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「知のストーリーは知から生まれる」 日本知財学会、第8回年次学術研究発表会シンポジウム [2010/06/23]
日本知財学会第8回年次学術研究発表会が6月19日から2日間、東京の東京工科大学・蒲田キャンパスで開催された。シンポジウムでは、「日本を元気にする『知の紡ぎ方』」をテーマに、サントリーホールディングス・常務執行役員の辻村英雄氏、フジテレビジョン・執行役員・デジタルコンテンツ局長の大多亮氏、民主党・衆議議員、文部科学委員会委員の江端貴子氏、NPO法人産学連携推進機構理事長、東京大学特任教授の妹尾堅一郎氏によるパネルディスカッションが行われた。様々な産業において従来のビジネスモデル、価値形成の方法が複雑化する中で、各方面から事業創造を支える知のあり方、知を生み出すための方法論について議論された。
ハイボールの再ブームを呼んだ温故知新、環境緑化事業で生まれる知の連鎖 ウイスキー、ビールといった酒類事業から清涼飲料、食品、外食、生花事業まで幅広く事業を展開しているサントリー。文化・社会貢献活動にも力を入れている。最近では、R&Dから生まれた独自技術をもとに、花事業、健康食品事業、環境緑化事業といった新規事業を展開している。 ウイスキーの国内市場は、1983年のピーク以来、右肩下がりを続けていたが、昨年、四半世紀振りに売り上げ増へ転じた。その市場再生に貢献したのが“昭和”の時代に流行した「ハイボール」の再ブーム。サントリーの辻村氏は、ハイボールのヒットから新たな知、事業を創造していくためのヒントを指摘する。「ハイボール自体、技術革新ではなく、ウイスキーの飲み方の1つに過ぎないが、今の若い世代の方からすると“新しい”飲み方に映る。飲み方、つまりソフトの部分で付加価値を形成できた。新しい知は、生活知の再発見からも見出される。まさに、温故知新といえる」。同社のビール事業は、1960年代の参入以来、46年間赤字続きたったが、2008年に初めて黒字化を達成した。ここでは、「ザ・プレミアム・モルツ」、「金麦」といった高品質、廉価の両分野でのヒット商品が貢献した。消費者ニーズに合った価値を提供し、ブランドという知も確立した。 また、R&Dから生まれた新規事業、中でも昨春、独立分社化した環境緑化事業「midorie(ミドリエ)」では、これまで同社にはなかった価値創造の連鎖が生まれているという。独自開発した新素材で、軽くて衛生的にも優れる人工培土「パフカル」をベースに、屋上緑化、壁面緑化システムを提供。上海万博のテーマ館の支柱でも同システムが採用されている。「同事業では、急所技術を核に、ニーズが新たなシーズを生み、壁、屋上の緑化以外の様々なアイデアが生まれている。知の連鎖、付加価値の連鎖が起きている。新しい技術、知恵をビジネスに繋げることが極めて重要になっている」(辻村氏)。
クリエイターの持つ感性、自身が触れた“物語”が資産 テレビ業界は、インターネットメディア、サービスの台頭で、従来の広告を中心としたビジネスモデルが揺らいでいる代表的な業界。一方で、豊富なコンテンツ資産、クリエイターを抱えており、日本のコンテンツビジネスの海外展開をリードする立場であることは変わりない。 フジテレビの大多亮氏は、1990年代から数々のトレンディドラマ、映画を手掛けてきた名プロデューサー。現在は、経営陣から「視聴率稼ぎから金稼ぎの方法に知恵を絞るように」(大多氏)と命を受け、昨年6月にデジタルコンテンツ局へ異動。現在は、同社のインターネット関連事業のほかCS事業、CATV事業などの有料多チャンネル関連事業を統括する。 「当社の放送外収入比率は、各局の中では高いと言われているが、30%以上ないと今の時代厳しい」(大多氏)。新たな収益源を模索する中、パソコンやケータイでドラマやバラエティ番組を視聴できるVOD事業は、同社の成長事業の1つで、ここ数ヶ月、黒字を達成しているという。「主に通勤通学中の利用を想定していたが、自宅の自分の部屋で、ケータイで1時間ドラマやバラエティを視聴するような想像を絶する現象が起きている。VOD事業はテレビ各局の主戦場になるだろう」。 では、テレビ業界のビジネスを支える番組などのコンテンツ作りにおいて、ヒットメーカーの知はどのように生まれてきたのだろうか。プロデューサーとしての大多氏の経験上、“トレンディドラマ”のヒットは、時代を先読み、ニーズを反映した結果ではないという。「基本的には、クリエイター自身のこだわり、喜怒哀楽の感性が重要。ドラマ制作では温故知新から物語のアイデアが展開されることもある。私の場合、幼少の頃から慣れ親しんだ落語の影響が大きい。落語は、喜びから悲しみまで物語の宝庫。過去に色んな物語に触れていると、その分バリエーションも広がる。企業の研究開発においても同じことが言えるのでは」。
政策における知、「バックキャスト」「横通し」「見える化」の視点 国の知的財産政策、科学技術政策を応援する立場にある民主党衆議議員の江端貴子氏は、政策立案における知について、「backcast(バックキャスト)」、「横通し」、「見える化」の3つの視点が重要であると示唆する。 「バックキャスト」とは、5年後、10年後のあるべき姿を描き、そこから振り返って目標に到達するために何をすべきかを考える計画手法の1つ。数値目標の例としては、鳩山前政権が掲げたCO2排出削減目標(1990年比2020年に25%)が記憶に新しい。新成長戦略で掲げるグリーン・イノベーション政策がこれに関わる。現在の条件や環境に捉われ、従来の延長線上の発想になりがちな「forecast(フォアキャスト)」とは異なる可能性が見出される。 「横通し」は事業企画、予算編成における関連省庁間の調整を示し、実際に機能してムダをチェックしたのが「見える化」の象徴、内閣府行政刷新会議が行った事業仕分けだった。例えば、海外展開が期待され「知的財産推進計画2010」でも標準化活動の特定戦略分野となっている水ビジネスにおいては、関連省庁が事業内容によって厚生労働省、総務省、経済産業省、農林水産省、経済産業省、国土交通省と多岐に渡る。国を挙げて成長産業を振興し海外輸出を目指すには、こうした横の関係付けは欠かせない。「既存のビジネス重複なく漏れなくどう組み変えていくのか。組織には縦の機能が必要である一方、既存の構造を違う切り口でまとめていくことが今の政策にも求められている」(江端氏)。 政府の知的財産戦略本部「知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会」で会長を務めた妹尾氏も、国の知財政策について「従来、フォワード・モデル(いかに知財を生み、権利化し、活用するか)だったのに対して、今後はリバースモデルのイノベーション・シナリオを描き、必要な知をどうデザインし調達していくかが重要になる」と指摘する。 最後に、モデレータを勤めた妹尾氏が、今回のパネル討論から導き出した知を紡いだ。「無から有は形成できない。有を活用、組み合わせることで新しい有が生まれる。『バイオミメンティクス』(生物機能模倣)の研究では、生物から知を学んで機能性素材の開発に生かそうとしている。一方で、モノづくりではいい意味での遊び心やこだわり、ムダの効用を考えることも重要。ムダだと思った技術も、違う用途、世界観で俯瞰してみると意外な発見もある」。 (池田英一郎=テクノアソシエーツ)
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