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柴田英寿のアントレプレナーシップ論 オープンスクール


アントレプレナーシップ論オープンスクール〜第4回〜
何が「大儀」なのか

[2009/07/27]

過去,受講生チームが掲げた「大儀」と事業計画10選:
 「大儀」は「ビジョン」と言われたり,「ミッション」と呼ばれたり,あるいは「動機」と言われることもあります。過去の受講生チームの「大儀」を見て,何が「大儀」で何が「大儀」でないのかを考えてみます。

例1:「先端技術を利用して新しい価値を生み出し,より過ごしやすい世の中をプロデュースするとともに新規雇用の創出を目指す」

 このチームはこの「大儀」の実現手段として,「超音波で物体を浮遊させて効率的に移動させる技術」についての事業計画を考えました。メンバーの中にこの技術の研究者がいて,その技術を題材にして考える中で上記の「大儀」を考えたのです。

 「先端技術」「新しい価値」という響きの良い言葉ですが,中身をとらえにくい面もあります。また,この「大義」では「雇用の創出」をうたっていますが,このチームはそこまで検討できませんでした。しかし,将来を見据えた「思い」を込めているなら,「大義」に入れても良いと思います。

例2:「外国人観光客に日本の真髄を伝えたい」

 このチームは,「外国人観光客向けのフリーペーパー」の事業計画を考えました。このチームは外国人観光客に「日本についてもっと知ってほしい」という思いから,当時流行っていたフリーペーパーを活用した事業案を考えました。

 ビジネスとしてはフリーペーパーに広告を取れば実現できるでしょう。それだけはない「思い」や「新しい試み」が入っているともっと良かったと思いました。

例3:「日本人も外国人も住みやすいと感じられる社会を作るために,多様性を豊かさとして享受できる仕組みを作る」

 このチームは「大儀」を先に作っていろいろな事業案を考えました。有力だったのは,留学生に外国語を教える仕事を斡旋する事業案でした。そこで,私は,会社として本事業をやるには「大儀」が大きすぎるので「教育事業を通して」としてはどうかと助言しました。

例4:「快適で楽しい生活空間の演出」

 このチームは「駅トイレ広告の企画・開発」という事業計画を考えました。「大儀」が非常に大きいことを言っているので,駅トイレに限らず,何でも包含してしまうような気がします。大きなことを言うのは悪いことではありません。具体性も加えて力強さを感じられるように表現できるとさらに良いと思います。

例5:「ケータイによる快適空間の演出」

 このチームは上記の「大儀」の実現例として「優先席近くでケータイのボタンをワンプッシュすることで車内にランプが点灯し優先席に堂々と座ることができる仕組み」を普及させる事業計画を考えました。携帯電話の新たな可能性に着目した「大儀」と事業計画でした。

 例3に似ていますが,「ケータイ」に限定している点が違います。具体的である半面,使用する機器が限定されてしまう面もあります。ケータイの部分を「モバイル通信機器」とすると少し広がりが出ます。「モバイル通信技術」とするとさらに広がります。場所を「生活空間」から「公共空間」,「公共交通機関」と限定することもできます。自分達がやりたいことからみて,どの範囲まで広げるべきかを考えるとよいでしょう。

例6:「効果的なスキルアップの1方法を,一人でも多くの方に提供し,より豊かな思考,表現そして行動ができる社会を作る」

 このチームは「企業向け英語研修ビジネス」の事業計画を考えました。メンバーの中に英語での討論の世界的な団体に参加している人がいて,その人の思いを実現しようとしたものでした。やりたいことの方からさかのぼって「大儀」を考えたようでした。やりたいことを先に考えて,後付けで「大儀」を決めるのはよくある流れで,悪いことではありません。英語の研修と社会の改善では少し距離があるように感じました。

例7:「カンタム・ドット・デバイス(Quantum Dot Device:量子ドット・デバイス)を実用化・商用化し,Key Deviceを供給してユビキタス情報社会の実現に貢献します。
収益性に基づき,カンタム・ドット・デバイスの実用化研究を深化し,当分野で世界をリードします。産学連携の出口となる新しい仕組みを提案?実証し,日本のエレクトロニクス産業の発展に寄与します。」

これは大手企業の研究を会社の外に切り出して事業化を目指す本格的な事業のミッション・ステートメントとして考えられたものでした。学生たちのものに比べると事業の具体性が格段に高くなっています。

例8:「広告をファッションに」

 このチームはこの「大儀」を実現する第1ステップとして「携帯電話の裏面に広告シールを貼る」事業計画を考えました。小額の広告代金の回収とシールの提供方法をうまく解決できませんでしたが,斬新なことを考えようとする姿勢に好感を持てました。

例9:「街を歩いていると生の音楽が聞こえてくる。身近な音楽で幸せになれる。そんな社会を作りたい」

 このチームは「『聞きたい人』と『演奏したい人』のマッチング」についての事業計画を考えました。既存の事業ですが,それらとの差異化を考えて検討を進めていました。この事業計画は,メンバーであるアマチュア・ミュージシャンの思いから出てきたものでした。

例10:「途上国に良質の水を提供する」

 このチームは「インドにおける浄水器販売」についての事業計画を考えました。「大儀」は鋭いですが,さまざまな技術や方法を検討していくなか,実現手段がないことが分かり,苦戦しました。これは,途上国を旅して水の不便さを感じたメンバーの思いから出て来た事業計画でした。

*「大儀」の決まり方

受講生チームの「大儀」から以下の傾向を感じます。

・メンバーの一人の強い思いが核になることが多い。
・先にサービスや製品が決まってそれをやる意義として「大儀」を考えることも多い。
・言葉にとらわれてしまう傾向があり,美しい言葉が多くなりがち。

また,「大儀」は合理的な評価では決めにくく,むしろ,心理的な要因で決まる方が良いように思います。

 たとえば,「大儀」について,いくつかの案が出てくることもあります。仮に,それらを「いくつかの評価軸(例えば,社会性,収益性,成長性,自分達の強みなど)で点数をつけて,一番点数が多いものを選ぶ」としても,必ずしもしっくりしないでしょう。要素に分解した評価を組み立てたとき,必ずしも全体を構成していないことが多いからです。

 また,「心が動けば体が動く」とう言葉をある経営者からもらったことがあります。私はこれを基準にすることが「大儀」を決める際に良いのでは,と思っています。あることを「大儀」としたとき,それを実現するためにチームのメンバーが自然に行動してしまうならいい「大儀」であり,起こせないなら何かが違うという判断基準です。


柴田英寿
柴田英寿氏 2002年から2006年まで日本知財学会理事。2002年から5年間,東京大学先端技術研究センターにて特任教員,非常勤講師としてアントレプレナーシップ論の前身講座を開講。知的財産権の研究会であるビジネスIPRとして韓国の同種団体IPMSとの交流や知財ゲームの普及などを展開。毎週水曜日朝に開催する朝食会(赤坂ブレックファーストクラブ)も有名。著書,寄稿多数。株式会社日立製作所勤務。著者ポータル




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