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藤森涼恵の知財show me the money


知財Show me the money
第6回 知財経営で稼ぐ

[2009/11/25]

(藤森涼恵=Ocean Tomo, LLC. Director)


 これまで5回にわたって色々な方法で「知財で稼ぐ」ことを検討してきた。今回はそれらの活動のすべてに共通する知財経営のあり方を考える。正しい知財経営なくして知財で稼ぐことはできない。

 事業会社にとって,特許を含む知財は事業を成功に導くためのツールである。よって事業の目標が明確にされて初めて,その目標達成に向けていかに知財を活用・管理すべきかを考えることができる。達成すべき目標が明確でなければ現場は一丸となって動けない。つまり,知財経営のプロセスは,まず事業経営のトップが事業の進むべき方向を明確にし,それを受けた知財職能トップが当該方向に進むために知財で達成すべき事項を明確にする。そして,知財の現場がその事項達成に向けて具体的アクションを同定し実践する,という流れだ。上流で滞っていては,知財経営はおぼつかない。そして,これが多くの日本企業で知財経営実践を阻害している要因ではないか。経営側による「目標の明確化と成功の定義」の欠如である。

 日本では,年次とともに役職が上がり,誰でも自然と経営スキルが身につき管理者となると考え,とりたてて経営者育成トレーニングを行ってはいない。しかし,トレーニングなしに経営スキルを体得するのは天賦の才を持った一握りのみで,多くの場合,適切なトレーニングが必須だ。「そんなものは教えてもらわなくても身についていくものだ,私だってそうしてきた」という経営者・管理者の多くが経営者として必要なスキルを欠いている。そんな経営者や管理者の下で経営スキルを持った人材が育つことは期待できない。

 経営トップが事業目標を定義し,それに合致した具体的な知財経営の成功の定義を知財職能トップが明示しなければ,現場は違う方向に走り出す。知財トップが「知財で経営に貢献しよう」という「掛け声」のみを発信するだけでは全く足りない。トップが成功の定義をしないのは,実はトップ自身が,何ができれば成功なのかを具体的に同定できないことにほかならない。そのために現場が何をやっても満足できない。結果,現場が疲弊する。トップは現場に考えさせて人材育成をしているつもりかもしれないが,これは自らの責任を放棄し人材と時間という大切なリソースを無駄にしている。このような組織で経営に貢献する知財,稼ぐ知財の実現など,ほど遠い。

 知財経営を実践するには,まず,トップが「何ができれば知財経営は成功なのか」を明確に定義することだ(図1)。例えば,多くの知的財産を所有する場合,そうした知的財産そのものから「収益を上げる」ことを成功の定義としてもよいだろう。所有する知的財産件数がそれほど多くなければ,それらを使っていかに「競合優位を実現する」ことを成功の定義としてもよい。これを起点に,何をすればそれらが実現できるか,を分解していくとアクションの具体性が増す。図1の右端のレベルまでは知財職能トップが示すべきであろう。なぜならこの段階でもさまざまな活動があり,いずれの活動を優先すべきかをトップが示さなければ現場が一丸となって取り組めず,力が分散してしまうからだ。経営の役割の一つである「優先順位付け」がここで求められる。

図1: 知財経営の成功の定義例
図1: 知財経営の成功の定義例


 いずれの活動を優先するかを職能トップが明確にしたら,現場がさらに具体的なアクション・プランを考え,実施することになる(図2)。この具体的アクション・プランの実施にあたってはマイルストーンを設定し,それが予定した時間軸内で達成されているかをチェックし,進行状況を確認する。達成できていない場合は,いかに修正するかを早期に考え手を打つ。達成確認を明確に行うためにマイルストーンは定性的ではなく定量的に設定する必要がある。

 日本が掛け声ではなく,具体的な「知財経営」を他国に先んじて実施し,素晴らしい知財と知財職能人材を世界に誇る資源として確立し,その活用によって稼ぐ日が待ち遠しくてならない。

図2: 知財による競合優位実現アクションプラン例
図2: 知財による競合優位実現アクションプラン例





藤森涼恵(ふじもりすずえ)
藤森涼恵氏Ocean Tomo, LLC. Director,ニューヨーク州弁護士

 1992年京都大学法学部卒業。1999年New York UniversityのロースクールでLLM(Master of Laws)を取得。1992年松下電器産業株式会社に入社,法務部門にて米国知財侵害訴訟,知財ライセンス案件,技術提携案件,技術規格設立案件などを担当。松下電器在職中にニューヨークのWeil, Gotshal & Manges, LLPに外国人インターンとして勤務,訴訟案件を担当。2002年に経営コンサルティングのMcKinsey & Company, Inc.に移り,様々な業界におけるマーケティング立案,製品開発立案,リテール戦略立案などのコンサルティングを提供。現在,Ocean Tomoのシカゴ本社にて日本市場のニーズに合わせてサービスを提供するジャパン・サービスを担当すると同時にアジア市場全体を総括。知財ポートフォリオの定量的評価,知財棚卸支援,知財売買支援,研究開発戦略立案,知財活用・管理戦略立案などを提供している。





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