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前回は定量的なスコアリングによって特許を評価する利点を検討した。今回は「特許がいくらなのか」という経済的評価で稼ぐ方法を考える。 ここ数年にわたり「知財経営」という言葉が流行した。このためか,経営陣が知財部門に「いざというときのために自社の知財の価値を算出しておくように」という宿題を出すケースが増えたようだ。残念ながら「いざ」というときのための知財評価など存在しない。われわれの身の回りにある様々なものの値段は時間と状況にあわせて変化する。知財も同じだ。 一般的に知財の評価には「マーケット・アプローチ」や「インカム・アプローチ」,「コスト・アプローチ」などの経済的評価手法が応用できる。同じ知財を同じタイミングで評価しても違うアプローチを選べば結果は異なる。しかしこれは奇異なことではない。マンションを例に挙げると,自宅としてマンション購入を検討するなら希望タイプのマンションの一般的な価格を調べるであろうし(マーケット・アプローチ),賃貸による家賃収入を期待するなら,将来回収できそうな家賃を念頭にどの程度のマンションを購入するかを考えるであろう(インカム・アプローチ)。非現実的な例だが,自分で土地を購入し,「そこにゼロから家を建てるとしたらどれくらいかかるか」を考え,「それなら建築済みの家を買ったほうが安いかもしれない」と考えることもあるかもしれない(コスト・アプローチ)。 結局,知財であろうがマンションであろうが,「何のために取得するのか」という目的が決まらなくては経済的評価のアプローチも決まらない。「いざ」というときのために評価をしろ,と言われる知財部門は気の毒である。まず経営陣が「何のために」知財の取得や売却をするのかを明確にし,それに合わせて経済的評価を行う。相場を把握することで初めて知財の取得や売却で儲けることが可能になる。相場が分からなければ損得勘定ができず,損得勘定ができなければ儲けることはできない。 現行もしくは近い将来の事業で使用したい特許の購入やライセンス導入を考える場合,その事業計画により期待されている利益の一部を当該特許に割り当てて現在価値を算出すると良い。利益の割り当てに当たり,割合の検討が全くつかなければ「営業利益の25%」を使用される全技術の貢献度とし,それをさらに各技術に割り振ると良いだろう。この「営業利益の25%」は「25%ルール」として,依拠すべきデータがない場合の技術貢献度相場として米国で広く受け入れられている。全技術の貢献度が25%であるから,一つの製品やサービスに使用される技術が多ければ1件あたりの技術の貢献度(経済的価値)は低くなる。 「使う予定はないが取得・ライセンスしておくほうが安全」といった特許の適正価値算出は,依拠できる事業計画がないため,より難しいだろう。このような場合はRoyaltySource といったロイヤルティ・データベースや特許流通業者による売却価格情報などから類似の技術の取引相場を把握すると良いだろう。 自社が特許を売却する場合は「何のために売るのか」を常に念頭に置き,自制することが重要だ。自社では使用しておらず,維持費がかかるだけの特許の処分であれば,将来発生する維持費をベースに売値を考えればよい。投資回収を目的とするなら,発明にかかった費用,過去の権利取得・維持費用がベースとなるだろう。自社の事業計画作成ではありえない「リスクゼロの世界的大成功事業」シナリオを“潜在買手”のために描き,売却額を想定するのは危険だ。無駄に期待値があがり,どのような金銭オファーにも満足できず,結果的に取り引きが成立せず1円も回収できずに終わることになる。 特許流通市場はまだまだ黎明期にある。買い手と売り手がそれぞれ「何のために」取り引きをするのか論理的に考え,合理的な市場参加者としてふるまうことで初めて,多くの市場参加者が適切に儲ける活気ある市場が実現できる。
藤森涼恵(ふじもりすずえ)
Ocean Tomo, LLC. Director,ニューヨーク州弁護士1992年京都大学法学部卒業。1999年New York UniversityのロースクールでLLM(Master of Laws)を取得。1992年松下電器産業株式会社に入社,法務部門にて米国知財侵害訴訟,知財ライセンス案件,技術提携案件,技術規格設立案件などを担当。松下電器在職中にニューヨークのWeil, Gotshal & Manges, LLPに外国人インターンとして勤務,訴訟案件を担当。2002年に経営コンサルティングのMcKinsey & Company, Inc.に移り,様々な業界におけるマーケティング立案,製品開発立案,リテール戦略立案などのコンサルティングを提供。現在,Ocean Tomoのシカゴ本社にて日本市場のニーズに合わせてサービスを提供するジャパン・サービスを担当すると同時にアジア市場全体を総括。知財ポートフォリオの定量的評価,知財棚卸支援,知財売買支援,研究開発戦略立案,知財活用・管理戦略立案などを提供している。 |
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