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欧州承認で岐路に立たされた日本の「医療方法特許」 日本として早期の解決が望まれる [2007/10/11]
これに対し,2002年ごろから製薬業界および医学アカデミアを中心に医療方法特許を求めるべきであるとの声が上がり,知的財産本部の専門委員会などで関連団体などが活発に論議してきた。その結果,高度医療方法の開発を活発化させるために特許を認めるべきと主張する日本経済団体連合会,日本製薬工業協会,バイオインダストリー協会などと,(1)全国民が医療を受けられる「医療のフリーアクセス」や患者と医者の裁量権が守られない懸念がある,(2)特許保護による医療費高騰の恐れがある,などの理由から特許化に反対する日本医師会などが対立し,活発に議論されてはいるものの,これまでは特許化に向けて大きく動き出す気配は見せていなかった。 ところがここへ来て,米国と同様に“医療行為は産業”であるとはしていたが,倫理の観点から,特許を認めていなかった欧州が,最近,実質上特許を認めることになり,日本を取り巻く状況が大きく変わった。すでに医療方法特許を認めている米国に加え,2006年にEPO(european patent office:欧州特許庁)が審決として,医療方法特許をスイス型クレームで認める方針を示した。これによって米国に続いて欧州も医療方法特許を認める方向になり,医療分野における日本の国際競争力低下が一層加速する危険がでてきた。このことを懸念し,日本における医療方法特許の推進団体を中心に「日本も欧米なみの医療方法特許を認めるべき」との声が高まってきた。これらの状況変化を踏まえて,「医療関連行為の特許保護の在り方に関する専門調査会」の委員などを歴任してきた武田薬品工業常務取締役の秋元 浩氏に,医療方法特許の必要性を聞いた。 (聞き手は品田 茂=日経BP知財Awareness編集) 欧米では認められている「医療方法特許」 日本では,医薬品を構成する低分子化合物やその用途の発明については「物」として特許が認められてきた。しかし,医療方法の発明に関しては,医療行為が産業ではないとの解釈から特許が認められてこなかった。これに対して米国では,医療行為は産業であるとの解釈であり,医療方法特許が認められていた。欧州は,当初,日本と同じく医療行為は産業ではないというという解釈であり,また,後に,産業であるとの解釈に改められたが,倫理の観点から,2005年にTRIPS協定(agreement on trade-related aspects of intellectual property rights)との整合性を高めるために解釈を改めた際にも医療方法特許は認めなかった。しかし,2006年にEPO(european patent office:欧州特許庁)がスイス型クレーム編集部注)によって医療方法特許を実質上認める審決を下し,欧州でも米国と同様に医療方法特許を認めるようになった。 このままでは,日本の製薬企業だけが医療方法特許を取得できないために,医療分野における日本の国際競争力が低下してしまう。日本の製薬企業が欧米の巨大製薬企業と渡り合うためには,医療方法特許を欧米並みに認めることが急務である。医療方法特許が認められない状況では,製薬企業などにとって高度医療方法の開発は取り組む魅力に乏しい事業になってしまう。医薬品の高度な使用方法の開発手順は,まず単剤の容量・用法あるいは複数の医薬品の組み合わせ使用方法などに関する基本コンセプトを考案し,次に動物実験などを通じて基本コンセプトを検証し,最後に医師との共同研究や臨床実験によってコンセプトの適合性を確認する。ここまでの手順をすべて踏んで,ようやく製造承認が得られる。このため,医薬品の高度な使用方法の開発には5〜10年の開発期間と50億〜100億円の研究開発費が必要となるのが一般的だ。医療方法特許がなければ,せっかく膨大な開発リソースを割いて開拓したにも拘わらず,市場に他社が容易に参入する可能性があり,先行メーカーにとってリスクが大きく事業として成立しない。この結果,その企業が患者のために高度医療方法を開発したいと考えても,実際には高度医療方法を開発しなくなってしまう。例えば複数の医薬品を使用する併用療法自体に特許を認めれば,製薬企業が自社の製品を含む併用療法を開発した際,(1)併用療法で使用する自社医薬品の売り上げ拡大,(2)後発医薬品(generic medicine)に対する差異化,などが可能になる。 (1)については,A社,B社,C社という別会社が開発した3つの医薬品a,b,cを組み合わせることによって高い効果を発揮することをA社が発見した場合,B社,C社に関係なくA社は1社のみで3つの医薬品を組み合わせて投与する方法について特許権を得ることができ,この療法が普及すればA社の医薬品aの売り上げが増加する。また副次的な効果として,B社の医薬品bやC社の医薬品cの売り上げも増加する。 (2)については,特許保護期間が過ぎた医薬品aの後発医薬品を他の製薬企業が製造・販売することは止められない。しかし,特許が認められている使用方法・併用療法に使用されることを知りながら後発医薬品を販売する場合は,間接侵害によって販売を差し止めることができる可能性がある。侵害の発見に関しては,(i)裁判所による処方箋や治療記録の開示命令,(ii)医薬品納入の事実確認,などが考えられる。 日本では,従来から「a,b,cを含む合剤」という形で特許を取得することが可能だが,a,b,cの組み合わせによる高い効果の発現という発明の本質に対する特許は認められていない問題がある。 医療方法特許は患者や病院にも利益をもたらす 医療方法特許は,製薬企業のみならず,患者や病院にも利益をもたらすだろう。患者にとっては,(1)特許取得と医薬品の製造承認を得ることによって保険を適用しながら高度で身体への負担の少ない医療を享受できる,(2)今まで日本国内では大学病院などでのみ行われていた「培養皮膚の移植」などの高度な医療を,日本国民が世界にさきがけて,日本全国の病院で受けることが可能になる,(3)これらの高度な医療方法を,日本発の技術として,世界に普及させることができるなど,といった利点がある。また,病院にとっては,患者が期待する新しい療法を提供することで,患者からの信頼を一層高めることができる。 例えば,高度な医療方法について特許権を得た場合,(1)他者への実施許諾に際し高いライセンス料を設定すると医療費が高騰するのではないか,(2)訴訟が増加することによって医療行為全体の実施の制約とならないか,との懸念も表明されている。 これらは,十分に検討したうえで,患者の視点に立って,医師の医療行為が特許侵害にあたらないとの例外事項を規定した上で,医療方法特許を認めるべきだと,われわれは考える。
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