

知財紛争で「攻勢」に転じる中国企業
[2011/03/24]
ウエストロー・ジャパン
リーガル リサーチ コンサルタント
袁 藝
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中国企業が中国国外での知財紛争において「攻め」に転じている。その背景には技術力の高まりと、国際特許出願の急増がある。
これまで中国企業は、中国国内では他社から特許侵害を訴えられると同時に、他社に対して知財訴訟を積極的に仕掛けてきた。ただし、海外市場では、他社から訴えられる「巻き込まれ」型が圧倒的に多かった。海外の知財紛争で、中国企業はすでに10億ドル超の賠償額を支払っているとされる。
外国企業からのITC提訴ラッシュ
なかでも米国市場においては、米関税法337条に基づく米国際貿易委員会(ITC)調査に巻き込まれるケースが多く、すでに100件を超す。米関税法337条は、不公正な競争方法や不当行為を伴った製品の米国への輸入を禁じており、ITCの調査対象のほとんどは、特許権など知的財産の侵害案件とされる。
例えば、2010年7月、キヤノンは中国製のレーザープリンター用トナーカートリッジが同社の特許を侵害しているとして、メーカーの珠海賽納科技(広東省)や米国輸入商社など計20社の調査を、また米ヒューレット・パッカード(HP)も、中国製のインクジェットプリンター用カートリッジが特許を侵害しているとして、米国、中国など7社の調査をITCに求めている。
中国商務省によると、キヤノンのケースは、2010年に限ってみても中国製品が米国市場で海外企業から提訴された事例の10件目にあたる。ITCに提訴されると、中国企業のほとんどはこれまで特許侵害を認定され、輸入差し止めを命ぜられた。要するに、中国製品は毎年、米国市場でいわばボコボコにされてきたのだ。
「中国企業vs. ITC」で初勝利
ところが、ここ数年、米国市場含め海外市場での知財紛争で中国企業が勝ち始め、これまでの流れに変化の芽が出始めている。
例えば、2010年8月、ITCの控訴審にあたる連邦巡回控訴裁判所(CAFC)が、ITCの決定を覆し、中国企業に勝利をもたらした。
漏電保護回路遮断装置を製造・販売する中国通領科技集団(浙江省温州市、以下、通領集団)に対し、ITCが2009年3月、特許侵害・輸入差し止めの仮決定を下した。これに対し、通領集団はCAFCに控訴した。米国では、行政機関であるITCの決定に不服がある場合、司法機関であるCAFCに控訴し、ITCの決定そのものの是非を争うことができる。そして、CAFCは「通領集団vs. ITC」の紛争に対し、ITCの決定を棄却、「通領集団の製品は、米国企業などの特許を侵害していない」という判決を下したのだ。中国企業による、米国の行政機関に対する勝利である。
日本企業「要件未達」で、中国に軍配
また2010年3月には、日本企業との知財紛争でも、中国企業は勝利した。発端は、リジンの最大手サプライヤーである味の素が、L型リジンを生産・販売する大成生化など中国企業5社が同社の米国特許を侵害しているとして、2006年からITCに提訴したことに始まる。これに対し、大成生化は、米関税法337条に強い米国の弁護士を雇って対応した。このため、通常12〜15カ月の調査で結論を出すITCが、当ケースでは27カ月間も費やし、2008年7月に以下のような仮決定を下した。
「味の素の特許は、発明者は出願時に最良の発明実施形態を開示しなければならないという米特許法の要件(ベストモード要件)を満たしていないため、無効である。したがって、大成生化のリジンは味の素の特許請求の範囲を侵しているものの、337条違反ではない」。
やや複雑なロジックではあるが、米国で味の素の特許が認められなかったわけである。当然、この判断を不服とした味の素は、CAFCに控訴した。しかし2010年3月、CAFCもITCの決定を支持する判決を下し、大成生化の勝利で決着した。
どちらのケースも、海外知財紛争で攻めに転じようと中国企業の強い姿勢を示している。
特許出願数トップ5に、中国2社
すでに、特許取得の面では、中国企業は海外マーケットで積極的に動いている。
世界知的所有権機関(WIPO)によると、特許協力条約(Patent Cooperation Treaty)に基づく「国際特許出願」(PCT出願)で、2010年の中国企業の出願件数は、フランスを抜いて世界第4位となった(速報ベースで、前年比56.2%増の12,337件。1位=米国、2位=日本、3位=ドイツ)。企業別でも、2010年のPCT出願数は、世界第2位に通信機器メーカーのZTE(中興通訊、深セン市)、4位にやはり通信機器メーカーのHuawei Technologies(華為技術、深セン市)が顔を出し、存在感を増している(1位=パナソニック、3位=米クアルコム、5位=蘭フィリップス)。
日本市場における中国企業の特許出願は、まだ891件(2009年)と、米国企業の22,367件、欧州企業の21,251件、韓国企業の4,782件に比べて桁違いに少ない。同様に、特許登録数も156件(2009)と、米国(11,033件)、欧州(13,177件)の2%足らずに過ぎない。
しかし今後、技術力の高まりを背景に、日本市場における特許出願・登録数は増勢が続くと考えられる。そうなると日本市場おいて、日本企業と中国企業による知財紛争が勃発する可能性が大いに考えられる。そこで問題になりそうなのが、判決の「承認」と「執行」をめぐる問題である。現在、日本と中国の間では、それぞれの裁判所が出した判決を、お互い相手国側の裁判所が承認し、責任を持って執行する関係になっていないのである。

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