奏するものである、と認定され、101条の特許適格性が認められた。
今回のBilski事件では、商品提供者、消費者、市場参加者、商品、固定価格についてクレームに記載したが、その商取引について、コンピュータ技術やIT技術を用いて、どのように実現するかをクレームに記載しなかった。このため、Bilskiのビジネス方法は、「抽象的概念」であると判断され、101条の特許適格性が否定された。
CAFC及び最高裁は、ビジネス方法が101条の特許適格性を有することを認めている。但し、当該ビジネス方法は「機械又は変換」テストの要件を満たす必要がある。この要件を満たすためには、当該ビジネス方法をコンピュータ技術やIT技術を用いて実現することを、具体的にクレームに記載する必要があるだろう。

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