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人材育成における社会人大学院と評価指標の役割 上條氏:企業などにおいて,知財を取り扱うことができる人材,戦略的に標準化を考えられる人材をどのように育成すればよいのか。まずは教育の視点から意見を。 杉光氏:企業に注目してもらいたい人材育成・教育手法が,社会人大学院の活用である。金沢工業大学大学院工学研究科知的創造システム専攻の特徴は,理論と実務を高度に融合させている点である。実務の集積から理論を構築したり,学んだ理論を実務に応用するといった“架け橋”の役割を果たす大学院といえる。 2009年4月からは,標準化人材を育成するために,大学院のコースとしては日本初となる「国際標準化戦略プロフェッショナルコース」を開設する。本コースは経済産業省の寄附講座でもある。本コースの特徴の1つは,国際標準化活動に必要な交渉能力を体系的に学ぶ“交渉学”(注1)という新しい学問体系を設置したことである。
一方,人材育成の効果測定として企業が採用し始めているツールとして,知的財産管理技能検定がある。本検定は,経済産業省が策定した「知財人材スキル標準(IPSS)」に準拠した知的財産に関する国家試験である(関連記事)。本検定には,「学科試験」と「実技試験」がある。学科試験は理論に関する問題,実技試験は実務に関する問題内容である。 人材が企業にとって重要な経営資源であることを考えると,人材はマネジメントの対象といえる。人材マネジメントのPDCA(PLAN:計画-DO:実行-CHECK:評価-ACT:改善)サイクルに知的財産管理技能検定を組み込むと,単なる能力の測定だけでなく,育成計画にも使える。 上條氏:経済産業省としては,育成手法をどのように捉えているのか。 藤代氏:国際標準に関与する人材には2種類ある。国際標準化機関などで活動する“標準を策定する人”,と自社技術を標準に組み込もうとする“標準を活用する人”である。 前者への教育の取り組みとしては,日本規格協会でセミナーを実施している。不足しているのは後者への教育である。これに対しては,各企業へ出向いて“出前研修”を実施したり,基準認証担当審議官が企業の経営者層と意見交換し,企業内での標準化人材の必要性を認識してもらうなどの活動をしている。他にも金沢工業大学へ講座を寄付したように,大学などに対してもこうした標準化に関する講座を拡充する予定だ。 中原氏:われわれは,多くの企業の知財部門に対し,人材育成の観点でヒアリングしてきた。知財人材には,幅広い知識と経験が必要である。ある企業では,知財人材は,研究開発部門や事業部門など他部門への人事異動を繰り返して事業全体の視点を身に付けさせ,経験と知識を積んだ上で知財活動に従事させている。知財の現場では,各社が工夫しながら人材を育成している。 知財人材,標準化人材には「法律を変える」くらいのエネルギーを 上條氏:企業では,育成手法をどのように捉えているのか。 大野氏:キヤノンの知財部門は「創造」,「保護」,「活用」,「業務」の4つの部門から成り立っている。知財の面からのリスク情報を揃え,事業責任者が正しく判断できるように進言する義務と責任を持っている。あくまでも事業部門が主体であり,知財部門はサポートする立場であることを常に意識して活動している。 知財業務だからといって特別ではない。知財人材に求められる能力は,他部門の人材に求められる能力と同様に「法律」,「技術」,「語学」,の3つの能力と,これらを活用する知恵と「交渉力」である。交渉力は人材の根幹である。これら共通する能力を土台として,さらに知財部門固有の業務に関する能力が必要になる。このような人材をいかに育成するか,この点は,各社が取り組むべき課題といえる。
当社知的財産部門の場合,新人研修に際し,“技術の理解”,“発明の発掘”,“特許明細書の書き方”,“先行技術の把握”,“特許法とその実務”,などの研修を実施してきた。2005年からは,知財部門がカバーすべき範囲の拡大に伴い,新人研修の手法と目標を変更した。従来の項目に加え,“文章表現”,“交渉”,“知財周辺法”,“経営・研究開発と知財”などの項目を追加した。研修のスタイルも研修参加者の主体性を重視し,講義主体から演習・実習・討論を中心とした。ビジネス全体を俯瞰できる人材を育成するためである。 企業が生き残るためには,市場でイニシアチブを取ることが重要である。「イニシアチブを取るためにはどうすればよいのか」が本当の企業戦略である。最低限必要な能力は「情報の収集・分析」力である。情報の収集には人脈を築くことが不可欠である。表に出ている情報だけでなく,人に潜在している情報も集める必要がある。世界の的確な情報を,人脈を通じていかに得,得た情報を組み込んで企業戦略を立案・遂行することが大事である。これを知財の面からサポートするのが知財人材の役割である。知財戦略であろうと標準化戦略であろうと,「イニシアチブを取るためにはどうすればよいのか」を常に考えることが重要である。この点を履き違えると,その企業はいずれ淘汰される。 知的財産関連法は産業立法としての側面がある。国や企業が産業競争力を強化し,国際競争で生き残るための法律である。知財人材には,「必要があれば法律を変える」くらいのエネルギーが要求される。 上條氏:人材育成によってどのような企業価値がもたらされるのか。また,日本の産業競争力の強化にどう影響するのか。 藤代氏:標準化戦略は,事業戦略や研究開発戦略などと並び立つものではなく,事業戦略や研究開発戦略の一環として存在する。国際標準化活動で重要なのは,自分でルールを策定することである。日本企業は,「ルールは遵守すべきもの」という意識が強いが,ルール策定プロセスを主導して,自分に都合の良いようにルールを作るというやり方が,国際標準化活動では正しいやり方だろう。 中原氏:国際標準を獲得するには,コンセプトや技術をいかに早く提出するかが勝負になる。かつての国際標準化プロセスでは,「日本が技術を揃え,ルールを海外が揃える」ということがあったが,これでは利益が日本に残らず,海外に流れてしまう。国際標準を構成する知財が日本にあるのであれば,企業内で戦略的に取り組み(場合によっては企業間連携し)ながら国際標準にしていける人材が今後強く求められるだろう。 知財人材の育成・評価に,ITを活用した新しいサービスも 上條氏:知財人材・標準化人材を育成した後,評価して適材適所へ配置することが必要になる。 岩藤氏:高い技術力だけでは企業収益に結び付かない。収益を向上させるには,技術を活用し,収益へ反映させる人材が必要である。そこで企業は人材を育成するが,長い時間がかかる。 ITシステムも技術力だけでは,良いシステムは構築できない。日本ユニシスでは,システムを構築するのに,複数のシステム・エンジニアでチームを組む「プロジェクト制」を採る。プロジェクト成否の鍵を握るのが,プロジェクト管理である。 人材育成も,プロジェクト管理と同じことが要求される。人材育成は,企業戦略に応じた要求レベル・人数・期間・配置などを総合的に考慮するが,まず人材の能力を把握することからがスタート地点である。その後,経営戦略に沿って目標を設定する。
IT業界には,経済産業省が2002年12月に公表した「ITスキルスタンダード(ITSS)」が存在する。当社では,ITSSに則って人材の能力を客観的に把握し,戦略的に育成・評価し,人材育成に関してこの手法で成果を上げている。 IPSSは,ITSSを参考に組み立てられたもので,知財分野でもIT分野と同様な育成・効果測定が可能だ。知的財産管理技能検定はIPSSに準拠している。日本ユニシスでは,本検定を運営する知的財産教育協会と共同で,検定合格者である「知的財産管理技能士」向けの“人材スキルマネジメントサービス”というITを活用した人材育成サービスを2009年4月から開始する予定である(図)。本サービスの特徴は,国内外で初となるIPSSに準拠したITツールという点である。試験形式と質問形式によって能力を測りながら,国家試験の過去問題練習や推薦教材による能力向上を図るものである。2009年8月以降,本サービスを拡張し,企業の人材育成マネジメントサイクルを支援するサービスも展開する予定である。
中原氏:経済産業省としても,今後企業にIPSSを知財人材の能力指標として,もっと参照してほしいと考えている。 大野氏:ホワイトカラーの生産性の評価は,いまだに確立されていない。知財人材の評価も同様である。現時点では,成果で測るしかない中で,当社でも独自に評価指標を準備している。しかし,知財部門で扱っているのは無体財産であり,成果が形として表れにくいことから,定量的な面と定性的な面の指標を用意している。しかし,指標としてはまだまだ不十分であり,日々指標を改善している。トライ・アンド・エラーで少しずつ評価の完成度を高めていくしかないと思っている。そのために,先程紹介のあったITを活用した新たなサービスの導入も,トライする価値はあろうかと思う。 ホワイトカラーの生産性は,「専門性をいかに高めるか」,そして「専門性の尺度とは具体的にどんなものか」という観点で,人材評価指標を世界に先駆けて確立していけば,日本企業は生き残ることができるだろう。 杉光氏:知財業務はすぐに成果がでるものではなく,5〜10年という中長期で成果が判明する可能性もある。能力で評価できるならば,能力も評価項目に入れるべき,というのがIPSSの理念である。 知的財産管理技能検定に関しては,大企業だけなく,知財部門を持たない中小企業にも有効と考えている。
注1:交渉学とは
交渉学とは,米国ハーバード・ロー・スクールが1978年から開始した学問である。双方の利益を一致させ,Win-Winの関係を成立させることを目的とする。共通の利害を見つけ,それに基づく合意形成と,利害の対立に対しては客観的で公正な基準に基づいて解決する。 シンポジウム「知財スキルと標準化〜グローバル戦略のための人材マネジメント〜」(上) 巨大市場に潜む矛盾と新たなビジネスチャンス グローバル戦略,標準化活動には競合他社との協調も必要 シンポジウム「知財スキルと標準化〜グローバル戦略のための人材マネジメント〜」(中) 事業のグローバル化で多様化する知財業務,人材育成にIPSSを活用 シンポジウム「知財スキルと標準化〜グローバル戦略のための人材マネジメント〜」(下) 知財人材マネジメントに評価指標とITツールを有効活用 |
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