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米国特許法において,そもそも特許権とは特許化された技術を使用,製造,販売および販売する申請を特定の期間,独占的に行うことができる権利をいう。しかし,特許権所有者が特許技術を実施した製品を何の条件も付けないで相応の対価を代償として特許権の非所有者に売った場合,特許権所有者は売った製品に対して特許権を失う。これを特許権の消尽(exhaustion)という。特許権が消尽すると,製品を買った者は,通常の所有物と同様に特許権を侵害することなくその製品を使用あるいは第3者に転売できる。また,その第3者も同様に特許権を侵害することなく,通常の所有物と同様に買った製品を使用あるいは転売することができる。 特許のライセンス契約も,特許権所有者が相応の対価を得るので売買契約と同等とみなされ,特許権が消尽するとされる。したがって,ライセンス契約に基づいて製造した製品を第3者が購入し,使用あるいは転売しても,特許権の侵害には当たらない。 ただし,製品の販売もしくはライセンスにおいて,特許権所有者は他者に,特許権に含まれるすべての独占的権利を許可するか,あるいは一部のみを許可する権利を有する。すなわち,特許技術を実施する製品を制約条件を付けて販売あるいはライセンスした場合,その制約条件以外では特許権は消尽しないとされてきた。 今回は,2008年6月の台湾Quanta Computer Inc.と韓国LG Electronics, Inc.の係争において,特許権の消尽に関する米最高裁の判決および未解決の点について述べる。 2.問題となったLG ElectronicsとIntelのライセンス契約 LG Electronicsは米Intel Corp.とデータプロセスに関する特許ポートフォリオのライセンス契約を結び,その中のクロスライセンス同意書で,LG Electronicsの特許を実施するためのマイクロプロセッサおよびチップセットを製造,販売することをIntelに許可した。ただし,この同意書には,「ライセンスの下で製造されたIntel製品と非Intel製品とを組み合わせることを第3者には許可しない」という制約があった。ちなみに,このクロスライセンス同意書には,「ライセンス製品を売った場合に適用される特許権消尽について何ら影響を与えない」とも記されていた。さらに,クロスライセンス同意書とは別の主同意書では,Intelがその顧客に,「LG ElectronicsによるライセンスがIntel製品と非Intel製品との組み合わせに適用しない」という通達をすることを義務付けていた。 3.争点および米最高裁の判決 米最高裁における争点は,(1)方法特許に特許権消尽論が適用できるか,(2)特許を実施するには不完全な製品を売る場合どの程度不完全であれば特許権が消尽するのか,(3)特許権所有者が許可した販売によってのみ特許権が消尽するのか,という3点であった。米最高裁の結論は以下のとおりである。 (1)に関して米最高裁は,特許化された方法が製品と同様の形で販売されるわけではないと認めながらも,製品が特許化された方法を実施するのであれば,その製品が販売されることにより,方法に関する特許権も消尽するとした。 (2)に関して米最高裁は,ライセンスの下に製造,販売されたIntel製品自体が特許侵害を起こすものでなくても,“特許化された発明を実施するために必須の要素”であるので,LG Electronics-Intelライセンス契約により特許権は消尽するとした。特に,米最高裁は1942年のUnivis Lens Co.,裁判の判例を引用し「その製品が特許権消尽の対象となっている特許発明のみを実施するために用いられるもので,特許を侵害しないための用途が他にないとみなされた場合,その製品は特許化された発明を実施するために必須の要素であると判断する」とした。 (3)に関して米最高裁は,LG Electronics-Intelライセンス契約は,制約条件を一切付けずにIntelにマイクロプロセッサとチップセットの製造,販売を許可しているので,IntelのQuantaへの製品販売も許可しているとみなされ,ライセンス契約時に特許権は消尽したと判断した。実際,クロスライセンス同意書には,Intelのマイクロプロセッサとチップセットを販売する権利に,それらを非Intel製品と組み合わせたい第3者には販売しないよう制限する項目は含まれていなかった。また,主同意書に記されているような通達義務に関する項目も含んでいなかった。上述したように主同意書には,「LG ElectronicsによるライセンスがIntel製品と非Intel製品を組み合わせることによりLG Electronicsの特許を実施するIntelの顧客には適用されない」ことをIntelがその顧客に通達する義務が記されている。しかし米最高裁は,「主同意書に関する契約違反がすぐにクロスライセンス同意書に違反するとはならない」と判断した。 4.特許権を消尽させない制約条件とは? (次ページへ) < 著者紹介 >
前川有希子(まえかわゆきこ),米国ワシントンD.C.弁護士 日立製作所中央研究所で研究者として医用画像機器の研究開発に従事し,博士号を取得した後,米国に移住した。2002年にPatentAgent,2005年にワシントンD.C.弁護士の資格を取得。現在は,米国大手法律事務所を経て、現在 Snyder, Clark, Lesch &
Chung, LLP にて,主に,特許権取得業務,オピニオン(知的所有権に関する有効無効性や侵害に関するアドバイス)ならびにデュー・ディリジェンス(知的所有権,ライセンス,共同研究契約に関する様々な調査)を担当している。※著者の所属先・肩書きは、本コラム執筆時のものです。
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