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知っておくべき米国独特の特許制度
[2009/09/14]


 「米国市場を重視するならば米国の特許制度を熟知してもっと活用するべきだ」。インスパイア国際特許事務所の弁理士である斉藤達也氏が指摘した。米国は世界最大規模の市場であり,日本企業は積極的に米国市場を開拓している。特に製薬業界は米国重視の姿勢を見せており,重要な発明については日本よりも米国へ優先的に特許出願する企業もある。これらの企業は,米国独特の特許制度を活用しているという。米国独特の特許制度にはどのようなものがあるのか。米国知財実務に詳しい斉藤氏に聞く。

(聞き手は品田茂=日経BP知財Awareness編集)

インスパイア国際特許事務所 弁理士 斉藤達也氏
インスパイア国際特許事務所
弁理士 斉藤達也氏

 一部の日本企業は,米国市場において米国独特の特許制度を積極的に活用している(関連記事)。米国独特の特許制度にはどのようなものがあるのか。

斉藤氏 「仮出願」,「継続出願」,「一部継続出願」,「継続審査請求」が代表的なものである。

 「仮出願」とはどのような制度なのか。

斉藤氏 「仮出願(Provisional Application)」とは,出願日を確保するために簡易な形式で行う特許出願である(注1)。本制度の特徴は,特許出願時にクレーム(特許請求の範囲)の提出が不要な点である。出願書類の記載形式も自由度が高い。極端な例だが,日本語の研究論文などをそのまま仮出願として提出しても構わない。さらに,出願費用も通常の米国出願(Non-provisional Application)に比べて安価である。従って,特に,「1日も早く出願日を確保したい緊急性の高い出願」や「外国出願の要否の最終判断に時間がかかる出願」については本制度が有効である。米国のみならず世界各国の特許出願システムの中で,最も利便性の高い出願制度の一つといえる。日本企業も積極的に本制度を活用すべきだ。
 米国で特許権を取得するためには,仮出願の出願日から1年以内に,仮出願に基づいて通常の米国出願を行ったり,仮出願に基づいてPCT(Patent Cooperation Treaty:特許協力条約)出願を行った後で当該PCT出願を米国に移行する必要があるが,この場合,特許権の存続期間の起算日は通常出願の出願日やPCT出願の国際出願日となるので,仮出願の出願日から計算すれば最長で1年の存続期間の延長効果がある。
 ただし,出願実務では,クレームを作る段階で発明の上位概念化や水平展開を図ることが多く,この作業を省略して仮出願を行った場合には,発明を十分に検討する機会が失われるリスクがある。そのため,クレームを作る余裕があるならば,たとえ仮出願であってもクレームは省略すべきではない。

 「継続出願」とはどのような制度なのか。

斉藤氏 「継続出願(Continuation Application)」とは,特許出願が拒絶された場合や,特許出願のクレームとは異なるクレームで権利化を図りたい場合などに,この特許出願を基礎出願(親出願)として,親出願の出願日を維持しつつ,新規事項を追加しない範囲で行う新しい特許出願である(図1)。
 継続出願の実体審査では,親出願の出願日を基準に特許要件が判断される。親出願に開示した範囲内であれば,親出願と異なるクレームを継続出願に含めることが可能であるため,クレームを最適化したい場合に有効である。例えば,親出願の出願後に発表された競業者の製品に合致するクレームを作りたい場合である。

図1
図1


 「一部継続出願」とはどのような制度なのか。

斉藤氏 「一部継続出願(Continuation-In-Part Application)」とは,上述の継続出願とほぼ同じであるが,親出願に新規事項を追加できる点で異なる。
 本制度は,「親出願が記載不備で拒絶された後に記載漏れした部分を追加する」,「親出願の出願後に知り得た実施形態や実験データを追加する」,「継続出願の際のクレーム補正などが“新規事項の追加”と判断される可能性がある」場合などに有効である。 ただし,新規に追加した部分については,一部継続出願日を基準に特許性が判断される。したがって,親出願の公開後に一部継続出願した場合,親出願の発明に対して自明なレベルの発明を追加してもその特許性は否定される可能性が高い。 また,特許権の存続期間の起算日は最先の親出願の出願日になるため,親出願の発明に対してレベルの高い発明であれば,通常出願として出願したほうが,特許の存続期間が長くなる点で好ましい。

 昨今,日本企業の間で活用が進んできたのが「PCT出願時のバイパス継続出願」である。「バイパス継続出願」とは,PCT出願を米国に移行するときに,PCT出願を親出願として行う継続出願である。
 多くの企業が米特許法102条(e)が規定する“後願排除効(注2)”を確保するために本制度を活用している。米国特許法では,日本語で出願・公開されたPCT出願をそのまま米国に移行しても,後願排除効は一切認められない。バイパス継続出願の場合,継続出願の出願日が後願排除効の基準日として認定される。
 さらに「バイパス一部継続出願」を行うことも可能である。「バイパス一部継続出願」とは,上述のバイパス継続出願を一部継続出願として行う出願である。この場合,バイパス継続出願の効果に加えて,新規事項を追加できる効果がある(図2)。副次的に翻訳制限を緩和する効果も生まれる。通常は,日本語によるPCT出願を米国に移行する際,日本語を正確に翻訳しなければならない。バイパス一部継続出願では,新規事項の追加が許容されることから,意訳や文章の組み換えなどが可能となる。

図2
図2


 「継続審査請求」とはどのような制度なのか。

斉藤氏 「継続審査請求(Request for Continued Examination)」とは,親出願の審査が終結した後に,親出願の出願日を維持しつつ,新たな出願を行うことなく,さらなる審査の機会を得るための制度である。例えば,親出願が最終拒絶されると補正できる範囲が極めて制限されるが,この制限を超えて補正することで権利化が図れる可能性がある場合には,継続審査請求を行うことで補正範囲を実質的に広げることが可能となる。

 今後の企業の知財部員に必須の能力・要素は何か。

斉藤氏 (a)国際性,(b)多様性,(c)機動性,(d)上流性,などがあるだろう。 (a)は,ここで紹介した各制度のように,米国や欧州,中国など知財主要国の法制度を正しく理解することである。
(b)は,画一的な提言ではなく,自社の戦略や状況に合致した提言をすることである。
(c)は,改正された法律や最新の判例などを即座に理解・適用することである。
(d)は,知的財産の形成過程における「上流工程」の重要性を理解することである。特許出願後に手当てできる幅が狭くなってきていることを考慮すると(関連記事),発明発掘から明細書作成までの「上流工程」が一層重要になってきていることが分かる。上流工程を重視することで結果としてそれ以降の時間と費用を削減できる。
 これらの活動が海外でのビジネス・リスクの低減に結び付くだろう。

 これら各制度については斉藤氏の著書「米国特許法入門」(法学書院)で詳しく紹介されている。
  (詳細はこちら


◆ お知らせ ◆
斉藤氏は,知的財産管理技能検定1級対策セミナー「外国特許権利化関連」の講師を担当している。
詳細はこちら


注1:
仮出願制度は,元々,外国人が外国出願に基づくパリ条約上の優先権を主張して米国出願して米国特許権を取得した際に,米国出願日から20年(外国出願日から起算すれば最大21年)の存続期間を得ることができるのに対して,米国人が米国出願を行って米国特許権を取得した際には,米国出願日から20年の存続期間しか得ることができないため,米国人にとって不利益があると考えてその解消を目指した制度である。ただし,日本企業からすれば,出願日を確保するための簡易出願制度としての意義が大きい。

注2:後願排除効とは
 先に出願された特許出願に記載されている発明と,その後に出願された特許出願のクレームに記載されている発明が同一である場合,後の出願は,先の出願が存在することによって拒絶される。つまり,先の特許出願は,その後の特許出願による発明の権利化を排除する効果を持つ。この効果を後願排除効という。一般的には,先の特許出願の出願日を基準として後願排除効が認められるが,米国においては,上述のように英語以外の言語によるPCT出願に対する例外が存在する。






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