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米IBMから新しい長官(Mr. David Kappos)を迎えた米国特許商標庁(United State Patent and Trademark Office: USPTO)が,審査促進のための新しい取り組みを発表している。今回の取り組みの中で,審査官は最初のオフィスアクションまでに多くの時間を使い,積極的にインタビューを行うことが推奨されており,日本企業にとっても今後審査官からインタビューを求められる頻度が高まる。米国の特許事務所Posz Law Groupに所属し,米国の知的財産制度,実務に詳しい吉田哲氏は,「これまでの書面だけの中間処理とは異なり,インタビューの有無,その際の特許性主張の仕方など,出願人の柔軟な対応が求められる。知財担当者のスキルの見せ場」と話す。審査促進に取り組むUSPTOへの対策と留意事項について同氏が解説する。
今後は審査官からインタビューを求められる頻度が高まる。発明を理解してもらえるチャンスなので,有効に活用する必要があると思われる。有効に活用するためのポイントとしては(1)発明説明の資料準備,(2)適切な代理人の選択,(3)クレーム構成の差違の主張,が挙げられる。 (1)発明説明の資料準備 インタビューを行う場合は適切な資料を準備することが望ましいと思われる。明細書の記載や図面をそのまま用いることは可能であるが,明細書の記載の単なる繰り返しになってしまうおそれがある。そのような説明では,インタビューの効果があまり期待できない場合があると思われる。 資料の一例としては,発明品(試作品)のカラーの図面,写真,動作を示すビデオクリップなどが有効と思われる。また,参照番号を付記したクレームなども,クレーム構成と実施形態との対応関係を明確にする点で効果的と思われる。 ※インタビュー用の資料といっても,それだけのために作成する必要はなく,国内の代理人向けに発明開示資料として利用したものが有効と思われる。インタビューの役割は,審査官に対する技術説明ともいえるので,従来技術の構成と,クレームされた構成要件とを比較できるものであれば有効に利用できると考える。 審査官からインタビューの申し出があった場合,おそらく,その準備期間は一ヶ月以内になると思われる。したがって,必要があればすぐに提出できる説明資料を事前に準備をしておく,または,米国出願依頼時にそれら説明資料も併せて米国側に送付しておく,といった対応が業務円滑化の点で望ましいと思われる。 (2)適切な代理人の選択(もしくは,教育) インタビューを行う際には,適切な米国代理人を選択することも重要だと思われる。すべての米国代理人が審査官とのインタビューに適しているとは考えられないからである。 例として,発明についての基本的知識が欠如しているような代理人では,明細書の記載の単なる繰り返しになってしまう。また,性格的に議論が不得手な代理人も存在する。最悪のケースとしては,審査官と口論になり,その後の関係が険悪になってしまうケースである。また,インタビューの役割をしっかり認識できていない代理人では,折角,インタビューを行っているにもかかわらず,審査官の心象や特許の可能性のある補正の方向など,まったく聞き出すことができない場合も想定される。 今後はインタビューの頻度が高まるので,インタビューを有効に活用するためにも,インタビューに適した代理人に自社の案件を担当してもらうことは望ましい対策と思われる(代理人の指名)。また,インタビューを通じて審査官の心象や今後の補正案の方向などを聞き出してもらいたいと日本企業が考えるのであれば,事前に米国代理人に対してインタビューの心得などを連絡/教育しておくことも必要になるかと思われる(代理人の教育)。
(3)クレーム構成の差違の主張 インタビューでは,発明の特許性を主張する。その際には,まず先行技術とクレーム構成との差異を説明する必要がある。これまで米国代理人に日本からの指示書の問題点を伺ったところ,多くの代理人から「日本の指示書は,技術分野や発明の効果などの説明は十分にあるものの,先行技術とクレーム構成との違いの説明が不足することが多い」という指摘がよくあるからである。発明の分野によって多少の意見の相違はあるが,一般的に米国代理人の意見として,特許性の主張で一番重要なポイントは,先行技術とクレーム構成との差異と伺っている。 日本からの指示書では,クレーム構成の差異を指摘することなく,発明の効果や技術分野の相違だけの場合があり,そのような指示書はいたずらに米国代理人を混乱させ,その理解のための作業時間を発生させているとの指摘がある。米国代理人へ指示をする場合,その最優先事項は先行技術とクレーム構成との違いなので,この点を十分に理解して適切な指示書を米国側に送付することは,インタビューの効率的活用に重要と思われる。 なお,インタビューを行う際の留意事項としては,次の3点が挙げられる。 資料は審査記録として保存されること インタビューで利用した資料は,全てとはいえないが,審査記録として保存されることが基本的手続きとなる(関連資料5)。将来の特許訴訟では,相手代理人がそれらの資料を確実に見直すものと考えられる。もし,それら資料の中で発明の構成を限定的に主張しているようだと,クレームの限定解釈の根拠となり得る。インタビューで利用する資料については,審査記録として保存されることを前提に準備することが必要と思われる。 審査官をミスリードしないこと 発明の特徴や特異な効果を主張する場合,クレーム構成に由来するものでなければならない点に留意が必要である。もし,クレームされた発明とは関係のない構成や効果を主張して特許査定を得たということが後で判明すると,審査官をミスリード(Fraud)したということで,特許が権利行使不能と判断されるおそれがあるからである。例としては,「本発明の製品はこんなに優れた効果がある」といった主張をしたにもかかわらず,その製品がクレームでカバーされていない場合や,その効果はクレーム構成から導かれたものではない場合である。インタビューで利用する資料は,審査官をミスリードしたと後で指摘されないように,確実にクレーム構成に由来する資料である点に留意が必要と思われる。 費用管理 インタビューの費用については,案件の難易度及び事務所によって大きく異なる。ワシントンDC付近の特許事務所でも,その費用の範囲としては$600程度から$2,000以上まで相当の幅がある。インタビューは,審査官の発明の理解を促す点で間違いなく効果的と思われる。しかし,その一回の費用が$2,000を超えるようでは,実務上のメリットが少なくなってしまう。インタビューを依頼する場合には,その費用も管理する必要があると思われる。 【インタビューの費用管理のポイント】 ●電話インタビューの活用 低コスト化の視点では,案件に応じて電話インタビューを活用すべきであろう。USPTOを訪問し審査官と面談するのか,電話インタビューで足りるとするのか,発明の重要度や拒絶理由の妥当性に応じてインタビューの形式を適宜選択することが望ましいと思われる。 ●見積もり依頼 インタビューの費用管理を行う場合,インタビュー費用の見積もりを米国代理人に提示してもらうことが必要になる。そして,見積もりが必要以上に高額であるならば,電話インタビューとする,もしくは,準備時間や論点を少なくして低額にしてもらう必要があるかと思われる。 特に,これまでインタビューを一度も依頼していない事務所にはじめてインタビューを依頼する場合には注意が必要である。米国側も一体どの程度のサービスを提供すべきか,その費用についての目算がないからである。もし,米国側が特許取得を最優先事項と考え,詳細な準備をし,複数人の代理人が面談に参加したとなるとその総額は高額となってしまうからである。そのような事態にならないためにも,見積もりをもらっておく,もしくは,どの程度の代理人費用を考えているのか,この点を事前に伝えておくことは重要と思われる。 ●固定費制の導入 個別の費用交渉は日本担当者の負担となる。業務の効率化の視点では,インタビュー1回あたりの費用を事前に米国特許事務所との間で設定してしまうことが理想的と思われる(固定費制の導入)。案件の難易度に応じた段階的固定費の設定など,様々な料金形態が考えられる。日本企業は自分たちの状況に応じた料金形態を米国特許事務所との間で検討してみてはどうであろうか。 なお,米国特許事務所の料金形態としては,一般的にタイムチャージ制が普及している。しかし,米国においても,顧客と事務所との関係により,柔軟な料金形態が採用されることも珍しくない(一例としては,固定費制)。タイムチャージ制だけが唯一の料金形態ではないのである。 ●ガイドラインの設定 審査官からインタビューの申込があった場合,多くの米国代理人はその費用を度外視して審査官との面談を日本企業に提案してくることが予想される。インタビュー形式の決定は,拒絶理由の妥当性に応じて変動するものであるが,面談が提案される度に,インタビュー形式を検討することは日本側の作業負担を大きくしてしまう。したがって,中間処理業務の円滑化の観点からは,審査官との面談をOKするのか否か,また,その予算の上限など,その基本的枠組み(ガイドライン)を事前に決めておくことが望ましいと思わる。具体例としては,「本案件は,特別な指示がない限り,電話インタビューに限る,その費用は$500まで」と通知しておくことで,いきなり高額請求される事態を回避できるものと考える。
ここで,インタビューの使い分けについて,David G. Posz米国特許弁護士のコメントを紹介する。
David G. Posz氏のコメント
審査官と面談(直接対話形式のインタビュー)を行うことは,審査官の理解を高める上で最善の対応といえる。しかし,面談の日程や米国代理人費用を考えるならば,常に最善の対応とはいえない。状況に応じて,電話インタビューを効果的に活用すること出願人にとって重要と思われる。では,どのようにして,電話インタビューと面談とを使い分けるべきか。次の区分けは1つの提案となります。 <面談が望ましい場合> 面談が一般的に望ましいと思われるのは,図面を使って発明を説明する必要がある場合である。一例として,発明が構造的特徴を有しており,それらが図面に開示されているものの,クレームの記載だけからは図面との対応を理解することが難しい場合がある。このような場合,図面とクレーム構成とを逐次対応させて説明することで審査官に発明を理解してもらえる。電話インタビューでは図面との対応関係を説明するのは一般的に難しいので,図面を用いて発明を説明する場合は面談が望ましいと考える。 <電話インタビューで足りる場合> 電話インタビューで足りると思われるのは,拒絶理由を回避できると思われる補正案を準備している場合である。この場合,事前に送付した補正案に基づき,電話インタビューにて審査官に補正後のクレーム構成を説明することができる。審査官が,補正により追加されたクレーム構成を理解し,先行技術との相違を認識してくれれば,インタビューの目的は達成する。拒絶理由は解消されたと審査官が考えれば,それなりの心象を伝えてくれることが予想される。万が一,補正が拒絶理由を解消するに不十分であると審査官が考えている場合,電話インタビューを通じてその旨の意向を伺っておくことで,更なる限定補正を準備することも可能となる。 簡単であるだが,上述のような区分けにより実務での判断を円滑に行えると思う。今後,米国特許審査では,インタビューが頻繁に利用されることが期待されている。上記区分けが,読者の皆様にとって,少しでも参考になることを願っている。なお,審査官から面談を申し込まれた際に,電話インタビューでの対応を出願人から主張したとしても,審査官が気を悪くしたり,また,その後の審査に悪影響を与えることはないと思われる。出願人は,発明の本質,拒絶理由の内容を考慮して,遠慮することなくインタビューの形式を判断すればよいと思われる。 おわりに 新長官の意向は,個別の案件についての審査促進を図り,結果として大量の審査待ち案件を早急に処理することにある。この点は,USPTOのユーザーである日本企業にとって望ましいことと思われる。そして,この審査促進の取り組みは,これまでの書面だけの中間処理とは異なり,インタビュー(面談,電話)の有無,その際の特許性主張の仕方など,出願人の柔軟な対応が求められるものである。知財担当者のスキルの見せ場でもあるので,日本企業が効果的に対応していくことを期待している。 ※ 本報告書は,平成20年TEPIA知的財産学術研究の一環として行われたものです。 審査促進に取り組むUSPTOへの対策と留意事項(上) 「早期決着を前提とした中間処理の対策が必要」 審査促進に取り組むUSPTOへの対策と留意事項(下) 「インタビューへの柔軟対応が,知財担当者のスキルの見せ場」 |
<過去の連載>
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