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2011年4月、米連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、「Akamai Technologies, Inc. vs. Limelight Networks, Inc.裁判」における方法特許のJoint Infringement(共同侵害)に関して再審理する決定を下した。2010年12月のCAFC判決ではJoint Infringementの有無を判断するための条件をより厳しく設定したため、その条件を再考するようAkamaiが申し立てをしていた。
方法特許のうち、特にコンピュータ・ネットワークを介して実施される方法の特許では、複数の独立した組織/人が分割した形で方法全体のプロセスを実施することが可能な場合がある。そのような場合に、Joint Infringementが成立するか否かということは、注意すべき問題の一つである。従って、コンピュータによって実施される方法特許にかかわる企業、特にコンピュータ・ネットワークを介したサービスを提供する企業やそのサービスの一部にかかわる企業、またコンピュータ・ネットワークを介して複数の独立した組織/人によって実施可能な方法の特許を有する者にとって、再審理の結果は大いに注目すべきであろう。 今回再審理されることとなった「Akamai裁判」では、Akamaiのコンテンツ配信方法特許のJoint Infringementについて争われている。 Akamaiの方法特許に記載のステップを実行する一連の組織/人は、(1)Limelightと(2)コンテンツ・プロバイダ( Limelight の顧客)である。Limelightはコンテンツ配信ネットワークからコンテンツ・プロバイダの埋め込みオブジェクトを配信するサービスを行っており、Akamaiの方法特許の1クレームに記載された大部分のステップを実行していた。しかし、その他のステップである、ウェブ・ページのオブジェクトにタギングするステップは、Limelightとの契約に従い、コンテンツ・プロバイダによって実行されていた。その際、 Limelightは、コンテンツ・プロバイダにタギングの実行に関する指図および技術的支援を与えていた。 2010年12月の判決でCAFCは、Joint Infringementがあると判断するために、単に“コントロールあるいは指示”があったことを示すだけでは十分でなく、次のいずれかが示されなければならないとした。すなわち、(1)特許侵害で訴えられたAと特許クレームに記載された方法の一部を実行するBが“代理人関係”(agency relationship)にあったこと、または(2)特許クレームに記載された方法の一部を実行することが、BのAに対する“契約上の義務”であったことを示した場合にのみ、Joint Infringement があると判断できるとした。さらに、CAFCは“代理人関係”を立証するためには、BがAのために特許クレームに記載された方法の一部を実行することに同意することを表明していなければならないとした。また、“契約上の義務”であるBの実行が、Aのために行われていなければならないとした。この裁判でCAFCは、Joint Infringementを成立させるための条件をより厳しくしたといえる。 Limelightの顧客であるコンテンツ・プロバイダは、Limelightとの契約に従って、タギングのステップを実行していた。しかし、CAFCは、コンテンツ・プロバイダがLimelightの代理人としてタギングを行っていたのではなく、あくまで自身のために、また自身のコントロール下で、タギングを行っているので、コンテンツ・プロバイダはLimelightと“代理人関係”にないとした。またCAFCは、Limelight ? コンテンツ・プロバイダ間の契約書は、もしコンテンツ・プロバイダがLimelightのサービスの利点を得ると契約書で決めたならば、コンテンツ・プロバイダがタギングをしなければならないということを説明しているに過ぎず、Joint Infringementの条件の一つとして要求される“契約上の義務”を示したものではないとした。結論としてCAFCは、Akamaiの方法特許の実行者であるLimeligthtとコンテンツ・プロバイダの間に、Joint Infringementに要求される度合いの“代理人関係”あるいは“契約上の義務”がないことから、LimeligthtにJoint Infringementの責はないとした。 米国特許法における特許侵害の基本原則とされている、単一の組織/人による特許技術の使用(実行)の条件を厳密に適用すると、複数の組織/人による方法特許の分割実行が公正ではないと考えられる場合が出てくる。そのような場合に対応すべく、共同不法行為としてJoint Infringementの概念を適用されてきた。CAFCは、Joint Infringementの責を問うための根拠としてコモンローの共同不法行為における“代位責任(vicarious liability)”の概念を適用してきたが、「Akamai裁判」でさらに“代理人関係”あるいは“契約上の義務”が存在していなければならないという、より厳格な判断基準を示すこととなった。 これから行われる「Akamai裁判」の再審理では、(1)方法特許のJoint Infringementに要求される適切な条件とは何かという点と、(2)方法特許のJoint Infringementがあると判断された場合に方法特許の一連の実行者がどの程度の責を負うべきかという点について、改めて問われることになる。すなわち、2010年12月の判決で示された厳格な基準が、Joint Infringementを判断するために適切な条件であるかどうかという点が再考されることになる。 実際、方法特許のJoint Infringementに関して争われた他の裁判でも、CAFCに中で意見の相違がみられていた背景がある。例えば、「Golden Hour Data Systems判決」では、“立案者/首謀者(mastermind)”は存在しないが、方法特許の実行者AとBが戦略的協力関係であったことを考慮すると、実行者であるAが他の実行者Bへの“コントロールあるいは指示”がなければ特許侵害はないとするルールを普遍的に適用することは正しくない、という反対意見が述べられている。 また、「Akamai裁判」の再審理決定の直前にCAFCで判決が下された「Mckesson Technologies Inc. vs. Epic Systems Corporation裁判」注)の反対意見は、特許技術の使用(実行)が単一の組織/人によってなされなければならないことを特許侵害の絶対条件とすること自体に疑問を投げかけている。さらにその反対意見では、Joint Infringementの責を判断するために、首謀者(mastermind)たる実行者による他の実行者への“コントロールまたは指示”の存在を絶対条件とするのではなく、コモンローにおける共同不法行為を判断する際と同様のルール、すなわち、複数の実行者の参加および協力に関する状況または他の事実関係から判断すべきではないかという点も示唆されている。 基本的には、CAFCも指摘しているとおり、Joint infringementが争点とならないように、単一の実行者によってしか方法全体が実行できない特許クレームを注意深く書くべきである。しかし、コンピュータ・ネットワークを介して実行される方法の場合、そのようなクレームの書き方が必ずしも可能とはいえない。方法特許クレームが発明を表現するために必要最小限のステップだけ記載していたとしても、さらにそれらのステップを分割し、コンピュータ・ネットワークを介して方法全体を実施することは可能である。 例えば、「BMC裁判」においてCAFCが認めているように、複数の組織/人が“独立当事者間契約(arms-length agreement)”を結び、各々が分割したステップを実行した場合、“コントロール/指示”は無いと判断される可能性がある。また、そのような場合、Joint infringementに要求される条件として2010年の「Akamai裁判」で示された、“代理人関係”あるいは“契約上の義務”も存在しないと判断される可能性が高い。特に、カスタマー/エンドユーザーに一部のステップを実行させる場合、当然のごとく、カスタマー/エンドユーザーの実行は自身の利益のためであって、サービス提供者のためではないので、カスタマー/エンドユーザー側に2010年の「Akamai裁判」で示された“代理人”としてのポジションあるいは“契約上の義務”は生じ得ない。このような場合、2010年のAkamai判決でCAFCが示した条件がJoint Infringement有りと判断する条件として適切だとすれば、Joint Infringementが成立する可能性は極めて低くなり、結果として、方法発明に対する特許による権利保護が弱まる恐れがある。 また、Joint Infringementの議論が発生しないよう、すでに発行された特許を強化するために、方法特許に記載のステップのうち、他者が実行できる可能性のあるステップを削除して、米国特許庁に特許再発行を申請する手段がある。ただし、特許クレームに記載される一部のステップを削除するということは特許クレームの請求範囲を広げるとみなされるので、特許再発行を申請できるのは特許発行後2年以内という制限がある。従って、特許発行後2年以上経過した後にJoint Infringementの問題が起きることに気付いても、特許を修復することは不可能である。 このように、コンピュータによって実施される方法特許の弱点を解決するために特許を取得する側ができることには限界がある。特許に関するCAFCの設定したいくつかの基準が柔軟性に欠けるとして米国最高裁判所に否定されてきた最近の傾向も踏まえ、「Akamai裁判」再審理において、CAFCがJoint Infringementの有無を判断するための基準/条件をどのように設定し、また方法特許の一連の実行者がどの程度の責を負うべきかについて、注目するところである。
・Joint Infringementの判断基準とは?(上)〔2011/05/31〕 < 著者紹介 >
前川有希子(まえかわゆきこ),米国ワシントンD.C.弁護士 日立製作所中央研究所で研究者として医用画像機器の研究開発に従事し,博士号を取得した後,米国に移住した。2002年にPatentAgent,2005年にワシントンD.C.弁護士の資格を取得。現在は,米国大手法律事務所を経て、現在 Snyder, Clark, Lesch &
Chung, LLP にて,主に,特許権取得業務,オピニオン(知的所有権に関する有効無効性や侵害に関するアドバイス)ならびにデュー・ディリジェンス(知的所有権,ライセンス,共同研究契約に関する様々な調査)を担当している。※著者の所属先・肩書きは、本コラム執筆時のものです。
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