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特許訴訟が増加傾向の中国
迫られる日本企業の対応力
[2010/08/03]
 中国における特許訴訟の状況分析は、中国進出または中国企業との協業の機会を増やそうとする日本企業にとって不可欠である。中国は国全体が特許訴訟を仕掛ける側に回ることで知的財産権を武器に産業競争力の強化を図ろうとする。中国の特許訴訟の近況や日本企業が中国で特許出願をする際の注意点などについて、その情報に詳しい北京銀龍知識産権代理有限公司および三好内外国特許事務所の専門家に聞いた。
(聞き手は、テクノアソシエーツ 日経BP知財Awareness編集長 朝倉博史)

出席者:
北京銀龍知識産権代理有限公司 副総経理 張 敬強 氏
北京銀龍知識産権代理有限公司 副総経理 雙田 飛鳥 氏
北京銀龍知識産権代理有限公司 東京事務所副所長 孫 令華 氏
三好内外国特許事務所 副所長 高松 俊雄 氏
三好内外国特許事務所 中国弁理士 金 国栄 氏

朝倉 特許訴訟は知的財産権の積極的な活用の一つの表れといえます。日本はその特許訴訟の件数が減っているとのことですが、中国ではどのような状況でしょうか。

 中国では特許訴訟が増加しています。中国企業と外資系企業との訴訟よりは中国企業同士の方が多くなっているという感覚です。中国で特許訴訟が増加傾向にある理由は、主に三つあります。第1に中国政府が知的財産権の取得を奨励し、特許の出願件数自体が増えていること。第2に中国は生産大国であり、生産量の増大とともに競争が激しくなり、権利侵害のケースが増えていること。第3に研究開発が盛んになり、知財権を行使する企業が増えていること。中国は知財を重視し、活用することで、知識経済を発展させ、競争力を強化する動きに国全体が動いています。

朝倉 最近の話題として、日本企業が対象になった中国の特許訴訟として富士化水工業の事例があります。最高人民法院(日本の最高裁判所)は2009年12月21日、被告である富士化水と中国企業に対し、5061.24万元(約6億6000万円)を共同で賠償する旨の判決を下しました。この賠償額は中国の特許訴訟の中でも高額の部類に入るのではないでしょうか。

 比較的高額ですね。ただ中国ではもっと高額で注目を集めた事例もあります。中国の正泰集団が仏Schneider Electric社を訴えた例では、一審で3.3億元(約43億円)の損害賠償が認められましたが、その後、和解が成立し、Schneiderは正泰に半額の1.575億元(約20億円)を支払うことに同意しました。これは実用新案の侵害に対する訴訟でしたが、その実用新案がとてもシンプルな割に賠償金が高額だったことから、われわれも驚きました。

張 敬強 氏
 
孫 令華 氏
北京銀龍知識産権代理有限公司
副総経理 張 敬強 氏
 

北京銀龍知識産権代理有限公司
東京事務所副所長 孫 令華 氏


審理中に賠償請求額が2倍以上に

朝倉 特に富士化水の事例から日本企業が学ぶことは何でしょうか。

雙田 他の企業に技術移転をする際には、その相手企業に第三者から権利侵害の警告があった場合には速やかに連絡する旨の契約条項を入れておくことです。今回、原告である中国企業が被告の中国企業に警告をした際、その連絡が富士化水には一切来なかったのではないかと考えられます。法律上、訴えられた場合には連絡する義務がありますが、警告の場合にはそれがありません。契約でそこを明記し、より早い段階で対応できるように備えておくことが重要です。

 日本企業は中国企業と協力関係を結ぶ際に、協業相手がどのような知財権を持っているかをよく把握し、ライバル企業の知財権の状況も含めて知財戦略を構築する必要があります。

雙田 飛鳥 氏
北京銀龍知識産権代理有限公司
副総経理 雙田 飛鳥 氏
雙田 富士化水の事例でさらに注目すべき点として、原告の中国企業が法定審理中に賠償請求額を3100万元から7600万元へ2倍以上に引き上げたことが挙げられます。富士化水はこれに対して異議を申し出ましたが、福建省の高級人民法院(日本の高等裁判所)はその異議を認めませんでした。このような増額の可能性を考慮し、最初の段階で請求額が低額でも気を抜かずにしっかりと準備する必要があります。

 請求額の増額は法律上、認められています。最初は証拠が少ないことから賠償額に確信が持てずに低額であっても、途中からさまざまな資料に基づいて損害額が上乗せされることがあります。もちろん原告側は増額する際にその根拠を示す必要があります。

朝倉 日本の特許訴訟でもそのように増額するケースはあるのでしょうか。

高松 日本でも損害額の変更はありますが、そのように大きな上げ幅で増額する例はあまり見たことがありませんね。

 中国の裁判では、プロセスより真実を重視するため、実際の損害額がどこまで計上されるかによって請求額が大きく変わることもあるということではないでしょうか。

朝倉 海外の裁判所は自国の企業に有利な判断をする傾向があると聞きますが、中国でもそのようなことが当てはまりますか。

 中国の裁判所は中国企業であろうと外資企業であろうと平等に扱います。そのようにしないと海外の企業が中国でビジネスをしなくなることが分かっているからです。われわれは日本企業のクライアントの訴訟にかかわったことがありますが、実際に日本企業が中国での裁判で勝った事例は結構あります。


改正で世界スタンダードに足並み

朝倉 中国の特許法改正が8年ぶりに改正され、2009年10月1日から施行されましたが、その影響は感じられますか。

 今回の改正の目的は中国の特許制度を世界のスタンダードに合わせることでした。例えば「新規性」を否定する判断材料として、改正前は「中国内での公然実施」だけしか認められませんでしたが、改正後は「海外でも公然実施」があれば認められるようになりました。この大改正で中国の特許制度が世界のスタンダードに並んだといっても良いと思います。

 この改正では意匠権でも大きな変更がありました。単なる組み合わせではなく進歩性が要求され、審査基準が厳しくなりました。また、複数の関連した意匠ということであれば10個までまとめて出願することができるようになりました。これは日本の企業にもぜひ活用してほしいですね。

 改正の影響の一つとして、審査促進が重視されるようになったといえます。出願者による自発的な補正が難しくなり、例えば請求項を新たに増やすといった審査を遅くするような補正は認められにくくなりました。このように補正の要件が厳しくなったため、日本から出願する際には中国に提出する段階で内容をしっかりと吟味する必要があります。

高松 俊雄 氏
 
金 国栄 氏
三好内外国特許事務所
副所長 高松 俊雄 氏
 

三好内外国特許事務所
中国弁理士 金 国栄 氏


英語からの翻訳との大きな違いは

朝倉 そのほかに日本が中国で特許出願をする際の注意点はありますか。

 日本が中国に特許を出願する際にPCT(特許協力条約)ルートとパリ条約ルートの2通りがありますが、現状ではPCT出願が圧倒的に少ないようです。PCT出願は現地語への翻訳で誤訳があった際に修正が認められることがありますので(翻訳が1対1で対応しないと誤訳と認められない場合もあるが)、もっと活用すべきではないかと思います。

雙田 特に中国語への翻訳で注意すべき点は、日本語から中国語への翻訳は中国人がすることが多い点です。英語の場合は逆に日本人が翻訳することが多く、そこに大きな違いがあります。そのことを意識し、翻訳しやすい分かりやすい表現で日本語を書く必要があります。

朝倉 中国の特許制度は今後、どのような方向に進むのでしょうか。

 中国は今後ますます研究開発力を強化し、自主技術、自主ブランドを生かした創造的な社会を作ろうとしています。これに合わせて特許制度も他の先進国を追い抜く勢いで進化していくことでしょう。




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