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中国特許法が8年ぶりに改正
日本に与える影響を読み解く
[2009/06/01]

 2009年10月,中国は改正専利(特許)法を施行する。中国がWTOに加盟して以来8年ぶりの大きな法改正となる。中国の改正専利法は,世界的に問題となっていた「絶対的新規性基準」や「公知技術の抗弁」などが導入され,他国との制度調和を図りつつある。しかしながら,日本企業が中国でビジネスを進めるには実務上注意すべき点が依然として残されている。JETRO北京センターの所長を務めるなど中国の知的財産に詳しい日高東亜国際特許事務所所長の日高賢治氏に聞いた。

(聞き手は品田 茂=日経BP知財Awareness編集)


審査をクリアしなければ海外出願できない
 近年,中国に研究開発拠点を設置し,中国人研究者を雇用する日本企業が増えている。従来,中国企業(外資との合弁企業を含む)や中国人が中国で完成した発明は,まず中国に出願してからでなければ外国に特許出願できなかった。
 改正専利法20条では,中国への第一国出願に関する義務は撤廃されたが,中国で完成した発明は,日本の特許庁に相当する「国務院専利行政部門(国家知識産権局(SIPO))」の「機密審査」を経てからでなければ海外に出願できなくなった。現時点で,運用の詳細は明らかではないが,本条は発明者や企業の国籍は関係なく適用されるものと推測される。可能性としては,例えば中国からの情報流出を恐れる「軍事転用可能な発明である」と当局が判断した場合,海外への出願を認めないことも想定される。本審査を経ないで海外に勝手に出願した場合,中国では特許権を与えられない。
 中国には国防に関する特許を公開しない「秘密保持特許制度」(専利法実施細則8条)がある。これを適用すれば出願内容を公開しないことも可能である。こうすれば海外企業が発明内容を知ることができない。
 20条と同様に重要なのが10条である。10条は,中国単位あるいは個人が,外国人に専利出願の権利あるいは専利権を譲渡する場合,関連する法律,行政法規の規定に沿って手続きを行い,かつ契約を登録する必要がある旨を明文化している。これも20条と同様に関連法規及び運用の詳細は明らかでないが,私権である特許権の譲渡契約に,どうして外国人への譲渡に対してのみこうした義務を課すのであろうか。その意図は不明であるが「中国にとって何らかの不利益がある」と判断する場合,譲渡を認めない可能性があると考えておくべきであろう。
日高東亜国際特許事務所所長 日高賢治氏
日高東亜国際特許事務所所長
日高賢治氏

日本企業のリスクが拡大
 48条は,権利者が特許権や実用新案権を取得してから3年以上実施していない,または実施が不十分な場合,SIPOが実施許諾を申請した者に対して強制的に実施権を与える制度である。この段階で同規定を法律に明記した目的は,中国が本制度を有効に使うためと見るのが自然であろう。日本法にも同様の制度があるが,今までに一度も発動したことがない。90年代以降は,日米構造問題協議での米国との合意があるためでもある。
 本制度に関して日本企業が気をつけなければならないのは,中国の「技術輸出入管理条例」(注1)である。本条例の24条と25条は中国側ライセンシの保護が目的である。本条例によれば(1)実施許諾した特許に瑕疵がないこと,(2)ライセンシが技術目標を達成できること,の2点をライセンサが保証する義務がある。
 (1)に関しては,ライセンシが実施許諾された特許に関して第三者から特許権侵害訴訟を起こされた場合,ライセンサはライセンシに協力して共同で対応する。しかし,侵害が確定した場合はライセンサが単独で責任を負わされてしまう。
 (2)に関しては,特許権だけでなく,技術の実施に必要なノウハウ(営業秘密)の開示を迫られる。
 その他にも当該技術輸出入管理条例にはライセンサに不利な条項が存在するが,この二つの法律によって,日本企業は,特許を保証するリスクと中国企業に特許やノウハウを強制的に使われるリスクを負ってしまう。

特許性の判断に外国での公然実施が追加
 22条は,以前から世界各国が中国に修正を求めていた点である。日本や米国では,発明が国内外のどこかで公に実施されていた場合,その発明は特許の判断基準の一つである「新規性」を否定され特許権を取得できない。しかし,中国は,「国内での公然実施」のみで新規性を判断し,「海外での公然実施」は判断に含まなかった。改正専利法では,海外での実施も新規性の判断に含むようになった。世界のスタンダードに足並みを揃える形である。
 ここで問題になるのが,「海外での公然実施の証明」である。証明するためには,実施した事実を公正証書を作成して中国大使館で認証を得る必要がある。認証を得ないと裁判などで証拠として認められない。展示会への出品やパンフレットなどへの掲載だけでは証拠として認めてもらえない可能性があり,これは日本企業にとって大きな負担となる。しかし,証拠を揃えれば権利行使が可能になる点で,中国の一定の譲歩が見られる。

意匠は積極的に中国出願して侵害を防げ
 23条は,意匠権の判断基準に関する条文である。意匠権の判断基準の一つである新規性に関して,従来は国内実施のみであったが,改正専利法では海外での公然実施が判断に含まれるようになった。これによる利点は冒認出願(注1)が防止できるようになったことであるが,だからと言ってデザイン模倣そのものを防止する効果があるわけではない。さらには,冒認出願対策として日本国内での公然実施の証明方法については,上記発明の場合と同様の問題がある。
 また中国の特徴的意匠権問題として「乗用車のデザイン模倣」がある(関連記事)。中国企業が,他社自動車の一部分を模倣し,数社の各部分を組み合わせて一つの車に仕上げる,いわゆるハイブリッドコピーである。日本であればこういった意匠権侵害に対しては「部分意匠制度」(注2)に基づいて対抗することが可能だが,中国ではこの制度がないため,部分を模倣した車の製造者を意匠権侵害で訴えることができない。諸外国は,中国に部分意匠制度を導入するように働きかけてきたが,残念ながら今回の改正専利法でも部分意匠制度は導入されなかった。
 なお,同じく意匠権の判断基準の一つである「進歩性」に関しても23条で明文化されたため,中国企業によるハイブリッド意匠権を無効にすることが可能となった。ただし,権利化できないだけで製造は自由であるため,本質的な問題解決にはなっていない。
 意匠に関しては,依然として多くの問題が残されているものの,とにかく積極的かつ優先的に中国へ出願するべきである。中国国内では,デザイン模倣については意匠権に基づいて侵害に対抗する他ないからだ。中国企業が侵害商品を輸出した場合には,デザインが不正競争防止法などで保護される国においては,その制度を利用して輸入を差し止めればよい。


注1:冒認出願
冒認出願とは,発明者でない者や特許を受ける権利を承継していない者が出願した特許・商標・意匠などのこと。中国では意匠出願が容易であるので冒認出願が多数存在する。

注2:部分意匠制度
部分意匠制度とは,物品の一部分の形状などを意匠権として登録する制度。現行の中国知財関連法には部分意匠制度がないため,数社の部分意匠を組み合わせて一つの自動車として構成した場合,違法にあたらない。これに対し,部品単位で意匠登録していれば当該模倣部品に対して権利を行使できるが,中国企業が当該模倣部品の意匠を変更してしまうと,違法ではなくなる。




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