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刑事罰を適用して情報流出を抑止 不正競争防止法は,「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため,不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ,もって国民経済の健全な発展に寄与すること」(同法第1条)を目的とする法律である。不正競争行為の一類型として,産業スパイや従業員などによる営業秘密(ノウハウや顧客情報など)の不正な取得,使用などが掲げられている。不正競争防止法における営業秘密保護制度については,企業活動の国際化やオープン・イノベーションの活発化といった社会情勢に応じて改正が重ねられてきた。2003年には刑事罰である「営業秘密侵害罪」が創設され,違法性の高い悪質な行為がその対象とされた。その後,営業秘密侵害罪は,国外への情報流出や退職者も対象に含むように改正され,懲役刑や罰金刑,法人への重課(注1)の上限も引き上げられた。
現実の情報流出に法律が追い付かない 従来,不正競争防止法に定められた営業秘密侵害罪の対象は,違法性がきわめて高いとされる行為に限られていた。ところが昨今,情報流出の類型が増えており,従来罰することができない行為のなかにも刑事責任を問うべきと思われるものが出てきた。その具体例が,(1)情報の保有者と競業関係にない第三者への情報の漏えい,(2)情報の保有者に損害を与えるという嫌がらせ目的で情報を公開する行為,である。従来の不正競争防止法では,営業秘密侵害罪の対象は,保有者の営業秘密を“不正の競争の目的”で“使用”したり,第三者に“開示”する行為等と規定されている。不正競争の目的が必要とされていることから,基本的に保有者と競争関係にある第三者に営業秘密が漏えいなどした場合が営業秘密侵害罪の対象となっていた。上記(1),(2)ではともに不正競争の目的はないといえるため,営業秘密侵害罪に該当し得なかった(民事責任の追及は考えられる)。 さらに,少なくともこれまでの実務においては,営業秘密侵害罪で告訴しようとする場合,被害企業において営業秘密が不正に使用されまたは開示された事実に関する証拠を収集することが求められている。西村あさひ法律事務所の弁護士である岩瀬ひとみ氏は「十分な証拠を集めないと捜査機関は動いてくれないが,営業秘密が使用されたり開示されたりしたことの証拠を収集することは難しい。このような理由もあり営業秘密侵害罪で起訴された例はほとんどなく,我が国の営業秘密の刑事的保護は十分とは言えなかった」と従来の営業秘密侵害罪の問題点を指摘した。 侵害に当たる目的と行為の幅を広げる 今回の法改正では,営業秘密の刑事的保護の実効性を高めるために,営業秘密侵害罪の(A)目的要件が変更され,また,(B)行為の範囲も拡大された。 (A)の目的要件に関しては,不正競争の目的が,法改正によって“不正な利益を得”たり,”保有者に損害を加える”目的(いわゆる図利加害目的)に変更された。これにより上記(1),(2)の場合でも営業秘密侵害罪の目的要件が満たされるようになった(改正不正競争防止法第21条第1項各号)。 (B)の行為に関して,大きな点としては(a)不正取得行為の範囲の拡大,(b)従業員など営業秘密を保有者から示された者による営業秘密の領得行為が新たに刑事罰の対象とされた点,の二つを挙げることができる。 (a)は,従来の不正競争防止法では詐欺等行為や不正アクセスなどの管理侵害行為により営業秘密を記録した媒体を取得したり複製したりした場合など,媒体を介した行為のみが対象とされていた。法改正によって,不正取得の方法による限定がなくなり,詐欺等行為または管理侵害行為によってなされた不正取得行為一般が対象とされることになった。例えば,詐欺などにより営業秘密を聞き出したり,不正アクセスなどにより営業秘密を読み出したりする行為など,媒体を介さない行為も営業秘密侵害罪に該当し得るようになった(改正不正競争防止法第21条第1項第1号)。 (b)の行為は,営業秘密の保有者から営業秘密を示された従業員や取引先などが,図利加害目的で営業秘密を“領得”する行為である。領得とは保有者の管理下から離れさせ,自己のほしいままに利用または処分する行為である。具体的には改正不正競争防止法第21条第1項第3号に列挙されている。従来の不正競争防止法では,このような従業員などについては,営業秘密を不正に使用または開示して初めて営業秘密侵害罪に該当し得た。法改正によって,従業員などが営業秘密が記録された媒体を横領したり複製する行為,消去すべき記録を消去せずかつ消去したと仮装した場合は,当該営業秘密が使用または開示される前であっても営業秘密侵害罪に該当し得るようになった。「例えば,従業員が退職した時に『私の保有するパソコン等から営業秘密データはすべて消去しました』という誓約書を提出させることが考えられる。そのような誓約書を提出した従業員が実際に当該データを消去していなかった場合,これによって生じた損害が立証できると考えられれば,企業は従業員の民事的責任を追及することが考えられる。法改正後は,損害の立証の可否などにかかわらず,営業秘密の領得行為として刑事的責任をも追及することが考えられるようになる」(岩瀬氏)。 刑事罰は企業にとって大きなリスク (次ページへ)
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