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藤森涼恵の知財show me the money


知財Show me the money
第2回 知財棚卸で稼ぐ〜企業の利益増に直結する知財の棚卸法

[2009/07/21]

(藤森涼恵=Ocean Tomo, LLC. Director)


 前回は休眠特許を売却して稼ぐオークション市場を紹介した。今回は,休眠特許の選別にも関連する知財棚卸で稼ぐことを考える。

 最初に「棚卸」の位置づけを確認しよう。米国の場合,特許権が成立すると4年おきにmaintenance fee(特許維持費)を支払って権利を維持することになる。2009年7月現在の規定では4年目に980米ドル,8年目に2480米ドル,12年目に4110米ドルの維持費が必要で,途中で放棄することなく維持し続けると維持費だけで7570米ドルかかる。そこで休眠特許の放棄による維持費削減が議論になる。つまりは「コスト削減」だが,コスト削減は後ろ向きにとらえられがちだ。しかし,基本的な収益分析(図1)を考えれば「利益を増やす(=稼ぐ)」には「売上を上げる」か「コストを下げる」のいずれかとなる。いずれも利益を増やす行為であり,コスト削減を後ろ向きにとらえる理由はない。棚卸する現場はコストを下げて「稼ぐ」のだ。「本来持つべきではないものをようやく捨てた」と言われては現場のモチベーションも上がらない。特許棚卸は稼ぐための活動の一つにほかならない。

図1:典型的な収益分析ツリー
図1:典型的な収益分析ツリー


 棚卸活動で自社特許をレビューする場合,単に「いる・いらない」ではなく,各特許の位置づけを明確にしたい。例えば(1)自社で使用中,(2)他社にライセンス中,(3)競合けん制手段として所有中,(4)将来事業に使用予定,(5)未使用,といった位置づけだ。(3)の競合けん制手段とは,「自社事業では使用しないものの,自社に対して特許権を主張する可能性のある企業に対抗できそうな特許」,つまり防御目的で所有する特許である。(1)〜(4)の特許は基本的に放棄してはいけない。そこで「未使用」と判別されたものについて放棄・もしくは売却を検討することになる。いきなり放棄するのではなく,オークションに出品して落札されなければ放棄,と判断するのも良い方法だ。

(1)の自社で使用中のものでもその特許技術を独占して使用し続ける必要がなければ放棄・売却は可能(売却の場合,自己実施件を留保して売却すること)。また,(2)の他社ライセンス中もライセンス契約の条件によっては売却が可能(ライセンスが引き継がれることを条件として権利の売却が契約で許されているような場合)。

 なお,(4)を判断するには特許をレビューする知財担当者が自社の事業方針,事業計画,商品戦略をよく把握しておかなくてはならない。それにより,いらないものを選別するだけではなく,「必要なのに足りないもの」も浮き上がってくるはずだ。棚卸は実は「減らす」だけの作業ではない。自社の特許ポートフォリオが将来の計画に沿ったものになっているかを判断し,いらないものは放棄・売却,足りないものは短期的には外から買う,長期的には自社研究開発で取得する。「外から買うことは『稼ぐ』と反対方向では?」と思うかもしれないが,自社開発コストよりも安価・迅速に購入できるならば,購入は稼ぐ行為である。棚卸による放棄・売却で得られた資金を将来の研究開発活動や足りない技術の購入に使って,さらにおつりがあれば万々歳だ。

 つまり特許棚卸は「減らして終わり」の作業ではない。特許棚卸の真意は「フィードバック・ループの構築」(図2)にある。単に「捨てるか捨てないか」という視点で特許をレビューするのではなく,「どのような技術が自社には必要なのか」,「どのような技術を競合は必要としているのか」,「どのような技術は誰にも必要とされていないのか」,「どのような特許が強い権利の特許なのか」,がアウトプットできるようにレビューする。このアウトプットを技術権利化活動の各ステップにフィードバックする。これにより,より精度の高い研究開発活動が行われ,より無駄のない特許権取得活動につながり,より強力な特許を取得できる,という好循環が構築される。捨てる行為として取り組むのではなく,長期的な「高品質権利取得活動」として取り組むことで,結果的により多く特許棚卸で稼ぐことになる。

図2:棚卸フィードバックループ
図2:棚卸フィードバックループ



藤森涼恵(ふじもりすずえ)
藤森涼恵氏Ocean Tomo, LLC. Director,ニューヨーク州弁護士

 1992年京都大学法学部卒業。1999年New York UniversityのロースクールでLLM(Master of Laws)を取得。1992年松下電器産業株式会社に入社,法務部門にて米国知財侵害訴訟,知財ライセンス案件,技術提携案件,技術規格設立案件などを担当。松下電器在職中にニューヨークのWeil, Gotshal & Manges, LLPに外国人インターンとして勤務,訴訟案件を担当。2002年に経営コンサルティングのMcKinsey & Company, Inc.に移り,様々な業界におけるマーケティング立案,製品開発立案,リテール戦略立案などのコンサルティングを提供。現在,Ocean Tomoのシカゴ本社にて日本市場のニーズに合わせてサービスを提供するジャパン・サービスを担当すると同時にアジア市場全体を総括。知財ポートフォリオの定量的評価,知財棚卸支援,知財売買支援,研究開発戦略立案,知財活用・管理戦略立案などを提供している。




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