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米国知財レター

見直しの時期にきた米国知財マネジメント
−保守的な米国代理人の存在理由と米国代理人への指示形態の改善点−

第2回 保守的対応の理由と日本側の誤解

[2009/10/07]

奈良先端科学技術大学院大学
産官学推進連携本部
客員准教授/弁理士 吉田 哲
POSZ LAW GROUP, PLC(現職)
客員准教授/弁理士 吉田 哲





 100年に1度といわれる世界的不況の中,日本企業の知財戦略も経済状況に応じた見直しが求められている。海外での知財戦略に注目すると,今後,確実に改善が必要とされる点の一つとして,弁護士や弁理士(代理人)の効果的な活用が挙げられる。特に,海外代理人の費用管理は,きわめて重要な課題である。一般的に日本企業は国内代理人への費用の支払いと比較して,海外代理人に対しては寛容な支払いを行ってきているといわれるからだ。
 そこで,米国特許事務所に勤務し,米国で知的財産制度を研究する一方,米国代理人の費用削減,業務改善など,実務上の問題も研究している弁理士の吉田哲氏に“米国代理人の効果的な活用法”として,実務における業務改善のポイントについて寄稿してもらった。4回に分けて連載する。
 第2回目は,日本側の指示形態の問題点と,その結果として,米国代理人が保守的対応を好む理由について紹介する。

 保守的対応が無難であり,積極的対応がリスクを伴う点は,米国だけでなく日本でも同様だろう。では,どうして米国では保守的対応が多いのだろうか。その理由として,筆者は次の2点を主要な原因として考え,また,それぞれに関する日本側の誤解があると考える。

(1) 自由度の不明瞭さ
(2) フィードバックの不存在

自由度の不明瞭さ
 まず,日本の知財関係者に考えてもらいたいのは「米国代理人の自由度を明瞭に指示しているか」という点である。筆者が日本の知財関係者に聞く限り,自由度を明瞭に米国代理人に伝えているといった実務はあまり行われていない様子である。下に紹介するように,指示書の最後に毎回同じ文面で「必要な場合には,修正してください」といった記述では,実際のところ,米国側にはなにも伝わっていないのである。
 前述の(1B)で紹介したように,自由度が小さい場合に積極的対応を取ることは,その顧客を失うほどの致命傷になりかねず,米国代理人として絶対に避けなければならない事態である。それならば,自由度が明確でない案件については,常に保守的対応を取ることは,顧客とのトラブル回避の視点から代理人にとって必要な処世術といえる。
 (日本側の誤解) 日本側の誤解とすれば,自由度については一切説明していないにもかかわらず,米国代理人は「当然,自分たちの要望を理解してくれているはず」と期待していることにあると考える。日本側からすれば,「自分たちの指示書の内容に不明な点があったり,また,拒絶理由が解消されていないと米国代理人が考えるのであれば,当然,修正してくれるだろう」と期待しているのかもしれないが,米国代理人の中には「顧客はこの文言で特許がほしいのだから,拒絶理由を解消していないと思える場合であっても,そのまま提出すべき」と考えている場合があるのである。

【If necessary” の意味】
 日本からの指示書の最後には,「必要があれば修正してください(please revise … ,If necessary)」といった文章がある。その意図を米国代理人はどれだけくみ取っているのであろうか。正直なところ,どのような案件であっても,常に使われる常用句であればなにも伝わってこないことが多い。特に,米国代理人にとって不明瞭な点は,一体どんなときが必要な場合(If necessary)なのか,という点ではないだろうか。修正が必要な場合としては,誤字脱字が見つかったような場合(形式的修正)から,指示書の補正案では拒絶理由を解消していないと思われ場合(実体的修正)まで,修正の必要な場合は様々である。本当に米国代理人の修正を期待するのであれば,一体どんな場合が必要な場面なのか,その必要の程度を伝達する必要があるであろう。
 具体例としては,「拒絶理由を(あなたの経験から)80%以上の確率で解消できていないと考えるならば・・・(修正してほしい)」,「誤字脱字があれば修正してほしい,でも,それがなければそのまま(最短のレビューで)提出してほしい」といったように,修正の必要のある場合を明確にすることであろう。


フィードバックの不存在
 次に,日本側に考えてもらいたい点は「米国代理人に対して自分たちの評価が正しく伝わっているのか」という点である。

(1)積極的対応に対する評価
 積極的な対応(かつ,適切な対応)をとった代理人に対しては,「よい仕事をしてくれた」という高い評価を伝える必要があるであろう。リスクをとって作業したにもかかわらず,高い評価を得られなければ,米国側にとって積極的対応を取る理由は少なくなるからである。しかし,日本の知財関係者に聞くかぎり,「良い仕事をしてくれた」といったフィードバックはあまり行われていない様子である。日本側の実情としては「処理が終わった案件について米国代理人と話し合うことはない(忙しいから)」,「代理人費用が高い場合の苦情を除き,フィードバックはしない」といった意見が多い。
 また,「自分達は,積極的対応をしてくれる代理人に対しては,高く評価している」と聞くことはあるものの,では,その評価をどのようにして当人(米国代理人,担当者)に伝えているのかといえば,「その事務所に次の案件を出しているのだから,自分たちの満足度は伝わっているに違いない」といったように,評価の伝達が日本側の勝手な期待に過ぎないことも多い。

 日本側は「自分たちの評価が米国代理人にそれなりに伝わっている」と期待しているのかもしれない。しかし,筆者が米国で勤務する経験からすれば,日本が期待するようなフィードバックは一切伝わっていない印象である。
 米国にも,定期的に日本に出張し,その面談時に自分たちの業務についてフィードバックを得ることができる米国代理人はいるだろう。そのような米国代理人であれば,日本企業のために積極的対応を取ることが期待できる。しかし,そのような米国代理人は全体からすればほんの数%しかないと推測する。大多数の米国代理人は日本側との面識もなく,そのフィードバックをもらうこともない。高い評価がされているといっても,それが米国代理人に伝わっていないとすれば,評価がされていないのと同じであろう。むしろ,積極的対応をしたにもかかわらず,日本からのフィードバックがなければ,米国側としては「余計な仕事をしてしまった」と誤解しかねないのである。

(2)保守的対応に対する評価

 同様に,自由度が大きい案件であるにも関わらず保守的対応をされ,この点に不満があるのであれば,その不満もしっかりと米国代理人に伝える必要があろう。自分たちの処理した案件に対してなんの反応もないとすれば,「顧客はその案件に満足してくれた」と米国側は誤解するからである。実際,米国代理人の話を聞く限り,保守的対応をすることに日本企業が不満を持っていることを認識していない代理人も多い。
 指示書どおりに対応した場合に「この案件についてはもっとあなた流の記載に変更してほしかった」というコメントがあれば,米国代理人ももっと修正できたことを気付くからである。さらに,米国代理人の作業は常に費用との兼ね合いで考えるべきである。「自分たちの指示書通りの対応にしては,代理人費用が高かった(もっと安くしてほしかった)」といったフィードバックも効果的と考える。費用面で不満があると米国側が理解すれば,保守的対応時の費用削減に効果があると思えるからである。

【米国代理人,保守派のコメント】
 この問題の調査を始めてから,様々な場所で米国代理人に保守的対応が多い理由を聞いてきた。以下,筆者が独自に保守派と区分けした代理人たちの代表的なコメントである。なお,保守派といっても,自分達を保守派と自覚しているわけではなく,指示書どおりに書面を作成するスタイルが,日本顧客とのトラブルを回避し,業務効率を高められる,最も理想的な業務であると信じている人たちである。

(1) 中間処理では常にファイル・ヒストリーに注意する必要がある。とにかく,顧客の指示内容以外のことは書けない(書かない方が無難)。将来,特許が限定解釈されたとき,あなたは責任を取れるのか?
(2) そもそも日本の顧客(弁理士,知財部員)は忙しい。指示を送った案件について,修正案の許可を求めたり,また,提案することは,彼らをさらに忙しくすることになる。よほどのミスがない限り,そのまま提出して,再度拒絶理由をもらうほうが彼らにとっても望ましい。米国実務では,Final Office Actionをもらったとしても,継続審査請求(RCE)や継続出願(CA)を行えるため致命傷にはならない。それらの費用も了承済み。
(3) 日本代理人の方が技術にもビジネスにも精通している。自分たちに期待されていることは英文のチェック。技術的な議論は日本側の仕事。(日本側に不満がある?)これまで顧客の指示どおりに処理して,苦情をもらったことがない。
(4) 顧客が補正案を作成した場合,顧客はこの文言どおりの特許がほしいのだろう。それならば,自分たちは,その文言を一言でも修正すべきではない。

 これらのコメントの真意は分からない。しかし,その語り口調から察するに,保守的な対応に日本側が不満を持っているとは理解していない様子である。


保守的対応のまとめ
 米国代理人が保守的対応を取ることに対してまとめを紹介する。
 積極的対応を取ることは米国代理人にとって,リスクと負担のある作業である。にもかかわらず,日本からの指示には,自由度が明確に指摘されていない場合が多くあると考える。日本側が期待する米国代理人への自由度が不明であれば,保守的対応こそがトラブルを回避する点で米国側での最適な対応といえる。
 また,積極的対応を取ったとしても,高い評価を米国代理人に伝える実務は確立されていない様子である。その一方,失敗したときだけ苦情が届くというのが,日本からの中間処理実務といえるのではないか。そうであれば,米国代理人にしてみれば,リスクを取ってまであえて積極的対応をする理由はさらに小さくなる。

【積極的な代理人】
 自分の周囲の代理人がすべて保守的というわけではもちろんない。筆者は,これまでにも,また,今も積極的な対応をする代理人の下で仕事をしている。積極的対応の例としては,顧客の許可なく,第1クレームの修正を行なった代理人や,意見書での議論の展開を思い切って変更した(顧客の議論は削除)代理人である。それらの場合に顧客とトラブルになったとは聞いていない。また,筆者の印象として,修正後のクレームや意見書のほうが理解しやすいものであったと感じた。
 彼らに共通する特徴といえば,@)パートナー弁護士,A)日本への出張経験を有し,顧客(担当者)との面識がある,B)その顧客と長年の業務関係がある,といった点が挙げられる。推測であるが,担当者の人柄やこれまでの業務の進め方から,自分たちに許容されている自由度を理解しているように思える。

<第2回のまとめ>
 日本側が期待する自由度が不明である以上,米国側としては保守的対応を取らざるを得ないことが多い。米国側には,今回紹介した以外にも,積極的対応を取れない事情が存在する。次回は,それらの事情を説明するとともに,保守的代理人が存在する本質的理由について分析を行う。


見直しの時期にきた米国知財マネジメント

第1回 米国代理人の対応(保守的,積極的)と自由度の定義
第2回 保守的対応の理由と日本側の誤解
第3回 保守的対応に対する日本側の留意事項
第4回 米国代理人への指示形態の改善




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