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金融機関・商社を通じて地域中小企業に知財を技術移転
外部資金導入の施策を講じる名古屋大学

[2008/10/20]

名古屋大学 連携推進部長・教授 武田穣氏
名古屋大学
連携推進部長・教授
武田穣氏

 名古屋大学は,日本の大学No.1の圧倒的な特許実施料収入を誇っている(文部科学省調べ・2005年度のデータ)。これは,同大学工学部教授である赤崎勇氏(現特別教授)の青色発光ダイオードの特許群によるところが大きい。同大学に大きな利益をもたらした当該特許群であるが,基本特許はすでに消滅しており,関連特許も今後徐々に消滅していく。特許実施料収入が激減する同大学では,新しい収入源を求めて独自の産学連携を模索している。その結果,同大学が積極的に進めている手法が,“金融機関などを経由した中小企業への技術移転・共同研究”と“国際的な産学連携”である。同大学は,2008年8月までの4年間で11社におよぶ金融機関・商社と連携しており,同大学の産学連携の大きな特徴の1つとなっている。これらの連携手法が同大学に与える効果や目的を見ていく。

(まとめは品田茂=日経BP知財Awareness編集)


期限が切れる“赤崎特許”が大学経営に与える影響
 名古屋大学の特許実施料収入の大半を占めていた赤崎氏の青色発光ダイオードに関する特許は,同大学および共同の権利者である科学技術振興機構(JST)にこれまで約50億円の特許実施料収入をもたらした。特許を取得したのは1992年,大学に特許料収入が入り始めたのが1995年である。赤崎特許による収入も年々減少してきており,数年後にはゼロになる予定である(図1-1,1-2)。

 図1-1:大学の実施料収入の推移
図1-1:大学の実施料収入の推移

 図1-2:2005年度特許実施料収入ランキング(単位:百万円)
図1-2:2005年度特許実施料収入ランキング(単位:百万円)



 同大学の産学連携活動を統括する「産学官連携推進本部」では,(1)外部資金(注1)獲得による収入増,(2)コストの削減,といった経営の概念を取り入れた運営を心がけている。(1)に関しては,主に同本部に2006年4月に設置された「連携推進部」の業務である(図2)。同本部は,この収入の一部を人材の雇用や活動経費に充てている。連携推進部長・教授の武田穣氏は,外部資金をさらに増やす施策を講じた。それが,“金融機関などを経由した中小企業への技術移転・共同研究”であり,国際連携部で実施している“国際的な産学連携”である。
 その結果,共同研究・受託研究による外部資金額は,2005年度の約35億円から,2007年度には約59億円にまで増加した。このうち,連携推進部がコーディネートした新規外部資金収入は,2007年度は約6億5千万円であった。

 図2:名古屋大学の産学連携推進体制(2008年4月1日現在)
図2:名古屋大学の産学連携推進体制(2008年4月1日現在)


中小企業への技術移転などで大学の収入が増加
 同本部では,中小企業を主な対象とした産学連携を開始した。その理由は,(ア)大企業が大学と連携する最大の目的が技術移転ではないこと,(イ)大学の研究をすぐに実用化できる市場がほとんどない,(ウ)小規模な市場も中小企業にとっては十分な規模,の3つである。
 (ア)に関しては,大企業が大学に求めるものは第1に先端研究の探索や学生のリクルーティングなどであり,技術移転が主な目的ではない点である。
 (イ)に関しては,大学の研究は基礎的なものが多く,事業化するには応用研究が必要である。数10年後に開花するものが多く,開花せずに終わる研究もある。例えば,世界各国でiPS細胞などの“再生医療”分野の研究が活発であるが,実用化までには時間がかかる。潜在的な市場は非常に大きいが,現時点で市場規模は小さく,大学への収入という視点でみるとほとんど期待できない。
 (ウ)に関しては,大企業は経営の効率を重視するため,小規模な市場を狙うことはない。中小企業であれば,そのような小規模な市場であっても事業規模に見合う市場といえる。事業の進展にともない市場規模が大きくなる可能性もある。「中小企業向けに技術移転や共同研究を推進することが大学の収入増に結び付く」と武田氏は中小企業との産学連携の意義を語る。

地域の中小・ベンチャーと関連の深い金融機関と連携
 中小企業への技術移転を強化する方針を打ち立てた同大学は,地域の中小・ベンチャーの情報を持っている地域金融機関との提携を推進した。
 中小企業は,事業を展開するにあたって金融機関に融資を申し込む。金融機関は当該企業を評価した上で融資するが,ビジネスの障壁となる“技術的課題”には対応できない。そこに大学への技術相談ニーズが生まれる。2006年度は273件の技術相談を受けた。「どんな相談でも必ず一度は直接話を聞き,回答する。その後,われわれが紹介した教員と共同研究に進むケースも増えている」(武田氏)。

商社からの技術相談にコーディネータがチームで対応
 2007年2月,同大学は豊田通商と産学連携協定を結んだ。同社は,取引先企業の課題などを抽出,解決して新事業を創出する「アイ・プログラム」を進めている。課題には技術的なものもあり,大学の協力が必要であった。従来から,同社は同大学と個別の分野で連携していたが,異分野(学部・学科)の技術融合が必要な課題が多かった。今回の協定によって,同大学の異分野のコーディネータがチームを組んで課題に対応している。
 2008年9月までに8件の相談があり,6件がFS(feasibility study:事業可能性の評価・検証)に進んだ。このうち4件で共同研究が進行している。

米国にNPOを設立して国際連携の足がかりに
 同大学は,文部科学省の大学知的財産本部整備事業の1つである「国際的な産学官連携の推進体制整備」に採択され,2007年3月,同本部内に「国際連携部」を新設した。同大学の海外進出の目的は,(T)現地企業・研究機関との連携,(U)日本企業の現地窓口,の2点である。
 (T)に関して国際連携部は,米North Carolina(NC)州に現地法人であるNPO(Nonprofit Organization)「名古屋大学テクノロジー・パートナーシップ」を設立した。NC州でビジネスの経験がある人材を“特任教授”と“特任助教”に任命して派遣している。同NPOの拠点はNC州商務省内にあり,州政府との強いパイプを構築している。米国との恒久的な連携システムを構築することが同NPOの使命である。「名古屋大学はバイオ関連の研究が強く,中部地域は日本有数のバイオ・クラスタが存在する。NC州には米国第3のバイオ・クラスタが存在する。他の日本の大学も進出しておらず,連携する条件が整っている」(武田氏)。
 (U)に関しては,(@)名古屋大学や中部地区の他大学の特許を現地企業へ技術移転する,(A)中部地区を中心とした日本企業を現地企業に紹介する,ための現地窓口になることである。(@),(A)はともに成功報酬を得る形になっている。

注1: 外部資金とは企業との共同研究や受託研究などによる収入が該当する。




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