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ついに米国を抜いて世界最大の自動車市場となった中国であるが,最大の問題は「後を絶たない中国メーカーによるデザイン・コピー」である。すっかり定番となった感のある中国メーカーによるデザインのコピー行為は,2009年の上海モーターショーでも話題となった。外国企業の自動車のコピー車を堂々と同じモーターショーに出展するその強心臓ぶりにも恐れ入るが,コピー車は参考出展だけではなく,実際に多くの車が街中を走っている。その数の多さは,まさに異様な光景だ。
2輪車から始まった集団模倣 中国企業によるデザイン・コピー行為が注目を集めたのは,1990年代後半からである。2輪車(オートバイ,スクーター)の集団模倣が目に余るようになった。当時,中国には200社以上の2輪車メーカーがあると言われ(無許可を入れると500社とも言われている),年間生産台数は約1000万台,そのうちの8〜9割が日本車のデザイン・コピーと推定されていた。 2004年には,日本のA社が中国で生産している125ccの2輪車1モデルに対し,中国に登録されている生産目録を調べたところ,なんと685件ものコピー車が登録されていたという。日本でもマスコミが大きく報道した「日本YAMAHA事件」や「HONGDA事件」などは,商標権侵害事件として有名になったが,実際の侵害品はデザインそのものもコピーしたものであった。(JETRO北京センター知財室HPニセモノ写真館参照) 日本の2輪各社は,中国メーカーによるデザイン模倣問題に対し,業界団体である日本自動車工業会として一致団結して問題解決に取り組んできた。経済産業省や現地大使館などの支援も受けながら,2000年以降,中国関係当局に対する要請のための訪中団を送り込み,また現地の自動車業界団体である中国汽車工業会との間での協力事業も実施してきたが,劇的な改善には至らなかった。 中国当局関係者は,訪中団に対し「中国はすでにWTOに加盟国しており,TRIPs協定に従って知的財産関連法を整備した。中国企業によるコピー行為があるならば,法律に従って権利行使してほしい」と語ったが,法律に従う以外に手段はなかったのも事実である。日本企業の中には,目に余るコピー行為を繰り返す中国企業に対し,他社への牽制・抑止効果を狙って侵害訴訟を起こしたところもあったが,結果,中国企業全体への波及効果があったとは言い難い。結局,数百社が一斉にコピーする現実の前には,現在の中国の法律は無力と言うほかない。コピー・バイクのような数百社による一斉集団模倣行為を,法律を根拠として抑止するには,権利侵害を現在の“親告罪”から“非親告罪”にし,権利者に代わって国家権力が停止命令を出すほかないだろう。 改正専利法と中国政府の問題意識 以前,中国に駐在する日本企業の知財担当者が同社製品のデザインを模倣し,かつ冒認出願を繰り返す中国企業に対して「なぜ,あなた方は他人のデザインを盗用して,あたかも自分が創作したかのように外観設計専利(日本の意匠に相当)を出願するのか」と問い正した。中国企業の回答は明快だ。「中国には専利制度(日本の特許・実用新案・意匠制度を一緒にしたもの)があり,デザインは財産権として保護される。そして,この法にしたがえば誰でも出願できるし,誰もが権利者となれる。このデザインが誰の権利であるかは国家が決めること。どんなデザインであれわが社に出願する権利がある以上,われわれは出願して権利を取得する。文句があるなら無効審判や訴訟を起こせばいい」。真の権利者に向かってこうした回答をする中国メーカーの心理を理解できる日本人は果たしてどれくらいいるだろうか。 中国企業のコピー行為に関し,中国の識者の間にも多くの意見が存在する。その代表的な意見の一つが「中国は多くの産業分野で大国であるが強国ではない。国内産業を健全に発展させ,世界の強国にするには,自主開発の努力が急務である」であり,その対極にある意見の一つが「模倣は産業発展のステップである。どこの国でもそうであったように,発展途上の中国において,先進国の良い製品をまねる行為は許される範囲のものだ」である。 こうした国内の意見が対立した状況の中で,2009年10月に改正専利法が施行される予定であるが,残念ながら中国企業によるデザイン模倣行為を効果的に抑止する内容とはなっていない。 中国政府としては,国内産業の発展レベルに応じて,段階を追って専利法を改正していく計画だろうと推測されるが,今回の改正で「他社意匠の寄せ集め権利」を無効とするのであれば,部分意匠制度も導入して他社デザインを寄せ集めた模倣行為自体も「違法」とすべきであろう。冒認出願は抑止できたとしても,実際のデザイン盗用行為は相変わらず自由であるとすれば,今回の改正の意義は大きくない。 日本もかつて戦後の高度成長期に,日本企業による欧米企業製品の模倣が国際問題化した。これを受け通商産業省(当時)は「輸出検査法」や「輸出品デザイン法」を制定し,日本企業のコピー行為を厳しく取り締まった。また一方で,国を挙げてデザイン振興に取り組み,業種横断的なデザイン振興団体を作り,日本独自のGマーク制度の導入などを経て,現在の地位を確立した。 日本政府としても,過去の日本の取り組みが中国にとっても大いに参考になると考え,善意に基づく政府間協力を実施してきているが,いかんせん,他国の内政問題であるため,なかなか思うような成果が出ていないのが実情だ。中国政府当局がこの問題にどこまで真摯に取り組む決意があるのか,さらなる法改正を期待するほかはない。 パリ条約はなぜ機能しないのか? (次ページへ)
日高賢治氏プロフィール
京都大学農学部卒業後,通商産業省(現経済産業省)特許庁に入庁。審査官,通商産 業省大臣官房企画室企画主任補佐,特許庁総務部総務課課長補佐,技術審査委員,審判部審判官などを経て2001年日本貿易振興会北京センター知財室長,2004年に特許庁に戻り総務部特許戦略企画調整官,2005年特許庁退職。 同年弁理士登録,日高東亜国際特許事務所所長(現在に至る)。 現在は,政策研究大学院大学客員教授,九州工業大学客員教授,早稲田大学外部講師も併任している。 |
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