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藤森涼恵の知財show me the money


知財Show me the money
第1回:特許オークションで稼ぐ

[2009/06/22]

 このコラムでは知財で「稼ぐ」ために,米国における知財活用・管理の最新情報をお届けする。日本では知財経営といわれて久しいが,今ひとつ盛り上がらないのは知財に力を入れることで「いくらもうかるの?」という金勘定が議論されないことが原因の一つではないだろうか。金勘定が入らない話は経営層には響かない。われわれ知財サービス業者も「これをすることでいくら利益が増える可能性があります」と言えなければお客様に話を聞いていただけない。ここでは知財で稼ぐことを本音で議論していこう。

(藤森涼恵=Ocean Tomo, LLC. Director)


「はい,後ろの席の方から20万米ドルが挙りました。30万米ドル,いませんか?はい,電話入札30万米ドル。40万米ドルは?後ろの席の方,40万米ドルはどうですか?はい,有難うございます。では50万米ドルの方は?」オークショニアがテンポよく取り引きを進めるのは,美術品ではなく特許権だ。過去,「水面下での取り引きが常識」とされた特許権が公開の「オークション市場」で初めて取り引きされたのは2006年4月。この公開オークション市場を創設した米Ocean Tomo, LLC.ではこれまで9回のオークションを年3回のペースで実施し,総額9000万米ドル(=約90億円)近い取り引きを成立させてきた(図1)。この成功から「オークションという形態が特許取り引きにおいて有効である」と立証され,欧州,アジアでオークションを実施する機関がOcean Tomo以外にも散見されるようになった(図2)。

図1:落札事例
図1:落札事例

図2:オークションの様子
図2:オークションの様子


 オークションに特許を出品するのは,過去,大手企業と対等に話せなかった個人発明家やベンチャー企業はもちろん,事業撤退,事業方針変更のため使用しなくなった特許を処分したい大手企業まで様々だ。特に大手企業にとっては「売れて研究開発投資が回収できたら儲けもの,売れなかったら放棄する」という一つの意思決定機能としての役割も果たしているようだ。また米国では寄付による税金控除が大きいため,大手企業が「売却益を寄付する」という前提で未使用特許をオークションで処分する場合がある。このあたりが米国企業はうまい。そういう前提で出品しCSR(corporate social responsibility:企業の社会的責任)を向上,市場での印象を良くしてロイヤル顧客を増やし売上増につないで「稼ごう」というところか。

 面白い出品例を二つ紹介しよう。一つはアメリカ航空宇宙局(national aeronautics and space administration:NASA)のケースだ。NASAの技術は政府の資金で開発されたものであり,民間に活用させるといっても相手が誰でも良いわけではない。通常は,誰がどこでこの技術を使用するか,技術移転先を選ばなくてはならない。ところがオークションはオープン市場であり,誰が入札して購入するかが分からない。そこでNASAは「このような条件をつけてくれれば出品できるが,どうだろうか?」と主催者であるOcean Tomoに具体的な提案をした。NASAというブランドがオークション市場の発展に多いに役に立つと考えたOcean Tomoは,NASAの出品ロットについてこの特別の出品条件を受け入れた。NASAの能動的アクションがあって実現した出品だ。単に「この条件では出品できない」ということで終わっていたなら,これは実現しなかっただろう(図3)。

図3:オークションの様子
図3:オークションの様子


 もう一つはデジタル圧縮技術特許にかかわる巨大特許ポートフォリオ売却の例だ。このポートフォリオは激しい競り合いの結果,500万米ドルを超える巨額の入札により落札された。この出品者,実は「この特許ポートフォリオを売ってほしい」と水面下でアプローチされたのがオークション出品のきっかけとなった。「ぜひ売却益は確保したい。とはいえ,水面下での売却が業界関係企業に迷惑をかけないだろうか。だったら水面下で処分するよりも公の場に出し,欲しいと思ってくれるかもしれない他の企業にも購入の機会を提供して,自社の社会的責任を果たした上で収益を確保すべきではないか」と考えた結果,オークションという公開市場への出品を決定したとのことだ。

 オークション市場で稼ぐ,といっても形も動機も様々だ。一見,出品できない条件であってもNASAの例のように能動的に働きかければ出品できる条件に変わりうる。道義的責任を果たしつつ稼ぐツールとして使えば2度おいしい。「正しく稼ぐ」ことの実現を目指す本気度がオークションというツールの可能性を無限に広げる。使い手によりその有用性に雲泥の差が出るからこそ,面白い。

■ 補足 ■
 Ocean Tomoのオークション事業を含む知財流通仲介部門は2009年6月15日付で英国の大手金融機関ICAPに買収され,新たに設立されるICAP Ocean Tomo社として知財流通仲介事業を継続する。大規模に金融商品を扱うスキルを持つICAPとの融合が,オークション市場を含む知財流通市場の拡大に資することが期待されている。




藤森涼恵(ふじもりすずえ)
藤森涼恵氏Ocean Tomo, LLC. Director,ニューヨーク州弁護士

 1992年京都大学法学部卒業。1999年New York UniversityのロースクールでLLM(Master of Laws)を取得。1992年松下電器産業株式会社に入社,法務部門にて米国知財侵害訴訟,知財ライセンス案件,技術提携案件,技術規格設立案件などを担当。松下電器在職中にニューヨークのWeil, Gotshal & Manges, LLPに外国人インターンとして勤務,訴訟案件を担当。2002年に経営コンサルティングのMcKinsey & Company, Inc.に移り,様々な業界におけるマーケティング立案,製品開発立案,リテール戦略立案などのコンサルティングを提供。現在,Ocean Tomoのシカゴ本社にて日本市場のニーズに合わせてサービスを提供するジャパン・サービスを担当すると同時にアジア市場全体を総括。知財ポートフォリオの定量的評価,知財棚卸支援,知財売買支援,研究開発戦略立案,知財活用・管理戦略立案などを提供している。




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