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前川有希子の米国特許Insight

米国で議論が再燃するビジネスモデル特許
Reed SmithLLP (*現在は、Snyder, Clark, Lesch & Chung, LLP所属)
前川有希子

[2009/07/01]



ビジネスメソッド特許の傾向
 いわゆる「ビジネスメソッド特許」(日本では通称,ビジネスモデル特許)と呼ばれている特許は金融,ビジネス,マネジメント,コスト/価格決定などに関するデータのやり取りのプロセスに関する特許である。1998年,米連邦高等裁判所がビジネスメソッドに特許性を認めたといわれるState Street Bank & Trust Co. v. Signature Financial Group, Inc.裁判(StateStreet Bank裁判)以後,ビジネスメソッド特許がブームとなり,多くのビジネスメソッド関連特許が出願されてきた。表1はビジネスメソッドとして分類される出願件数および認可件数の推移を示す。2001年の認可率は45%であったが,徐々に低下し,2007年には22%に低下している。2007年の全分野の特許認可率が51%であることからみても,ビジネスメソッド特許の取得は難くなっていることが分かる。

表1:米国におけるビジネス特許の推移(米国特許庁による2009年1月時点でのデータ)
表1


最高裁がビジネスメソッドの特許性を再考することを決断
 2008年10月,Bilski裁判において,米連邦高裁はStateStreet Bank裁判の判決を覆し,ビジネスメソッドが特許の対象となるか否かを判断するためより厳しい基準を示した。StateStreet Bank裁判以後,米最高裁判所はビジネスメソッドの特許性に関して触れなかったが,Bilski氏の上告を受け,いよいよ米最高裁が「ビジネスメソッドが特許の対象となり得るか」を再考することになった。

特許の対象となる発明とは?
 米国特許法101条において,特許の対象となる発明とは,新規かつ有益な(1)プロセス,(2)機器,(3)製造,(4)組成物,とされている。一方,米国特許法100条では“方法(メソッド)”も”プロセス”に含まれるとしているが,どのような方法が101条でいうプロセスに含まれるかということがしばしば問題になっていた。
 これまでの裁判で米最高裁は,人間の作ったものは何でも特許の対象となり得るが,(a)自然法則,(b)自然現象,(c)抽象的概念,は特許の対象とならないとしてきた。特に,抽象的概念しか表わさない“数学的アルゴリズム”は特許の対象とならないとしてきた。たとえば,1972年のBottschalk v. Benson裁判で米最高裁は,請求項に記載された「2進法にコード化された10進法数値を純粋な2進法数値に変換する方法」は,抽象的すぎ,一般的なあらゆるコンピュータに適用できるので,特許の対象にならないとした。一方,1981年のDiamond v. Diehr裁判で,ある数式を用いてゴム成型プレスの制御を行う方法の特許性が問題となったが,米最高裁は,「抽象的な数式に対して特許は得られない」としつつも,数式を実行してある機能を果たす構造やプロセスは,特許の対象になり得るとした。
 1998年のStateStreet Bank裁判では,投資信託のためのデータ・プロセス・システムが特許の対象となるか否かについて争われた。米連邦高裁は,そのデータ・プロセス・システムは数学的アルゴリズムを用いているが,特許の対象になると判断した。その根拠は,発明が抽象的アイデアでしかない数学的アルゴリズムのみから成るのではなく,発明たるシステムにおいてデータの転送が具体的な金額を示し,かつそのシステムが“有益,具体的,有形な結果”(useful, concrete, and tangible result)をもたらすからであるとした。以後,プロセス/方法が特許の対象となるか否かを判断する上で,“有益,具体的,有形な結果”をもたらすかどうかが重要な基準(useful,concrete,tangible result test)となった。
 しかし,米連邦高裁はBilski裁判において,StateStreet Bank裁判で提示された上記の基準を適切でないとし,より厳しい基準を提示したのである。Bilski氏が特許出願した発明は,固定価格で販売される商品に伴う消費リスクを管理するための取引方法である。米連邦高裁は,プロセス/方法が特許の対象となるためには,(@)特定の機器と結び付いているか,あるいは(A)物質を異なる状態あるいは異なる物に変化させるものでなければならないとした(machine-or-transformation test)。
 米連邦高裁は,Bilski氏の方法が特定の機器と結び付けて記載されていないこと,また,物理的なものあるいは物理的なものを表す電気信号の変換が記載されていないので,全体として単なる“心理的プロセス”を記載しているに過ぎず,101条における“プロセス”に当てはまらないので,特許の対象とはならないと判断した。ただし,米連邦高裁は,machine-or-transformation testが特許の対象か否かを判断するための究極のテスト法ではないことを認識しており,最終的には米最高裁が特許性の判断基準(テスト法)を決めるであろうと述べている。

産業界の意見(金融,ソフトウエア,バイオ)
 ビジネスメソッドの特許性に関する判決は様々な産業界に影響を与えているが,各産業界でも意見が分かれている。以下が米連邦高裁における裁判の際に出された各業界の意見である。
 ビジネスメソッドの特許性と最もかかわり合いがあるのが金融業界である。大手金融業である米American Express Companyは,ビジネスメソッド特許をえることは他社との競争に有利であり,また従来企業秘密として公開しなかった有益な技術を世に広めるために,「ビジネスメソッドを特許の対象とするべき」とする立場を取っている。一方,銀行大手の米Bank of Americaはその基準を厳しくすべしとする立場を取っている。最近の傾向として,金融業界が発明者でなく特許を資産として所有する会社(パテント・トロル)からビジネス特許侵害で訴えられ,多額の賠償金を支払わなければならないケースが多発していることが背景にあるのではないだろうか。
 ソフトウエア業界,特に米IBM Corp.,米Microsoft Corp.は米連邦高裁が提示した基準を満たさないビジネスメソッドを特許の対象とすることには反対している。一方,Yahoo!, Inc. は米連邦高裁が提示した基準は厳しすぎ,柔軟性に欠けるとしながらも,StateStreet Bank裁判のテスト(useful, concrete,tangible result test)だけでは不十分であるとしている。Yahoo!, Inc.は,useful,concrete,tangible result testに加え,さらに「一定かつ予測可能で,再現可能なように明確に定義されたステップからなる場合には特許の対象とすべき」とする立場を取っている。なお,従来からソフトウエア特許では,単に抽象的にアルゴリズムを記載するのではなく,機器間でのデータのやり取り,および機器によるデータの処理に関して具体的に記載するので,米連邦高裁によって新しく厳しい基準を提示された影響はそれほど大きくないといえる。
 バイオ・テクノロジおよび薬品業界はビジネスメソッド特許に関係がないようにみえるが,特許の対象となるか否かの基準が診断方法に関連した特許に与える影響は無視できない。たとえば,2006年にLab Corp of Am. Holdings v. Metabolite Labs, Inc.が起こした裁判で米最高裁は,ホモクレスチンの量を分析し,ビタミンの欠損との相関からビタミンの欠損を検出する診断方法の特許性を審理した。米最高裁は,この診断方法が単に自然法則をプロセス/方法という特許の言語で書かれたに過ぎないとして,特許の対象とはなり得ないと判断した。上記のような診断方法は,特定の機器と結び付ける必要はなく,診断において物質の変換が行われるわけではないので,Bilski裁判において米連邦高裁が提示した基準にも当てはまらないことになり,特許の対象とならなくなる。ただ,バイオ・テクノロジおよび薬品業界でも,特許の対象となるか否かを決める基準に関して意見が分かれている。例えば,米Eli Lilly and Company,は,useful,concrete,tangible result testは不適切とし,プロセスが特許の対象となるためには物理的なものの変換がなされなければいけないというように基準を厳しくすべきと主張している。一方,バイオ・テクノロジ産業機構は「“心理的プロセス”は特許の対象とすべきではない」としながらも,useful,concrete,tangible result testは米最高裁の判例と矛盾がないので,米連邦高裁が提示したような基準を付け加えるべきではないと主張している。

最高裁での審理の行方
 米最高裁では,上記の米連邦高裁が提示した特許の対象となるかどうかを判断するための基準(useful,concrete, and tangible result)が,米最高裁の判例および101条の意図と矛盾しないかどうかという点が審理されるだろう。
 米最高裁の判例を振り返ると,例えばBenson裁判において,米最高裁は“プロセス”が特定の機器と結び付いていないか,あるいは物質の状態を変化させないからといって,特許の対象にならないとはいえない,と述べている。また,Lab Corp,が起こした裁判において米最高裁は,State Street Bank裁判では,プロセスが“useful,concrete, and tangible result”をもたらすならば特許性があるとは言っていないし,米最高裁もそのようなことは言っていないとしている。
 また最近,特許に関するいくつかの重要な裁判において,米最高裁は米連邦高裁の提示した基準/テストを否定する判決を出す傾向にあるので,Bilski裁判に関しても「米連邦高裁が提示したテストを否定するのではないか」という予測も多い。
 いずれにせよ,最高裁が101条における特許性に対してどのような指針を示すのか,非常に興味深い。


< 著者紹介 >

前川有希子
(まえかわゆきこ),米国ワシントンD.C.弁護士
前川有希子氏日立製作所中央研究所で研究者として医用画像機器の研究開発に従事し,博士号を取得した後,米国に移住した。2002年にPatentAgent,2005年にワシントンD.C.弁護士の資格を取得。現在は,米国大手法律事務所を経て、現在 Snyder, Clark, Lesch & Chung, LLP にて,主に,特許権取得業務,オピニオン(知的所有権に関する有効無効性や侵害に関するアドバイス)ならびにデュー・ディリジェンス(知的所有権,ライセンス,共同研究契約に関する様々な調査)を担当している。
※著者の所属先・肩書きは、本コラム執筆時のものです。






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