![]() |
![]() |
![]()
1990年代初期,Philips社,ソニー,太陽誘電,リコーはオレンジブック1)関連のCD-RとCD-RW特許をプールすることに同意した。Philipsはオレンジブックの規格を遵守するために必要なPhilipsの特許(Raaymakers 特許)を含むパッケージのライセンスを,Princoを含むCD製造業者に与えた。しかし,Princoが他の数社と同様にPhilip へのロイヤルティの支払いを停止したため,Philipsの特許権を侵害する製品を輸入したとして,PhilipsはPrincoをITCに訴えた。 オレンジブック規格においてRaaymakers特許技術が採用されることになったが,Philipsのパッケージ・ライセンスはオレンジブック規格を遵守する際に用いられなかったソニーの特許(Legadec特許)も含んでいた。Raaymakers 特許およびLegadec特許によってカバーされている技術は,未記録のCD-R/RWディスク上の位置情報をエンコードする方法であり,前者はアナログ方式で後者はデジタル方式である。 2009年4月に判決が下された裁判では,特許権濫用2)による米独占禁止法違反に当たるか否かを判断するために,A)パッケージ・ライセンスに特許権濫用となる違法な抱き合わせがあったかどうかという点と,B)Philipsとソニーの間で反競争的な合意があったかどうかという点が争点になった。 特にA)の点に関しては,抱き合わせされた特許,すなわち,Legadec特許が,オレンジブック規格の標準化技術を実施するために重要な技術であったか否かが争点となった。パッケージ・ライセンスには,抱き合わせ特許の重要性を確実に見極めるための高コストな裁判を避けることができるという大きな利点があるとされている。CAFCが指摘しているように,パッケージ・ライセンスに重要か否かが後に問題となるような特許を含むことを禁止してしまうと,むしろパッケージ・ライセンスが持つ競争を促すという潜在的効率性を失わせてしまうとことが考えられる。そこでCAFCは,客観的に見てパッケージ・ライセンスが行使された時点においてLegadec特許がオレンジブック規格に準拠するために重要となるかもしれないと信じられていたとされるならば,Legadec特許はオレンジブック規格に従うために重要であると見なせるとした。すなわち,実際に抱き合わせ特許がある技術を実施するために重要ではないということが後に明らかになっても,抱き合わせが違法でないとする判断に影響は及ぼさないということである。 本裁判でCAFCは,客観的にみてパッケージ・ライセンスが行使された時点において,Legadec特許がオレンジブック規格に準拠するために重要でないと信じられていたということが示されないとし,結果として,Philipsのパッケージ・ライセンスに違法な抱き合わせは見いだせないとした。 一方,B)に関してCAFCは, 仮に抱き合わせられた特許が,将来起こるかもしれない裁判など不確定な要素を未然に避けるために重要であったとしても,競合製品を作るために抱き合わせられた特許技術を競合者に開発させないような同意があった場合,米独占禁止法違反は免れられないとした。 そこで,オレンジブック規格に準拠する製品を作るためにのみLegadec特許の使用を許可するというPhilipsとソニー間での同意が焦点となった。CAFCは,もしPhilipsのRaaymakers 特許とソニーのLegadec特許が競合する技術であり,ソニーのLegadec特許が“商業的に実用的であった”ならば,Philips-ソニーの同意は米独占禁止法違反と見なされるとした。CAFCは,同意によって抑制されたとされる特許技術が“実際に”商業的に実用的であったということを示すのは困難であることから,特許権濫用を示すためにその証明の必要性はないとした。ただし,抑制された技術が商業的に実用的となる“可能性”があったか否かを示すことによって特許権濫用を見いだせるか否かは,問題点として残っているとした。CAFCは,Legadec特許の技術がオレンジブック規格製品の実際的な代替製品となる可能性があったか否かという点と,Philipsとソニーが競合する製品を作ることができるようLegadec特許をライセンスしないように同意していたか否かの点について,ITCが判断しなかった点を指摘し,ITCの判決を無効,差し戻しとした。 なお,Philipsは再審判請求において,二つの疑問点を提示している。一つは,ある特許を設定された製品規格の下でのみ使用するようライセンスし,競合する規格を作り出すために用いられる可能性を封じ込めることになる場合,それらの製品規格が競争することになる関連マーケットを明確にし,かつ,そのマーケットにおける競争が問題となっている合意によって損なわれたことを証明せずに,問題となる合意が反競争的と判断できるかという点である。もう一つは,もしそのような合意が反競争的と見なされたとしても,共同で設定した規格を実施するために用いられる,異なる特許権の行使を拒絶することは,特許権濫用根拠として適切なのかという点である。 本裁判の場合,Legadec特許を使用した製品を実際に市場に送り込んだ業者はいない。従って,実際の製品すなわち規格に準拠した製品と仮想的製品すなわち規格に準拠しない製品が競合する可能性があったかどうかは,仮定の要素が多く判断が難しい。再審判において,CAFCが製品規格に関連した仮想的競争についてどのように判断するのか興味深い。 < 著者紹介 >
前川有希子(まえかわゆきこ),米国ワシントンD.C.弁護士 日立製作所中央研究所で研究者として医用画像機器の研究開発に従事し,博士号を取得した後,米国に移住した。2002年にPatentAgent,2005年にワシントンD.C.弁護士の資格を取得。現在は,米国大手法律事務所を経て、現在 Snyder, Clark, Lesch &
Chung, LLP にて,主に,特許権取得業務,オピニオン(知的所有権に関する有効無効性や侵害に関するアドバイス)ならびにデュー・ディリジェンス(知的所有権,ライセンス,共同研究契約に関する様々な調査)を担当している。※著者の所属先・肩書きは、本コラム執筆時のものです。
|
<過去の連載>
![]()
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
企業戦略 | CIPO | 政策・法制 | 職務発明 | 訴訟 | 人材育成 | 産学連携 | 提言 | ニュースリリース | イベント・セミナー
| このサイトについて | 著作権・リンクについて | 情報提供 | 広告掲載について |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||