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今回は定量的特許評価で稼ぐ方法を考える。 定量化は対象の情勢を同定し,他の対象との客観的な比較を可能にしてくれる。自社の重要事業の特許ポートフォリオに点数をつけるとしたら何点なのか,それは業界全体で見て平均点を超えるのか,特定の競合のポートフォリオの平均点より上か下か。これらはすべて戦略的な特許ポートフォリオの構築に必要な情報であり,ここで社内の共通見解が確立できなければ,次の戦略を策定する基礎となる現状把握ができないことになる。 世の中のほとんどのものは定量分析が可能だ。好き,まあまあ,嫌い,という定性的な「好み」も「好き=3点」「ままあ=2点」「嫌い=1点」と点数を付与し集計すれば定量分析ができる。実は日本でも米国でもすでに特許の定量評価(スコアリング)は提供されている。こうしたスコアの活用を阻害するのは「これが定量化できるはずがない」という先入観であり,これは「そのスコアの正しさが100%立証されていない」と翻訳して発言されることが多い。 この「100%発言」にはもう一つの原因がある。それは,スコアを魔法の杖のごとく,あらゆる事象に活用しようと考えることだ。残念ながら,現時点ではそこまで洗練された特許スコアは存在しないと思われる。そこで,スコアを使って何をするのか,その目的に使用するにはこのスコアは違和感がないか,そうした視点で社会に存在する各スコアを評価する姿勢が「使えるツール」探しにつながる。 そこでスコアの適用例を二つ挙げよう。一つは前回の連載で紹介した棚卸の効率化だ。各企業で特許を評価できる専門家の人数は限られている。1社で膨大な特許を抱える企業の場合,すべての評価を専門家による手作業で行うと大変な時間と労力がかかる。時間がかかりすぎて終わった時には評価結果が陳腐化している最悪のケースもある。そこで初期評価に自動スコアリングを利用し,手作業で評価すべき特許を絞り込めば時間の短縮によるコスト削減とタイムリーな棚卸実施が可能だ(図1)。自動スコアリング導入費用を勘案しても長期的には十分利益が出るだろう。何よりスコアという客観的指標の導入は,評価結果の信ぴょう性を高め,棚卸実行への社内了解を得やすくする効果もある。
もう一つはクロス・ライセンスやパテント・プールでの利用だ。クロス・ライセンス交渉やパテント・プールでのロイヤルティ配分の場面では,いまだに特許件数で評価するのが支配的なようだ。例えば100件の特許を提供するA社と200件の特許を提供するB社間のクロス・ライセンス交渉では,A社がB社にいくらかの支払いを求められることが予想される。パテント・プールではプールに提供した特許件数比率によりロヤルティ配分が決まるかもしれない。ここに特許の質としてスコアを持ち込むとその状況が一変する。 図2は2008年度に新たに登録された米国特許のデータである(注1)。取得した特許の件数では米IBM Corp.が4186件で1位であるが,取得した特許の平均点で並べるとIBMは100.4点で20位になる。件数では857件と16位であったリコーが平均点では118.0点と7位に躍進し,日本勢のトップとなる。件数ではなく特許の質を評価に持ち込むとこれほどランキングが変わるのだ。単純な件数ではなく,対象特許の総スコアをクロス・ライセンスやパテント・プールでのロイヤルティ交渉に持ち込めばこれまで得られなかったロヤルティが得られたり,これまで支払っていたロイヤルティが不要になったりする可能性は多分にある。もちろんその逆の可能性もあるが。
知財管理・活用のモデルとして紹介されることの多いIBMの図2での位置付けに違和感がある読者も多いだろう。しかし図3を見ていただきたい。これは各年度に新たにIBMが取得した特許のその後を分析したものだ。これによるとIBMが4年目,8年目,12年目の更新時に積極的に特許を放棄していることが分かる。しかも,放棄の度に残った特許の平均点が確実に上昇している。最初は地引網的に広く権利取得することで第三者による権利化を防ぎ,本当に必要なものだけを選び抜いて維持しているIBMの実力が如実に表れている。IBMの中では特許を件数だけで判断する時代はとうの昔に終わっていたのである。
藤森涼恵(ふじもりすずえ)
Ocean Tomo, LLC. Director,ニューヨーク州弁護士1992年京都大学法学部卒業。1999年New York UniversityのロースクールでLLM(Master of Laws)を取得。1992年松下電器産業株式会社に入社,法務部門にて米国知財侵害訴訟,知財ライセンス案件,技術提携案件,技術規格設立案件などを担当。松下電器在職中にニューヨークのWeil, Gotshal & Manges, LLPに外国人インターンとして勤務,訴訟案件を担当。2002年に経営コンサルティングのMcKinsey & Company, Inc.に移り,様々な業界におけるマーケティング立案,製品開発立案,リテール戦略立案などのコンサルティングを提供。現在,Ocean Tomoのシカゴ本社にて日本市場のニーズに合わせてサービスを提供するジャパン・サービスを担当すると同時にアジア市場全体を総括。知財ポートフォリオの定量的評価,知財棚卸支援,知財売買支援,研究開発戦略立案,知財活用・管理戦略立案などを提供している。 |
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