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まだ改善の余地がある著作権法〜特別法の制定も考慮すべき
日経BP知財Awareness特別対談〜デジタル・コンテンツの流通を促進する著作権法のあり方(3)
[2009/07/17]

 「日本のコンテンツ・ビジネスを振興するためには著作権特別法の制定も視野に入れるべき」。西村あさひ法律事務所の弁護士,櫻井由章氏が指摘した。日本は,政策としてアニメーションに代表されるデジタル・コンテンツ産業の発展を重視しており,各種施策を実行している。施策の一つとして話題になっているのが著作権法の改正である。コンテンツの2次利用に関しては,すべての関係者(権利者)から利用の許諾を得る(契約する)必要がある。許諾を得るのに必要な手間とコストがコンテンツの2次利用を阻害する大きな要因となっていた。この問題に関して「権利者の権利を若干制限して2次利用を促進させる」という意見や「権利を制限せずに契約で対応する」という意見が存在した。日経BP知財Awarenessでは,この問題に関する特別対談を企画した。
 出席者は,著作権特別法を提言するデジタル・コンテンツ利用促進協議会の事務局を務める弁護士の櫻井由章氏(西村あさひ法律事務所)と日本弁理士会の著作権委員長を務めた経歴を持つ弁理士の小西恵氏(三好内外国特許事務所)である。
 今回は連載の最終回(第3回)である。

(まとめは品田茂=日経BP知財Awareness編集)



司会:欧米ではコンテンツの流通についてどのような動向になっているのか。

小西氏:米国は日本と比べて知的財産ライセンスの習慣が成熟している。著作権の2次利用に関しても,当事者間の自己責任として契約で対処するのが一般的である。そもそも米国の著作権法は,一部のコンテンツを除いて著作者が持つ“著作者人格権”を認めていないこともあり,日本に比べてコンテンツの2次利用は容易といえる。

櫻井氏:ご指摘の通りであり,先ほども述べたように,我が国では,映画の著作物であっても多くの人が人格権を有している。誰かが人格権を行使すればこれに反する2次利用はできない。日本でコンテンツの2次利用が難しい状況に何ら変わりはない。

小西氏:コンテンツを利用したい配信事業者から見れば,著作者人格権は最大の障害である。契約に「著作者人格権を行使しない」という特約を入れることは,有効性の点で議論になっている。「著作者の意に反する」コンテンツの改変,というが著作者人格権侵害の要件であるが,この要件は主観的なものなので,いつ著作者が「意に反する」と主張するか分からないリスクが常に伴うことになる。配信事業者の「2次利用したい」という意思がある場合に,著作者の「改変されたくない」という意思を尊重しつつどう利益調整を図っていくかは非常に大きな問題である。
 現状の著作者人格権である限り,コンテンツの流通の阻害要因を完全に取り除けないのではないか,という懸念がある。

櫻井氏:インターネットで利用する際に,技術的な問題などからコンテンツの一部を改変する必要があるかもしれない。その際,人格権についてすべての権利者から許諾を得るのは実際には難しいだろう。
 米国は契約社会であり,昔から膨大な条項を盛り込んだ契約書を作っている。過去のコンテンツに関しても,「どうやって契約書を改訂するか」というやり取りが当事者間である。たとえば,権利者も映画会社が提示した実施料率に不満がある場合は,組合が団体交渉やストライキをする。日本にはこういった文化はない。これは大きな差異といえるだろう。

小西氏:欧州でも権利者たちが組合を作って団体交渉し,利益を権利者に正当に還元させる仕組みが機能している。日本ではこのような話をまだ聞いたことがない。日本でも欧米のように権利者たちが集結しなければ,自分たちへの利益還元を図ることは難しいだろう。

司会:2010年1月1日から「違法サイトからのダウンロードの違法化」や「検索エンジンの合法化」などを盛り込んだ改正著作権法が施行される。本対談のテーマである「インターネット上でのコンテンツの2次利用の促進」に関して,改正著作権法では権利者の所在が不明な場合の対応策である“裁定制度”が改善されている。これに関してはどう考えるか。

小西氏:現行の裁定制度はほとんど使われていない。それだけ使い勝手が悪いのだ。著作権は特許権などと違い,権利の客体である著作物を登録・公示する制度がない。著作物を利用したいと思う者が権利者に辿り着けないことも多く,この場合裁定制度を用いて著作物の利用をしたいと考えても,現実には利用することが難しい。これを改善するためには利用のためのガイドラインなどを作成する必要がある。今回の新裁定制度は,過去のコンテンツの流通を促進するという意味では一歩前進したが,使い勝手が格段に向上したとはいえない。

櫻井氏:今回の裁定制度の改正は一歩前進ではあるものの中途半端な印象を受ける。文化庁の審議会で議論されていた内容から後退してしまった。新裁定制度は,NHKオンデマンドのビジネス・スキームを踏襲する形で議論されていたが,結局このスキームは採用されなかった。
 NHKオンデマンドは,2008年末のサービス開始に際して,以下の方法で権利者不明の問題に対処した。まず,NHKは,実演家著作権隣接センター(CPRA)などの権利者団体に対して,あらかじめ一定額の使用料を仮払いし,不明者が判明しない場合でも2次利用を進める。CPRAは,ウェブサイトを通じて不明な権利者の調査を行い,もしも不明だった権利者が現れた場合には,仮払い分から使用料を支払うスキームである。
 裁定制度の使い勝手をさらに向上させなければ,2次利用の促進には結び付かないだろう。

小西氏:そもそも裁定制度というのは,当事者のコストと行政コストが不可避的に生じるものであり,合理的なシステムなのかという疑問がある。裁定制度は,何らかの理由で権利者を追跡できないときに,行政庁が行政コストをかけて2次利用の可否を判断する制度であるが,そもそも権利者が見つからない場合,利用の可否の判断をする必要があるのか。
 たとえば,法律上一定の条件を設けて,「条件を満たせば(当然に)2次利用が可能になる」という考え方も必要になるかもしれない。

櫻井氏:著作権法を大幅に改正するのは難しいが,特別法という形で対応することは可能である。これについては今後も議論を進めるべきであろう。

司会:民間によるコンテンツの2次利用促進の動きが活発化しており,法律面での取り組みも進んでいる。これらは日本のコンテンツ産業を活性化させる土台といえる。これに次世代のクリエイタの育成などが加われば,日本のコンテンツ産業は磐石なものになるだろう。

対談を終えて
対談を終えて

第1回:コンテンツの流通促進のカギは法改正か標準契約モデルか
第2回:標準化された著作権管理技術でコンテンツの流通が活発化
第3回:まだ改善の余地がある著作権法〜特別法の制定も考慮すべき






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