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商標調査が世界ブランド打ち出す企業の生命線に

[2010/11/24]

 日本企業の多くは今後、世界進出を積極的に進めなければ成長が見込めない。ところが世界共通のブランドを打ち出そうとしても、すでにそのブランドが商標として他社に権利化されている国があると、企業はその国でビジネス戦略を変更せざるを得ない。このように企業の事業戦略に大きく影響するにもかかわらず、商標の権利化に対する日本企業の意識は欧米企業に比べて低いという。商標調査サービスを手がけるトムソン・ロイター・プロフェッショナル トムソンブランディのマネージング ディレクターである冨井俊行氏に企業の商標調査の実態と対応策について聞いた。
(聞き手は、テクノアソシエーツ 朝倉博史)


――日本企業にとって商標(ブランド)を権利化することの重要性が高まってきているようですが、なぜでしょうか。

冨井 俊行 氏
トムソン・ロイター・プロフェッショナル
トムソンブランディ マネージングディレクター
冨井 俊行 氏

 最も大きな理由はグローバル化が進んできていることです。日本企業の多くが、かつては国内だけでビジネスをすればよかったのが、国内市場が頭打ちの中、アジアなど海外市場に進出せざるを得なくなってきました。一方で、アジアの企業もコスト競争力を武器に日本市場に入ってきています。こうした状況下では、自社のブランドを権利化し保護しておかないと海外の企業とまともに戦えないということになります。
 さらに、製造業中心であったのがサービス業の割合も増えてきたことも、形のないものに対する権利保護の重要性をより高めているといえます。例えば、世界で売れ筋のスマートフォンに搭載するゲーム・アプリを開発すれば、それを世界中で販売することが可能になります。ただし、それを開発した企業が売ろうとする国で商標を権利化しておかないと、その国でビジネスを展開できないばかりか、同様の製品を開発した別の企業に市場を取られてしまうことになりかねません。
 以前は商標としての登録が難しかった「おいしい水」や「おいしい牛乳」といった一般的な用語でも、地名や企業名など識別する言葉と組み合わせることで商標として認められるケースが出てくるようになりました。こうした商標の多様化にも注目する必要があります。

――その一方で、日本では商標の出願件数が減ってきていると聞きますが。

 企業が費用対効果を考えてのことだと思います。以前であればメインのブランドに加え、関連するサブのブランドをいくつも立ち上げ、それぞれを権利化していましたが、それを集約する動きがあります。さらに、商品自体のライフサイクルが短くなってきているということもあります。商標を登録する手続きをとっている間に商品が変わってしまうことから、例えば携帯電話などでは記号で識別し、いちいち登録しないという状況になってきています。また、外部環境も影響しています。統計的にはGDP(国内総生産)が減ると商標出願も減るという傾向にあります。それがリーマン・ショック以降、出てきているのではないでしょうか。

――世界の中でも日本企業は商標に対する意識が低いのでしょうか。

 もちろん大規模であれば日本の企業も高い意識で取り組んでいるといえますが、規模が小さくなると、日本企業の方が商標に対する意識が欧米企業に比べて相対的に低いようです。一般に企業内における知的財産部の位置づけも欧米企業の方が高いといわれており、それが商標に対する意識の差として表われているようです。

――まずは、これから打ち出そうとするブランドがすでに商標として権利化されていないかを調査するプロセスが重要だと思いますが。

 日本では商標調査が企業の事業戦略に大きく影響するにもかかわらず十分な調査期間が確保されていないケースも多いようです。ブランドのネーミングのために広告代理店やマーケティング・コンサルティング会社などに外注し、ギリギリになってから知財部に持ち込むといったようなことがよくあると聞きます。調査が十分でないまま進めてしまい、ふたを開けたらすでに他社に権利化されていたという事態になると、製品発表や事業開始の時期を変えざるを得なくなります。もし、既に商品パッケージの製造を始めていたら、それを廃棄するといった費用面での損害も大きくなります。特に海外販売比率が高い企業ほど商標調査には周到に準備をする必要があります。海外の数十カ国で事業展開をするとなると、そのすべての国で商標が成立するかどうかを調べなければならないからです。事業計画の早い段階から知財部門を巻き込んで話を進めるといった対応策が求められます。

――商標調査ではどのぐらい前もって準備をしたらよいでしょうか。

 国によって商標登録されるまでの期間や制度が異なりますし、商品のライフサイクルによっても異なるため一概には言えませんが、通常は少なくとも製品発表前に出願を済ませられるように、十分な調査期間を取ることが必要です。医薬品会社などでは、例外的に何年も前から準備をする場合もあるようです。

――知財部だけでなく、開発担当者や経営トップも商標について認識を高めておく必要がありそうですね。

 特に開発担当者は自分の商品に対する思い入れがあることから、「ぜひこのネーミングにしたい」ということを強く主張するようですが、すでに権利化されているとそれがかなわないことになります。確実に取りたいということであれば、商標の権利化について自ら積極的にかかわることが重要です。

――商標調査を効果的に行うためには、どのようなことがポイントとなりますか。

 まず早い段階で知財部門との確認作業を始める必要があります。また、世界展開をする際には対象国を想定したさまざまな配慮が必要です。付けたネーミングが日本では語感が良くても、対象国の言語では好ましくない意味になってしまうこともあります。

――企業の商標調査の実態については、どのような状況でしょうか。

トムソン・ロイター・プロフェッショナル 冨井 俊行 氏
 二極化していると思います。一つは自社内で専門家をしっかり抱えている企業、もう一つは外の専門家の力をできるだけ活用する企業です。欧米では訴訟が当たり前のように起こることから前者のケースが多いのですが、日本は必ずしもそうではありません。日本は大企業であっても訴訟も含め、知財業務を外部にまかせるところが多いのではないでしょうか。 グローバル化が進む中で、各国の制度や実務を把握することはますます重要になってきています。しかし、自分たちでリソースを抱えるのは大変ですし、現地の弁護士・弁理士事務所と関係を構築するには時間がかかります。すでにグローバル・ネットワークを持っている外部の専門家の力を借りることも効率的な方法と言えるでしょう。

――御社の商標調査サービスはその条件を備えているということでしょうか。

 われわれが提供する検索ツール「SAEGIS」により、ユーザーはインターネットを使って世界220カ国の商標データにアクセスできます。これで海外に同一のネーミングがないかをスクリーニングする作業ができますが、さらに深い調査が必要になると、われわれが世界中に抱える商標調査の専門スキルを持ったスタッフが対応します。また、必要に応じて各国の代理人とのネットワークを活用します。

――そのほかに、御社の商標調査サービスの特徴はありますか。

 蓄積した商標データ量の多さです。日本の場合、特許庁の電子図書館(IPDL)を検索できますが、現在登録されたものが主体で、過去に登録されて失効したものや拒絶されたものは直近約1年分しかありません。使用可能性を判断するためにはこうした登録以外のデータも重要となりますが、われわれは昭和34年以降の登録・失効情報をデータベースに保有しています。日本の商標データ件数で比較すると電子図書館(IPDL)が約186万件に対し、われわれのデータベース「BRANDY」は約423万件と2倍以上の開きがあります(注:2010年10月現在)。このようにデータ量が多いことは調査の質の高さにつながります。

――御社のサービスを利用したユーザーの声としてどのようなものがありますか。

 スクリーニング精度の高さを評価していただくことはもちろんですが、それ以外に競合他社の動向調査に活用したという声もあります。出願人を軸として商標情報を見ることで、国内外の競合他社がどのような商標の出し方をしているかを読み取れるというのです。
 そのほか、ある国の現地代理人の報告書が疑わしいので、その正確性をチェックするのに役立ったという話もあります。

――今後、御社はどのような展開を考えていますか。

 これからは商標調査にとどまらず、特許や権利維持管理も含む知財のライフサイクル全体をサポートする総合知財プロバイダを目指します。例えば、インターネットによるプロモーションのために、商品名とドメイン名を同時に権利化していくことが重要となります。従来は、商品名は事業部、ドメイン名はサイトを立ち上げるIT部門が担当するといったバラバラな対応が多かったのですが、会社として一括して扱えば戦略的に取り組むことができます。当社としては、検索・調査を代行するだけではなく、どのような戦略で権利を取得、維持したら良いかというコンサルティング・サービスを提供し、企業のブランド戦略における費用対効果を上げたいというニーズ、また、知的財産をより一層戦略的に活用したいというニーズに、積極的に応えていきたいと考えています。




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