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100年に1度といわれる世界的不況の中,日本企業の知財戦略も経済状況に応じた見直しが求められている。海外での知財戦略に注目すると,今後,確実に改善が必要とされる点の一つとして,弁護士や弁理士(代理人)の効果的な活用が挙げられる。特に,海外代理人の費用管理は,きわめて重要な課題である。一般的に日本企業は国内代理人への費用の支払いと比較して,海外代理人に対しては寛容な支払いを行ってきているといわれるからだ。
そこで,米国特許事務所に勤務し,米国で知的財産制度を研究する一方,米国代理人の費用削減,業務改善など,実務上の問題も研究している弁理士の吉田哲氏に“米国代理人の効果的な活用法”として,実務における業務改善のポイントについて寄稿してもらった。4回に分けて連載する。 第1回目は,「どうして米国代理人は,日本からの指示書どおりの対応しかしてくれないのか?」という問題について,その理由を分析し,対応策を紹介する。本稿で紹介する事案は特許業務に関するものであるが,その視点は海外代理人を活用する必要のある渉外業務一般に広く活用できるものである。 意外と保守的な米国代理人の存在 米国で勤務して大変驚いたことの一つは,日本からの指示を厳密に守る保守的な米国代理人の姿勢である。つまり,米国代理人の中には,「日本からの指示は絶対であり,指示書の文言は極力変更しないことがベストな対応」と信じている人たちが一定数存在するのである。実際,日本の知財関係者からも,「米国代理人は自分達の指示書をコピー&ペースト(コピーして貼り付け)している」,また,「修正といっても表面的なことだけ。権利範囲に影響を与えるほどの実質的修正まで踏み込んでくれない」といった意見が聞かれることも珍しくない。さらに,そのような保守的対応でありながらも高額な代理人費用が請求される点で,日本の知財関係者の不満はさらに増幅されているようだ。では,保守的な対応は,米国代理人の文化なのだろうか。 結論を先に述べるならば,米国代理人も米国内の顧客の案件であれば,それなりに積極的な対応を行っている様子である。しかし,日本からの案件については保守的に対応することが多いようだ。 この問題についての筆者の意見は次の2点に集約される。 1) 現状,日本企業からの案件であれば,保守的対応が無難 2) 米国代理人の効果的活用には,国内とは異なる指示形態が必要 以下,その理由を紹介する。 米国代理人は「自分たちの指示以外のことはしない」と日本の知財関係者が不満を口にする場合,米国代理人のどのような対応を指しているのだろうか。まず,米国代理人の対応を「保守的」,「積極的」の2種類に区分する。また,日本側の米国代理人に対する修正の期待度を「自由度」として定義する。 保守的/積極的な対応とは? 中間処理業務(米国特許商標庁:USPTOへの補正書,意見書を作成する場合)であって,顧客から指示書を受け取った場合,指示内容に相当の間違いがないかぎり,その指示書に基づいて対応することは原則であろう。本稿が問題とするポイントはその程度である。 顧客(日本企業,日本弁理士)からの指示内容に極力従う対応を「保守的」とする。その程度は,英語の文法や用語の間違い以外には,極力修正を加えない。日本側から,「米国代理人は自分達の指示書をコピー&ペーストで処理している」,といった意見が聞かれる対応である。一方,「積極的」な対応とは,必要に応じて顧客の指示以外の対応を行なうことである。一例として,USPTOへの拒絶理由対応において,独自にクレームの文言を修正したり,さらなる補正案を提案したりする対応である。日本側の要望に沿った対応であれば高い評価がされる一方で,「米国代理人が技術も分からずに勝手にクレームを修正した,不要な提案をしてきた(しかもその時間分の手数料を請求してきた)」といった批判が聞かれる対応でもある。 米国代理人の自由度の定義と区分け 米国代理人に指示を出す場合,日本側では米国代理人にどの程度の修正を期待しているのだろうか。本稿では,日本側が米国代理人に期待する修正の程度を自由度(米国代理人の裁量)と定義し,自由度が小さい場合と大きい場合の二つに場合分けし,分析する。 (1)代理人の自由度小 代理人の自由度が小さい場合とは次の場合が該当する。
このような場合,米国側での勝手な修正や補正の提案は望まれない場合が多い。米国代理人には,日本側で作成した指示書面に従っての対応(保守的な対応)が望まれるケースである。その他,担当者や発明者が忙しい場合に代理人の自由度が小さくなる場合がある。つまり,新しい提案や質問などは歓迎されず,顧客からは「そのまま対応すればよい」といった回答がなされる場合である。また,技術的に相当複雑になってしまったため,もはや米国代理人に技術的な理解を期待しない場合も該当する。現に,半導体を扱う日本企業の知財部員から「半導体が専門という米国代理人であっても,明細書から自分たちの発明を理解してもらうのは事実上不可能。自分たちの指示通りで良い」という意見を聞いた。 (2) 代理人の自由度大 代理人の自由度が大きい場合とは次の場合が該当する。
このような場合,米国代理人にはクレームの修正や新しい議論の追記・提案など積極的な対応が期待される。 代理人の自由度とその対応の場合分け 次に,上述の米国代理人の自由度(大,小)とその対応(保守的,積極的)の場合分けを示し,それぞれの対応における日本側の評価を説明する。
(1)自由度が小さい場合: 代理人の自由度が小さい場合,米国側は保守的な対応が望ましい(1A,○と表記)。上述のとおり,日本側で十分に議論されて決定されたクレームに,米国側での修正の余地は少ないからである。また,特許性については多少あやしいと認識しながらも,審査官をなんとか説得しようと強気な対応が日本側で決定されている場合,さらなる補正案の提案なども必要とされない。よって,この場合,指示書通りの対応は米国代理人にとって正しい対応といえる。 一方,このようなケースにおいて積極的に修正や提案する米国代理人の対応は歓迎されない(1B, ××)。特に,特許性を高めるために勝手にクレームの文言に修正を加えたとなれば,顧客から「指示もしていないのに,勝手に修正するな」といった苦情が届き,自分の作業が不要であったと認識することになる。 特に,米国代理人にとって深刻な問題は,指示以外の対応を行うために費やした時間を顧客に請求するか否かである。請求すれば,不要な業務に対する請求として顧客の不満度は高くなる。その一方,費用請求しなければ自分の売り上げが減少してしまうのである。したがって,自由度が小さいときに積極的な対応を取ることは,米国代理人とって最悪のケースといえる。 (2)自由度が大きい場合: 自由度が大きい場合,米国代理人の保守的な対応はあまり好意的に思われない。上述のとおり「米国代理人は何もしない」といった批判になるのはこの区分である。一方,積極的な対応を行った場合は,その評価は,その内容次第である。もし適切な修正や提案であり,顧客に気に入ってもらえればきわめて高い評価を得ることができる(2B,◎)。具体例として,拒絶理由に対して,米国代理人が独自に請求項を追記したところ,次のオフィス・アクションでそのクレームだけに特許が認められたケースなどが該当するであろう。しかし,提案した内容が気に入ってもらえなければ,そのような個所は通常削除することが要求される(2B,×)。米国側にとっての懸念としては,「発明に対する自らの理解不足を顧客に悟られてしまう」ことや,上述の積極的対応で紹介したように「不要となった自分の作業時間を顧客に請求するか否か」といった点である。つまり,自由度が大きい場合であっても,積極的対応を取ることは,米国代理人とって評価を得るチャンスではあるものの,失敗するリスクも取らなければならない作業といえる。 (3)保守的 対 積極的 上記の区分から,自由度の大小にかかわらず,保守的対応を取る限り,常に,安定した評価を得ることができる点が明らかである。特に,米国側にとって,保守的対応を取る場合は,日本からの指示書の確認作業がその中心となり,作業負担は少なく,その時間を管理しやすい利点もある。 積極的対応をとる場合,高い評価を得るチャンスではあるものの,失敗すれば苦情となり自分の評価を下げることになる。さらに,どれだけ良いサービスであったとしてもあまりに高額な費用では高い評価は得られない。積極的対応時には,妥当な費用の中で行う必要もある。
<第1回のまとめ>
保守的対応が無難であり,積極的対応がリスクを伴う点は,米国だけでなく日本でも同様だろう。では,どうして米国では保守的対応が多いのだろうか。筆者は,この点に関し,日本側の指示形態の不明瞭さにその原因があると考える。 見直しの時期にきた米国知財マネジメント 第1回 米国代理人の対応(保守的,積極的)と自由度の定義 第2回 保守的対応の理由と日本側の誤解 第3回 保守的対応に対する日本側の留意事項 第4回 米国代理人への指示形態の改善 |
<過去の連載>
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