


米国特許法251条は、特許権者が既に交付された特許を補正する手段として、特許の“再交付(Reissue)”を認めている。特に、交付された特許のクレームの記載が保護すべき発明の範囲を示すものとして適切ではないと特許権者が認識した場合、クレームの補正を行うために再交付が利用される。しかし、特許再交付の際、どんな補正も可能というわけではない。既に発行されている米国特許に記載されたクレームを補正し、その効力を強化することを狙う米国特許権所有者および知財関係者にとって、どのようなクレーム補正が可能であるかは重要な問題である。2011年、この問題に関して 二つの注目すべき判決を米連邦巡回控訴裁判所(CAFC)が下したので解説する。
米国特許法251条
米国特許法251条は、特許再交付を許可する前提として、以下に示す二つのことを要求している。一つは、既に交付されている特許が、全体的あるいは部分的に“効力/効果が無い(inoperative)”あるいは“無効である(invalid)”とみなされることである。もう一つは、“特許が効力/効果が無い(inoperative)”あるいは“無効である(invalid)”ことが、特許に含まれてしまった“誤り(error)”によることである。
米国特許法251条において、特許が“効力/効果が無い(inoperative)”あるいは“無効である(invalid)”とみなされる理由の一つとしては、特許クレームの請求範囲が発明者の権利として請求できる範囲より広い注)、または狭いこと、としている。この理由が、特許再交付の際に特許明細書に書かれている内容の範囲内であれば、特許クレームの請求範囲を広く、あるいは狭くするように特許クレームを補正できる根拠となっている。
「In re Tanaka裁判」
2011年4月にCAFCが判決を下した「In re Tanaka」裁判では、特許再交付における特許クレームの請求範囲を狭くする補正の方法が争点となった。
本裁判で再交付申請の対象になった特許は、自動車のオルタネータの発電効率を向上させるために一方向クラッチを用いたオルタネータプーリに関する特許である。特許交付の二年後、特許権者は特許の独立クレームの請求範囲を広げるために米国特許庁に特許再交付を申請したが、この再交付審査を途中で断念した。その代わり、既に交付されている特許の独立クレームを補正/削除しないでそのまま記載し、かつ新しい従属クレームを追加する形で、特許の再審査を申請した。
しかし、米国特許庁は再審査のために提出されたクレームをすべて拒絶したため、特許権者はBoard of Appealに控訴した。Board of Appealは、米国特許法251条の下では、“効力/効果が無い(inoperative)”あるいは“無効である”ことを訴えずに、「単に請求範囲の狭いクレームを追加しただけの特許再交付申請は認められない」とし、米国特許庁による拒絶を追認した。
そこで、特許権者はBoard of Appealの判決を不服とし、CAFCに控訴した。CAFCは、まず特許が“効力/効果が無い(inoperative)”とは、「発明を適正に保護するために特許が効力/効果が無いという意味である」という過去の判例における米国特許法251条の解釈を再確認した。CAFCはこの米国特許法251条の解釈の下に、「従属クレームを追加することは、特許を再交付するための適切な理由とみなせる」とした。
CAFCが指摘しているように、独立クレームより狭い請求範囲を持つ従属クレームの効果として、1)特許が無効であるという訴えに対して、従属クレームが広い請求範囲を持つ独立クレームより弱くないこと、2)従属クレームの記載が広い請求範囲を持つ独立クレームの意味を明確にすること、が挙げられる。CAFCは、非常に広い請求範囲を持つクレームは裁判などにおいて無効(invalid)と判断される可能性があるため、その防御策として、「より狭い請求範囲を持つクレームを追加するための特許再交付は黙認されてきた」とした。CAFCは、これらの観点から、既に交付されていた特許がより狭い請求範囲を持つクレームを除外していたということは、公開された発明が法律によって許される限りの範囲の特許保護を得ていなかったということになり、特許を部分的に“効力/効果が無い (inoperative)”ものにしていたことになる、とした。従って、既に交付されている特許に従属クレームを追加して再交付するということは、「米国特許法251条で許可されている特許の誤りを補正した再交付である」とした。つまり、既に交付された特許に独立クレームより狭い請求範囲を持つ従属クレームを含んでいなかったことが、米国特許法251条 における“誤り”とみなせるので、その誤りを補正する、すなわち、独立クレームを削除しない状態で従属クレームを追加する特許再交付は、米国特許法251条によって許可されている、とCAFCは判断したといえる。
「In Re Mostafazadet裁判」
2011年5月にCAFCが判決を下した「In Re Mostafazadet裁判」では、特許再交付の特許クレームの請求範囲を広くする補正が争点になった。
本裁判で再交付の対象になった特許は、Pb(鉛)フレームベースの半導体パッケージに関する特許である。この特許が申請された際のオリジナルのクレームは、パッケージ内のPbフレームを構成する要素の一つとして、“縦長のPb”を記載していた。しかし、審査の過程で、公知例をもとにした米国特許庁の拒絶を覆すために、特許申請者は縦長のPbが“アタッチメント・パッド”としての“円形部位”を含む、とクレームを補正した。この“円形のアタッチメント・パッド”を構成要素として含むことが新規であるという特許申請者の主張が認められ、補正されたクレームが許可され、特許が交付された。
特許交付後、特許権者は12個の新しいクレームを記載した特許の再交付を米国特許庁に申請した。新しいクレームの一つには、パッケージ内のPbフレームを構成する要素として、“アタッチメント・パッド”が記載され、かつ、新たな制限も追加されていた。しかし、“アタッチメント・パッド”の形状に関する記載、すなわち“円形”である記載が省かれていた。米国特許庁は、特許再交付申請に記載されたクレームの請求範囲が、既に交付されている特許の審査過程において放棄された対象(surrendered subject matter)を不当に取り戻している(recapture)とし、特許再交付を拒絶した。 特許権者は、米国特許庁の拒絶を不服としてBoard of Appealに控訴したが、Board of Appealは米国特許庁の拒絶理由を維持した。そこで、特許権者はBoard of Appealの判決を不服とし、CAFCに控訴した。
CAFCは、いわゆる“recaptureルール”を適用し、特許再交付におけるクレーム補正の妥当性を再検討した。“recaptureルール”とは、特許の審査過程において特許の許可を得るために放棄した対象を、特許再交付によって取り戻すこと(recapture)はできない、というルールである。
例えば、特許申請を行っている発明と公知例を弁別するために特許クレームの請求範囲に新たな要素あるいは制限を追加するということが、その要素あるいは制限を含まない技術に対して特許権の主張を放棄したとみなされる。もし、追加した要素あるいは制限を特許再交付の際に削除すれば、既に特許権の主張を放棄した技術に対して再度、特許権を主張することになる。従って、“recaptureルール”によれば、特許申請を行っている発明と公知例を弁別するために特許クレームの請求範囲に追加した要素あるいは制限を、特許再交付の際に削除できないことになる。
CAFCは次の三つのステップからなるプロセスを適用し、特許再交付のクレームが“recaptureルール”に抵触するか否かを判断した。
第1に、再交付特許のクレームの請求範囲が既に交付されている特許のクレームと比べて、どの側面において広いか判断する。第2に、再交付特許クレームの請求範囲のうち、既に交付されている特許のクレームより広いと判断された側面が、特許審査過程において放棄された対象に関連しているかどうかを判断する。第3に、既に放棄された対象が再交付特許のクレームの請求範囲に再び入り込んでいるかどうか判断する。特に第2のステップにおいて、放棄された対象を明確にするために、「特許審査過程で公知例を基にした米国特許庁の拒絶を覆すために特許出願者が行った議論とクレームの補正個所の記録(prosecution history)を調べる」としている。
本件では第1と第2の判断ステップを通し、既に放棄された対象(円形のアタッチメント・パッド)に関して、再交付特許のクレームの請求範囲が既に交付されている特許のクレームと比べて広い、という点に関しては異論がなかった。しかし、第3のステップにおける判断が争点となり、本裁判で争われた。
本件の場合、既に交付されている特許の審査過程において追加された請求範囲の制限が、特許再交付の申請では完全に削除されてはおらず、一部が変更されていた。CAFCはこのようなクレーム補正の場合、放棄された対象が完全にまたは実質的に取り戻されないように、「補正されたクレームの請求範囲が放棄した対象に比べて実質的に狭くなっていなければならない」と述べている。CAFCは、特許再交付のクレームが“アタッチメント・パッド”の記載を維持することは、放棄した対象と関連があるが、「放棄した対象に比べて、特許再交付のクレームの請求範囲を実質的に狭くはしていない」とした。その根拠として、 特許審査過程において、特許権者が形状を限定しない“アタッチメント・パッド”を構成要素とすることが新規であるとは述べておらず、“円形のアタッチメント・パッド”を構成要素とすることが新規であると述べていたこと、構成要素としての“アタッチメント・パッド”にハンダ・パッドという公知例があることを挙げている。
結論として、CSFCは、本件における特許再交付の補正クレームはrecaptureルールに反しているので、認められないという判決を下した。つまり、本件の場合、特許審査過程において特定の形状を持つアタッチメント・パッドを構成要素とすることが新規であると述べているので、その特定の形状以外の形状を持つ“アタッチメント・パッド”は“放棄した対象”と考えられる。従って、特許再交付の際に、単に“アタッチメント・パッド”と記載すれば、あらゆる形状の“アタッチメント・パッド”がクレームの請求範囲に含まれることになり、“放棄した対象”を取り戻すこと(recapture)になってしまうので、recaptureルールに反するということであろう。
まとめ
「In re Tanaka裁判」の判決により、特許再交付の際に既に交付されている特許クレームの請求範囲を失わず、かつ特許無効の訴えに備えて特許請求範囲を狭くしたクレームを追加できることが明確になったので、特許権者にとって非常に有利な指針が示されたといえる。一方、「In Re Mostafazadet裁判」の判決が示すように、既に交付されている特許の審査過程において公知例と弁別するためにクレームを補正していた場合、その補正前の請求範囲の少なくとも一部を取り戻すことになるようなクレームの補正を特許再交付の際に行うことはできない。“放棄した対象”を再び含むようにクレームの請求範囲を広げたい場合には、recaptureルールが適用されない継続出願(continuation application)を申請することが得策であろう。
注:特許クレームの請求範囲を広くする特許再交付の申請は、オリジナルの特許が交付されてから「2年以内」と限定されている。
| 注) |
「NTP vs. RIM裁判(2005年)」では、特許に記載されたシステムの複数の構成要素が米国内外に散在していたので、 米国内でシステムを“作成”するという形での直接侵害は起きていないが、米国内にいるエンドユーザーがシステムを“使用する”という形で、米国内で直接侵害が起きたとしている。 |
< 著者紹介 >
前川有希子(まえかわゆきこ),米国ワシントンD.C.弁護士
 日立製作所中央研究所で研究者として医用画像機器の研究開発に従事し,博士号を取得した後,米国に移住した。2002年にPatentAgent,2005年にワシントンD.C.弁護士の資格を取得。現在は,米国大手法律事務所を経て、現在 Snyder, Clark, Lesch &
Chung, LLP にて,主に,特許権取得業務,オピニオン(知的所有権に関する有効無効性や侵害に関するアドバイス)ならびにデュー・ディリジェンス(知的所有権,ライセンス,共同研究契約に関する様々な調査)を担当している。 ※著者の所属先・肩書きは、本コラム執筆時のものです。

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