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立地条件を生かして研究所と密に連携 出光興産の知的財産部は社員41名,知財データを専門に管理する派遣社員12名の計53名で構成されている。活動拠点は丸の内にある本社と千葉県市原市にあるグループ知的財産センター(以下知財センター)の2箇所である。本社には,8名の部員がおり,企画,渉外などの業務を担当している。知財センターは千葉県市原市にある。同社の各研究所は千葉県市原市に集中しており,スピードが要求される知財業務は,研究所に近接した場所で活動したほうが効率が良い。ここには33名の部員と派遣社員が常駐しており,特許出願から権利化,特許情報の管理,特許相談,知財データの提供などを行っている。33名の部員のほとんどは,研究開発に従事した経験を持っており,技術に詳しい。 同部は研究開発の初期段階から関わっている。研究テーマに関する業界の知財情報を研究所に提供し,これらの情報を基に研究所と議論しながら共同で知的財産戦略を立てる。同部は,研究の段階が上がるたびに異なった視点の知財情報を提供している。「研究所の会議にはわれわれのメンバーが同席し,研究開発の進捗を常に把握している」と同社知的財産部長の山本文忠氏は語る。 派遣社員は,主に特許に関するデータを集計し期限管理を行っている。同社は,国内で約1,500の特許権と海外で約2,300の特許権を持っている。毎週数件は,権利を維持するための“特許年金”の納付期限を迎える。これ以外にも審査請求期限や拒絶理由通知に対する意見書や補正書の提出期限など,期限管理は知的財産部の必須の業務である。部員は研究所と密に接しているため,各案件の詳細なスケジュールを把握するのは難しい。派遣社員は,数千件の特許を専門で管理している。「特許は企業にとっての宝。その宝を管理するわれわれにミスは許されない。徹底した管理によってミスを防いでいる」(山本氏)。 知財戦略のために法律・技術・事業の知識を強化 同部の部員は,41名中10名が弁理士である。正社員に占める弁理士の割合が多いのが同部の特徴である。同部では今後も高い専門能力を持った人材を育てて行く方針であり,弁理士を増やしていくのもその延長線上にある。「知財業務は技術に詳しいことも当然だが基本は法律。法律を固めた上で知財戦略を立てる必要がある」と山本氏は法律面のスキルを強化する意義を語る。 今後の同部の活動について山本氏は2つの課題を挙げた。(1)研究所との人材ローテーション,(2)事業感覚を身に付けること,である。 (1)に関しては,“高付加価値事業”である電子材料分野やアグリバイオ分野は同社にとって比較的なじみのうすい研究開発分野である。「われわれが高付加価値事業で業務を円滑に進めるためには,研究所との人材のローテーションや交流を増やす必要がある」(山本氏)。 (2)に関しては,現時点で事業部に籍を置いていた経験があるのは山本氏のみである。「事業感覚をどうやって養成していくかが今後の課題の1つである」(山本氏)。 業務の“見える化”を図って知恵を結集 同部では,業務の質を向上させるために,日本能率協会コンサルティング(JMAC)のコンサルティングを受けている。これによってJMACの提唱する“KI(knowledge intensive staff innovation plan)”という考え方を導入・実践している。KIとは業務の“見える化”を図り ,計画管理,アウトプットの共有化によって業務の質を高め,仕事を変革する方法である。 これまで同部では,1人の担当者が案件のすべての業務をこなしていた。したがって,“他の部員が何をやっているのか”が見えていなかった。これでは,修得した知識や培った経験が個人に留まり,組織として総合力を発揮することはできない。1人でできることには限界がある。同部では,現在の業務やゴールのイメージを部内で共有し,課題に対してチームで取り組むことによって知恵を結集させるよう取り組んでいる。 知財教育プログラムで研究者の知財意識を向上 また同部は,研究者に対する知財意識と知識の向上を図る目的で,知財教育プログラムを実施している。年に1回,一般研究者向けの5コースとマネージャ向けの1コースの計6コースを開催している。これ以外にも,研究所の研究室単位で「特定分野の知財状況や戦略の考え方を教えてほしい」などの要望がある。これに対して同部が情報を解析して小セミナーを開催する場合もある。2006年度はこれらの研修を43回実施し,延べ1,124名が参加した。 有機ELデバイスの特許網構築によって新事業が拡大 同社が強力な特許網を築いているのが,電子材料分野のうちの有機EL材料分野である。1980年代,出光興産グループは,15年先を見越した長期の新事業を模索していた。この検討の中で,強みと認識していた分子設計技術・有機合成技術をベースに高性能有機EL材料の研究に着手した。当時はチタニア系触媒などの無機分野も候補に挙がったが,最終的に事業化にたどり着いたのが有機EL材料だった。特に,青色蛍光材料は他の企業が実現できなかったこともあり,当初の研究開発目標とされた。発光材料の開発には合成技術だけでなく,物理に関する知識も必要だったため,物理学を専攻した研究開発人員を拡充した。その結果,1997年に実用性能を有する青色蛍光材料の開発に世界で初めて成功した。青色蛍光材料に関しては,現在も市場の大半を独占している。 当時,研究所は有機ELを単なる材料事業で終わらせず,素子製造事業へと発展させるように考えていた。主導は研究所だったが,当時の知的財産センター(研究開発部に所属。2005年に部に昇格)は研究所と共同で素子製造事業まで発展できるような特許網を構築した。実際には,素子製造事業までは展開していないが,「素子製造におよぶ有機ELの特許網がセットメーカーなどとの事業提携交渉に役立っている。材料の特許だけでは競合も多く,今日のような事業展開は不可能だっただろう」(山本氏)。 有機ELは,FPD(flat panel display)テレビや携帯電話への搭載が始まっているが,研究開発競争は今後も続く。この分野の研究開発は,欧米を中心に韓国や台湾の企業の追い上げも激しい。このような状況もあり,同社は積極的に海外へ特許出願している。「有機EL関連の海外出願比率は70〜80%。市場規模が大きい中国への出願も増えている」(山本氏)。 同社は,今日では赤色・緑色蛍光材料に関しても高い市場占有率を誇っており,現在は発光効率の良いりん光材料分野にも進出している。 |
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