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中国の実用新案をもっと活用しては
[2011/08/01]

 日本ではマイナーな存在である実用新案が、中国では特許と同じぐらい重要視されている。日本の感覚だと「実用新案より特許を取ろう」ということになるが、中国ではその常識が通用しない。これから中国ビジネスを展開しようとする日本企業は、実用新案の有効活用にもっと目を向ける必要がある。中国と日本の特許事情に詳しいメンバーに実用新案の扱いの違いを聞いた。
(聞き手は、テクノアソシエーツ 朝倉博史)

北京銀龍知識産権代理有限公司 董事長・中国弁理士 郝 慶芬氏
北京銀龍知識産権代理有限公司 日本部主管・日本弁理士 雙田 飛鳥 氏
北京銀龍知識産権代理有限公司 日本部OA総括・中国弁理士 厳 星鉄 氏
北京銀龍知識産権代理有限公司 東京事務所副所長 加藤 正明 氏
三好内外国特許事務所 副所長・弁理士 高松俊雄 氏


――日本の実用新案の出願は特許に比べて少ないと聞きますが。

高松 出願件数で比較すると、日本では特許が約35万件に対して実用新案が約1万件、中国は特許が約40万件、実用新案が40数万件とむしろ実用新案の方が多いぐらいです。

加藤 日本の場合、技術の権利化の手段として実用新案にはあまり目を向けてこなかったという経緯があります。まず権利期間が特許は20年に対して実用新案は10年と短い。そのようなデメリットがある一方でメリットがあまりないというのが率直な感想です。これは勝手な思い込みかもしれませんが、日本では、実質的な権利の取得という意味で両者に大きな差はないということです。実際に、日本では、進歩性が乏しく特許での権利化が認められない発明は、実用新案でも認められないケースがほとんどではないでしょうか。

高松 以前は日本でも実用新案に審査制度がありました。そのときは特許が約40万件に対して実用新案は約12万件もありました。今のように審査がない制度だと権利の安定性で不安があります。権利が不安定だと権利行使の際に無効になり、逆に権利行使により相手方に与えた損害を賠償しなければならなくなるリスクが高まります。むしろ審査をする特許の方が安心だということだと思います。

――中国は権利の安定性についてそのような違いはありますか。

 日本では、特許と実用新案の進歩性の違いが必ずしも明確ではありませんが、中国ではそこを明確に分けています。進歩性を判断する際に先行技術を引用しますが、実用新案では、一般に、文献の数を二つ以下として判断され、特許では、三つ以上の文献を組み合わせて判断することができます。さらにその先行技術の分野も、実用新案は、一般に該当分野の文献しか考慮できないのですが、特許は関連する周辺分野の文献も含めて考慮することができます。実用新案の方が特許より進歩性のレベルが低いということです。

加藤 別の立場で見れば、実用新案は、従来技術と比べて比較的小さな違いがあれば進歩性が認められるので、特許よりつぶされにくいともいえます。つまり、実用新案の方が権利は安定しているということです。

――逆に中国で特許の方を選ぶメリットは何でしょうか。

 特許は権利期間が20年と長いこと(実用新案は10年)、訴訟の損害賠償額が高いということがあります。


北京銀龍知識産権代理有限公司
董事長・中国弁理士 郝 慶芬氏

北京銀龍知識産権代理有限公司
東京事務所副所長 加藤 正明 氏

――フランスSchneider Electric社の子会社が中国で巨額の損害賠償命令を下された事件では、実用新案が対象となったと聞きますが。

 損害賠償額は、特許、実用新案ともに、侵害を疑われた製品の利益額から算出されます。この事件では、会計監査事務所が調べた売上高に対する該当製品の利益率をSchneider側は裁判所に教えませんでした。このため、裁判所は、Schneider製品の平均の利益率と、訴えを起こした中国正泰集団の請求額をつき合わせ、金額の低い後者(3.3億元、約40億円)を損害賠償額としました。このように利益額を算出できる場合は、実用新案でも多額の損害賠償が取れるということになります。ただ、利益額を算出できない場合は、実用新案による損害賠償額が特許の場合のほぼ半額となるケースが多いようです。

高松 日本と中国の大きな違いを付け加えるとしたら、日本は特許と実用新案を同時に出願して両方の権利を取ることはできませんが、中国はそれができることです。例えば、同時に出願して最初の数年間は実用新案で権利を保護し、その後は特許でカバーするといったことができます。

――基本的には両方を同時に出した方が良いということでしょうか。

雙田 そうすると手数料などコストが余計にかかることを考慮しなければなりません。もし特許の登録比率が十分高ければ、コストをかけてまで同時に出す必要はないとも考えられます。権利の取得自体が最優先であるかどうか、出願してから特許登録までの間の数年間を権利保護したいかどうかによります。

 中国では特許の出願公開をするまでは実体審査をしないので、出願時に審査請求をした場合でも公開までに1年半、審査期間が平均で2年かかります。順調にいっても出願から登録まで合わせて3年半程度はかかることになります。補正などの手続きが入るともっと長引く場合があります。早く権利化したい場合、中国には早期審査制度がなく、特許と実用新案を同時に出すことがその唯一のルートですので、これをお勧めします。実用新案なら半年で権利化できます。そして、特許の登録査定の際に実用新案を放棄します。これにより、早期権利化を図るとともに特許でも保護を受けるという目的が達成されます。


北京銀龍知識産権代理有限公司
日本部OA総括・中国弁理士 厳 星鉄 氏

北京銀龍知識産権代理有限公司
日本部主管・日本弁理士 雙田 飛鳥 氏

――2010年の中国の統計を見ると、有効実用新案の件数は、権利者が中国人のものが約85万件に対し、外国人のものは約9000件と1%に過ぎません。

加藤 中国以外では実用新案を活用しようという発想が乏しいため、外国人は中国でも、これまで実用新案を取ろうとしてこなかったのでしょう。

 先ほどのように、中国には日本のように早期審査制度はありませんので、早く確実に権利化したいのなら実用新案しかありません。そのことも実用新案件数が増える大きな要因となっています。

高松 実用新案というと日本の感覚ではあまり必要ないと思われがちですが、中国では全く扱いが違うということを、日本企業も認識しなければなりません。

雙田 ただ実際には、日本企業も実用新案をどう活用したら良いか戸惑っているようです。

 日本企業の中でもパナソニックやブラザー工業など、先行して実用新案を中国内で多く権利化している例もあります。

――中国で実用新案を出す上で注意すべき点は何でしょうか。

三好内外国特許事務所
副所長・弁理士 高松 俊雄 氏

 もし補正が必要な場合、出願してから2カ月以内にその手続きを取らなければなりません。また、特許と同時出願の場合の注意点として、(1)同じ出願人、同じ出願日であること、(2)特許と実用新案の両方に同時出願である旨を明記すること、(3)先に権利化した実用新案の権利維持料金(年金)の納付を怠らないこと、(4)特許の登録の際に実用新案を放棄すること、(5)特許の権利化の過程で補正が行われたことにより特許と実用新案の同一性が損われた場合、特許と実用新案の二つの権利が並存していくことです。先ほどの実用新案の権利維持料金の納付を怠って実用新案の権利を失うとその後の特許も権利化できなくなります。

高松 同時出願で特許の拒絶査定があった場合、実用新案の無効が推定されることはないのか、そこが気になりました。

 それを根拠に無効審判を起こされる可能性はありますが、特許は拒絶でも実用新案は有効という判断もあり得ます。具体的には、特許の拒絶理由が進歩性である場合です。一方、特許の拒絶理由が進歩性以外の場合には、実用新案も同様の理由で無効と判断されるのではないかと思います。

――同時出願では、PCT(特許協力条約)出願制度との併用は可能ですか。

 PCTを併用した特許と実用新案の同時出願はできません。中国で同時出願したい場合は、PCTとは別のパリ・ルートで出願する必要があります。

高松 これまでもPCTに加盟していない台湾に対してはパリ・ルートで出願していたわけですから、中国に対してパリ・ルートで出すことにそれほど問題はないと思います。




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