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コンテンツの流通促進のカギは法改正か標準契約モデルか
日経BP知財Awareness特別対談〜デジタル・コンテンツの流通を促進する著作権法のあり方(1)
[2009/07/15]

 「日本の著作権法はまだ改善の余地がある」。西村あさひ法律事務所の弁護士,櫻井由章氏が指摘した。日本は,政策としてアニメーションに代表されるデジタル・コンテンツ産業の発展を重視しており,各種施策を実行している。施策の一つとして話題になっているのが著作権法の改正である。コンテンツの2次利用に関しては,すべての関係者(権利者)から利用の許諾を得る(契約する)必要がある。許諾を得るのに必要な手間とコストがコンテンツの2次利用を阻害する大きな要因となっていた。この問題に関して「権利者の権利を若干制限して2次利用を促進させる」という意見や「権利を制限せずに契約で対応する」という意見が存在した。日経BP知財Awarenessでは,この問題に関する特別対談を企画した。
 出席者は,著作権特別法を提言するデジタル・コンテンツ利用促進協議会の事務局を務める弁護士の櫻井由章氏(西村あさひ法律事務所)と日本弁理士会の著作権委員長を務めた経歴を持つ弁理士の小西恵氏(三好内外国特許事務所)である。
 今回は連載の第1回である。

(まとめは品田茂=日経BP知財Awareness編集)



司会:日本のデジタル・コンテンツ市場は拡大する傾向であるが,人口減少の影響もありこのままでは今後大幅な伸びを期待するのは難しい。市場環境は良いとはいえない。政府や民間では市場拡大の鍵として“海外市場の開拓”や“コンテンツの2次利用の促進”などが議論されている。世界と日本の状況はどうなっているのか。
西村あさひ法律事務所 弁護士 櫻井由章氏
西村あさひ法律事務所
弁護士 櫻井由章氏

櫻井氏:世界的にデジタル化,ネットワーク化が急速に進行しており,“産業革命”に匹敵する“情報流通革命”が到来しつつある。このような中,海外では多くのネット・ベンチャーが生まれ,生き残ったものは大きく成長している。インターネット上で検索サービスを提供する米Google, Inc.や中国の百度(Baidu),動画共有サービスを提供する米YouTube, LLCなどはこの代表例である。海外ではデジタル・コンテンツの流通が活発になってきている。では日本はどうか。
 2003年3月,総理大臣の小泉純一郎氏(当時)を本部長とする「知的財産戦略本部」が内閣府に設置された。2003年7月には同本部が「知的財産の創造,保護及び活用に関する推進計画」を策定し,コンテンツ・ビジネスの飛躍的拡大に向けて「流通促進のための環境を整備する」ことが盛り込まれ,毎年改訂される知的財産推進計画においても,デジタル・コンテンツの流通促進は国家戦略上の重要課題として繰り返し掲げられてきた。
 しかし,2007年の経済財政諮問会議において,有識者議員が「貴重なデジタル・コンテンツの多くが利用されずに死蔵されている」という資料を提出したように,我が国でデジタル・コンテンツの流通促進は進んでいない。また,日本では,大成したネット・ベンチャーは登場していないのが現実である。「なぜこのような差が生まれるのか」,「どうすれば改善するのか」が問われている。

司会:日本のコンテンツ・ビジネスが停滞している原因の一つとして著作権法が挙げられているが。

櫻井氏:現行の著作権法は,出版や放送(テレビ,ラジオ)などを前提としており,インターネットによるコンテンツの流通を想定していなかった。そこで「著作権法を見直すべきではないか」という議論になった。この取り組みは少しずつ進んでおり,2010年1月からは「違法サイトからのダウンロードの違法化」や「検索エンジンの合法化」などを導入した改正著作権法が施行される。コンテンツ・ビジネスの振興に向けて一歩前進した形だが,“フェアユース”の導入など,まだまだ改善の余地はあるだろう。

司会:弁理士として昨今の著作権法改正の議論に関してどのような意見を持っているか。また日本弁理士会では,著作権法改正に関してどのような議論になったのか。
三好内外国特許事務所 弁理士 小西恵氏
三好内外国特許事務所
弁理士 小西恵氏

小西氏:コンテンツ産業の振興は国の政策としてとても重要である。コンテンツ・ビジネスにはコンテンツの創出と流通(活用)の二つの要素がある。著作権法改正の議論になっているのは流通に関する部分であり,特に問題になっているのがテレビなどの“放送コンテンツ”の2次利用の困難さである。
 楽曲などの“音楽コンテンツ”を2次利用する取り組みは,放送コンテンツに比べるとうまく進んでいるようだ。その代表例が古くはJASRAC(日本音楽著作権協会)による著作権の集中管理であり,さらにJASRACをはじめとする複数の著作権管理団体や音楽配信事業者など数団体が2009年3月に共同で設立したCDC(著作権情報集中処理機構)である。これらの著作権管理団体は,音楽配信事業者が楽曲を2次利用するにあたり,大きな阻害要因であった“すべての権利者から許諾を得る作業・コスト”や“権利者への利益の分配”を集中管理することによって,音楽コンテンツの円滑な2次利用の実現を志向している。
 このように,まずは2次利用に関する契約を含めた新しいビジネス・モデルを構築・推進することが必要であり,著作権法の改正に着手するのは,最終手段というべきものである。
 そもそも,著作権法とは創作を保護し,創作者にインセンティブを付与することを目的とする法律である。そうであるのに,現在の議論は,もっぱら創作者(権利者)の権利を弱める方向へ動いている。個人的には,この傾向のまま議論が進むと,著作権法の本来の目的である創作へのインセンティブ付与が軽視されるのではないかと懸念している。
 日本弁理士会においてもこの問題が検討された。そこでも,コンテンツの2次利用をいかに円滑にするかに関しては,まずはその権利処理を契約レベルで対応すべきであり,それでもなお不都合があった場合にはじめて法改正の議論に進むべきという結論に達し,提言を公表した。既存のコンテンツの流通,2次利用の円滑化を志向することが,新たなコンテンツ創作のインセンティブを損なうことがあってはならないと考える。

櫻井氏:確かに,音楽コンテンツは他のコンテンツと比べると2次利用が進んでいる。JASRACは,いわゆる“プラーゲ旋風(注1)”に対抗して1939年に国策として組織されたのが発端となる。JASRACは楽曲管理の歴史が長く,管理楽曲数も莫大である。管理スキームが慣習化していることが,2次利用の円滑化につながっている一因だろう。
 では,たとえば,放送コンテンツであるテレビ番組はどうであろう。テレビ番組は,テレビ放送が開始した当初はすべて生放送であった。技術の進歩によって,収録による放送が主流になった後も,1,2度の再放送を想定した権利処理(契約)しかしていないのが慣習だった。
 昨今開始した“NHKオンデマンド”のうち見逃し番組サービスなど,インターネット上で放送コンテンツを配信するサービスで配信されることが予定されているコンテンツなどについては,インターネット上での2次利用を見越して権利者と契約しているが,このようなサービスが登場する前のコンテンツに関しては,契約にインターネットでの2次利用に関する条項を含んでいないことが多い。
 契約モデルを作るにしても,「これが過去のコンテンツに対しても有効に作用するのか」がポイントになるであろう。これから世に出る新しいコンテンツに関しては,理想の契約モデルができれば,権利者がこれを利用することもあるだろう。しかし,過去のコンテンツを2次利用したい場合に権利者がその契約モデルを使うかは分からない。契約を結ぶのは個人の自由だからである。ここで契約を結ばない(2次利用に同意しない)権利者が一人でもいれば,そのコンテンツは2次利用できなくなる。さらに権利者が死亡したなどの理由で著作権が複数の人間に相続された場合などは,それぞれの相続人に対して許諾を得なければならず,手間とコストがかかる。
 こういった意味で,過去のコンテンツと将来のコンテンツでは利益状況が異なっている。

小西氏:著作権法を改正することによって過去のコンテンツも円滑に流通させるということは,過去のコンテンツに対しても改正著作権法が遡及的に効力を及ぼすということになるのか。

櫻井氏:過去のコンテンツも流通させるということであれば,そのように規定することになろう。

小西氏:とすれば,すでにある利益状況を変えることになる。本当に必要であれば著作権法を変えるべきだが,慎重に行うべきだろう。

櫻井氏:この議論においては,「なにが権利者にとっての利益なのか」という視点も重要であろう。死蔵されたコンテンツがあるとすれば,その結果,権利者に利益が還元されないということになる。コンテンツが流通した結果,権利者に利益が入ってくるのであれば,実質的な権利は保護されているのではないか,という考え方もできる。


注1:プラーゲ旋風とは
1931年(昭和6年),ドイツ語教師であるWilhelm Plage氏が,欧州の著作権管理団体の委託を受け,日本の放送局や管弦楽団などに対して著作権使用料を請求した事件。これをきっかけとして日本で著作権管理団体が誕生した。

第1回:コンテンツの流通促進のカギは法改正か標準契約モデルか
第2回:標準化された著作権管理技術でコンテンツの流通が活発化
第3回:まだ改善の余地がある著作権法〜特別法の制定も考慮すべき





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