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新規事業の加速のために他社との共同開発を推進 富士フイルムでは,“予防”,“診断”,“治療”というメディカル・ライフサイエンス事業を重点成長事業の1つとしている。デジタルX線画像診断システムなどで診断分野ではすでに実績のある同社だが,「本事業を今後10年間で1兆円ビジネスにするという目標のもと,予防と治療の分野へ進出した」(富士フイルムR&D統括本部知的財産本部長 浅見正弘氏)。2004年1月にライフサイエンス研究所を設立し,2005年4月にはライフサイエンス事業部を設立した。2006年9月には同社で初となる化粧品やサプリメントの販売を開始し,ヘルスケアの分野にも進出した。これらは同社にとって新たな分野であるが技術的にまったく異なる分野ということではなかった。同社はフィルム用途にゼラチンの研究を永年続けている。ゼラチンはコラーゲンから抽出されたタンパク質であり,フィルムの酸化防止の技術がコラーゲンを多く含む肌細胞の老化防止の技術に繋がっている。 同社は創薬分野にも積極的に進出している。2007年には米Cangen Biotechnologies, Inc.と共同で頭頸部のガンを対象とした抗がん剤の開発に着手した。これも基礎となるのはゼラチン技術であり,同社はヒトゼラチン遺伝子を用いた遺伝子工学手法でヒト由来ゼラチンと同じ組成を持つ「ヒトリコンビナントゼラチン」の量産技術を開発している。自社で不足する部分に関して他社との共同開発を選択した。これに関して同社の知的財産本部では,Cangenとの研究開発に関わる知財,ライセンス状況などの調査を担当した。
富士フイルムのメディカル・ライフサイエンス事業強化の動きはこれだけではない。その一例が2008年2月に発表した富山化学工業の買収と大正製薬との協業である。富士フイルムは,この2社との連携によって治療分野の強化を図る狙いである。富山化学工業は,研究開発を重視した新薬開発メーカーであり,インフルエンザ治療の新薬「T-705」やアルツハイマー治療薬などのパイプラインを多数保有している。ライフサイエンス事業の強化を図る富士フイルムにとって富山化学工業を買収する意義は大きい。富士フイルムは富山化学工業のTOB(take over bid:株式の公開買い付け)を実施した。富山化学工業は増資による資金を投資することで研究開発のスピードアップを図る狙いである。大正製薬は医療用医薬品分野を強化する目的と消費者向け特定保健用食品などの“セルフメディケーション事業”において富士フイルムと協業を模索する。 この動きに関して知的財産面からは,富山化学工業の技術と特許ポートフォリオが分析された。分析の主な視点は(@)知財価値評価,(A)保有技術に関する知財リスク,(B)知財関連組織力,などである。 (@)は特許権を技術と事業の両面から評価し,インパクトをランク付けする作業である。(A)は保有技術の保護が十分であるか,また,他社との契約でM&Aにより不利な状況が生じないか,などといったリスクの確認である。(B)は買収対象企業の知財部門の人材や活動の内容を確認する作業である。 重点成長事業であるFPD材料事業とヘルスケア事業 富士フイルムグループは,写真関連の“イメージングソリューション”,医療用画像診断,FPD(flat panel display)用材料などの“インフォメーションソリューション”,グループ企業である富士ゼロックスによるコピー機器などの“ドキュメントソリューション”の3つのソリューションを展開している。特にインフォメーションソリューションの売り上げは,2001年度の6,853億円から2007年度の1兆1081億円と7年間で約1.6倍になっている。これをけん引しているのが世界の市場シェア8割を誇る液晶テレビ用材料の偏光板保護用TAC(セルローストリアセテート)フィルムや独自技術である液晶ディスプレイの視野角を拡大するWV(wide view)フィルムなどである。同社の事業分野は機器,機能性材料,ソフトウエア,ライフサイエンスなど多岐にわたる。 知財で企業の活動を広く支援 同社の知的財産本部は,知財活動を“全社のあらゆる企業活動を下支えするもの”と捉えて活動している(図1)。研究開発段階では,自社の研究開発成果はもちろんのこと,企業間連携や産学連携による共同研究から生まれる発明を権利化する知財創生に注力している。大学との連携も東京大学を始め多くの国立大学との間で行なわれ,東京農工大学とはライフサイエンス分野や機能性材料分野などで包括提携している。知的財産本部は,共同研究の成果をいかに資産化していかに双方に利益を生むかを考えて産学連携業務に当たっている。事業化段階では,取得した権利を活用した権利行使,標準化の利用などで他社の参入を防止する障壁を構築する。他社とのアライアンスが必要な場合には特許ライセンスの授受が重要な役割を果たす。特許ライセンスからのロイヤルティによる収益も重要な知財活動の成果であり,既存事業や新事業のための研究開発への再投資に活用する。こうしたサイクルの有効な繰り返しが企業活動の発展に繋がる。「知財は事業を技術などの無形資産の側から支える存在であり,事業の各段階に深く関連する。すべての段階で知財活動を活性化し,企業価値向上を目指す」と浅見氏は知的財産本部の活動ポリシーを語る。 ![]() 事業に有効な知財の創造に特化した知財本部の活動 知的財産本部は,全社の研究開発を統括する「R&D統括本部」に属しており(1)知財技術部,(2)知財法務部,(3)工業標準室,(4)知財業務グループ,の4部門で構成されている。 (1)は知的財産本部最大の部門である。部員の大半は,各事業場(工場や研究開発の現場)に常駐している。ここでは事業場所属の研究者,技術者が生み出す発明を有用な知的資産とすべく,部員が特許出願および,権利化を進める。製品の事業化に際しては,それらをカバーする特許マップの作成などを適時行い,事業の妨げとなる他社の特許を調査して対策を講じている。研究開発に関連する学術論文などの文献調査を始めとした技術情報調査も同部門の重要な業務である。(2)は知財関連に特化した法務業務を担当する部門である。ライセンスや共同開発などの契約実務,侵害訴訟などの各種係争への対応などがこれに該当する。(3)は画像処理技術や画像保存性,などといった自社技術をもとに,ISOなどの工業標準化に貢献すべく活動する部門である。(4)は知的財産本部内の経費管理等,総務全般を担当する部門である。 幅広い権利を取得するための戦略的発明生産活動 知的財産本部では,発明者を刺激し,発明を生みやすくするために“戦略的発明生産活動”と称した活動をしている。その主な視点が(a)技術融合,(b)課題発掘,である(図2)。 (a)に関しては,同社の技術分野も事業分野と同様に多岐にわたるため,発明は複数の分野向けに権利化することが求められる。周辺分野や関連分野などの技術の融合を図り,発明を幅広い特許権として取得する活動である。 (b)に関しては,製品開発における解決すべき課題を中心に研究開発部門から発明を引出す活動である。ある発明は課題を解決する方法の1つであるが,方法は1つとは限らない。分かりやすい例でいうと,車の燃費を向上させる方法に“エンジンの燃焼効率の改善”が挙げられるが,別の視点では,車体を軽くするための新材料の開発や車体構造の改良も1つの方法である。知的財産本部は課題に対する多様な解決手段を検討し発明に結びつけること,を研究開発部門に対して提案する。「われわれの保有技術は多岐に渡ることから,1つの課題に対して複数の解決手段を見出すことが可能である」(浅見氏)。 ![]() |
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