


「Global-Tech Appliances, Inc. v. SEB S.A.」裁判
〜米最高裁が下す特許侵害の誘引を判断する基準〜
「Global-Tech Appliances, Inc. v. SEB S.A.」裁判の争点は、他者の特許侵害を誘引した責を課すために、被告に誘引の“意志”があったかどうかを判断する基準をどのように設定すべきか、という点であった。2011年5月、米最高裁は、結果として被告に特許侵害誘引の責ありとしたCAFCの判決と同じ結論を出したが、特許侵害誘引に要求される“意志”の有無を判断する基準として、CAFCよりも厳しい基準を用いるべきとの指針を出した。
1. 本裁判の背景
本裁判で問題となった特許は、フランスの調理器具会社SEBが保有する、高価なプラスチック外縁を使用しないで済む揚げ鍋に関する特許である。Global-Tech Appliancesの親会社である香港のPentalphaは、SEB製の揚げ鍋を香港で購入し、外観以外はすべてSEB製品をコピーした製品を製造した。PentalphaはSEB製品のコピー製品を米国のSunbeamに販売する契約を結んだ後、Pentalphaの製造した製品が特許侵害を起こさないかどうか、米国弁護士に分析を依頼した。
しかし、Pentalphaは特許侵害分析依頼の際に、Pentalphaが製造してSunbeamに販売する製品が香港で購入したSEB製品のコピーであることを米国弁護士に告げなかった。米国弁護士による特許侵害分析の際、問題となるSEB特許が分析対象とならず、米国弁護士は「特許侵害はない」という分析結果をPentalphaにレポートした。Sunbeamは、Pentalphaから購入した製品を米国で販売したことにより、SEBから特許侵害で訴えられたが、和解金を支払うことで、双方の争いは決着した。
その後、Pentalphaは、コピー製品の一部を改変し、再び米国の他の会社に販売した。しかし、改変された製品もSEB特許を侵害するとして、再度差し止め命令が下された。さらにSEBは、PentalphaがSunbeamおよび他の会社にSEBの特許を侵害するよう積極的に誘引したとして、米国特許法271条(b)項のもとでPentalphaを訴えた。
2. 米国特許法271条(b)項の解釈
米国特許法271条には、三つの特許侵害の定義が記されている。米国特許法271条(a)項は直接特許侵害を行った者を対象としており、「特許権者の許可なく、特許発明を作成、使用、販売、または販売のオファーをすることは、特許侵害となる」と記している。なお、直接特許侵害を立証するために、特許侵害を起こしたという認識を侵害者が持っていたことを示す必要はない。
一方、米国特許法271条(b)、(c)項は、それぞれ“誘引侵害”と“寄与的侵害”という間接特許侵害を対象としている。本件で問題となった“誘引侵害”を対象とした米国特許法271条(b)項は、「特許侵害を積極的に誘引した者は誰でも、特許侵害者としての責を負わなければならない」と記している。しかし、”積極的な誘引”という記述が、他者の特許侵害を誘引した者の“意志”について不明瞭であるため、その解釈が問題となっていた。つまり、誘引侵害の責を課すために、特許侵害を誘引することを認識せずに、単に他者の直接侵害を積極的に誘引したことを示すだけで十分なのか、あるいは、誘引した他者の行動が特許侵害となる危険性を実際に認識していたことが必要条件であるかということが問題となっていた。
本裁判において米最高裁は、他者の直接特許侵害に間接的に関わった者の“意志”に関して、米国特許法271条(b)項を米国特許法271条(c)項と同様に解釈すべき、とした。米国特許法271条(c)項は、“寄与的侵害”、すなわち、直接特許侵害者に特許技術の重要部分を米国内で販売あるいは米国内へ輸入した者の寄与的特許侵害の責任を対象としている。米国特許法271条(c)項は、「特許侵害の際に、発明の重要部分が使用されるように特に製作、または使用に適するように製作されることを認識し、その発明の重要部分を販売あるいは販売のオファーをした者は、寄与的特許侵害の責を負う」と記している。米最高裁は、 米国特許法271条(c)項が他者の直接特許侵害に寄与する“意志”について明記してはいない、と解釈した。しかし、米最高裁は過去の判例から、米国特許法271条(c)項のもとで寄与的特許侵害の責を課すためには、被告が特許の存在を認識していたことを立証する必要がある、と述べている。
米最高裁は、この米国特許法261(b)項は同条(c)項と同じカテゴリーの侵害を対象としているので、“意志”に関して(c)項の解釈と整合を図る必要があるとした。すなわち、米最高裁は、他者の直接特許侵害を誘引した責を課すためには、誘引した他者の行動が直接特許侵害となる危険性を誘引者が認識していたことが要求される、と解釈した。
3. “故意に目をつぶること(willful blindness)”
米最高裁はこの解釈を下に、CAFCが示した”故意あるいは計画的な無関心(deliberate indifference)”は、米国特許法271条(b)項において要求される“意志”の有無を判断する基準として適当ではないとした。その代わり、誘引特許侵害に要求される“意志”の有無を判断する基準として、米最高裁は、刑法において用いられる犯意の定義の一つである“故意に目をつぶること(willful blindness)”が示されなければならないとした。”willful blindness”とは、違法行為と疑われる行為が高い確率で存在することに気付いていながら、そのような違法行為を認識することを故意に避けることをいい、その違法行為が存在しないと現実に信じていない限り、実際にその違法行為を認識している状態と同等とする。従って、他者の違法行為を現実に認識していたことを立証できない場合でも、“willful blindness”を示すことによって、実際に違法行為を認識していたと示唆できる、とされている。
米最高裁は、“willful blindness”があったと判断するためには、1)ある事実が高い確率で存在することを、被告が主観的に信じていたこと、2)被告がその事実を知ることを避けるために計画的な行動をとっていたこと、が要求される、とした。“willful blindness”という基準を採用した理由の一つとして、米最高裁は、この2点を要求することにより、他者の特許侵害を誘引した責を課す際に“未必の故意(recklessness)”と“過失 (negligence)”により他者の特許侵害を引き起こしてしまった場合を除外できるとしている。米最高裁は米模範刑法典(Model Penal Code)を参照し、“未必の故意 (recklessness)”と“過失 (negligence)”の違いを次のように定義している。“未必の故意(recklessness)”は、違法行為が存在するという重大かつ正当化できないリスクを単に認識していた場合であり、“過失(negligence)”は同様の危険が存在することに気付くべきであったが、気付かなかった場合である。
米最高裁は、特許侵害の誘引の“意志”に関するCAFCの分析が、“willful blindness”の有無を判断するために要求される2点に関しては同じであるとする一方で、CAFCが示した“deliberate indifference”という基準を用いた場合の二つの問題点を指摘している。一つは、誘引した他者の行動が特許侵害となるという危険性が単に認識されているだけであった場合でも、他者の行動を誘引した者が特許侵害を認識していたと判断され、その誘引した責を課すことができる可能性がある点である。もう一つは、誘引した他者の行動が持つ特許侵害としての性質について認識することを避けるために積極的な努力を払っていない場合でも、他者の特許侵害を誘引した責を課すことができる可能性がある点である。
以上述べたように、米最高裁が適用した、誘引した他者の特許侵害の責を課すために要求される誘引者の“意志”の有無を判断する基準は、CAFCよりも厳しいものとなった。しかし、本件の場合、(a)Pentalphaが市場リサーチを通し、PentalphaがSEB製品の米国外でのモデルをコピーし、製作した製品は米国市場向けであることを知っていたこと、(b)PentalphaのCEOは数多くの米国特許の発明者であることから、通常、米国外の製品には米国特許のマークが付けられないことを知っていたと思われること、(c)米国弁護士に特許侵害分析を依頼した際に、Pentalphaが作成してSunbeamに販売する製品がSEB製品のコピーであることを告げていなかったこと、が証拠として挙げられていた。米最高裁は、陪審員がこれらの証拠から、Pentalphaは“willful blindness”の条件を満たすと判断するであろうとみなし、CAFCの判決を追認した。
まとめ
特許侵害裁判は民事裁判であるが、特許侵害誘引の責を課すために、刑事裁判において用いられる“willful blindness”の定義を米最高裁が適用した点は興味深い。CAFCの判決と同じ結果になったとはいえ、米最高裁が特許侵害の誘引の責を課すために要求される誘引者“意志“の判断基準をCAFCの判断基準より厳しい“willful blindness”としたのは、直接特許侵害を起こしていない者にも特許侵害の責という重い責を課すのであるから、 他者の不法行為を引き起こす危険性に対する認識を避けるために 少なくとも“悪質な能動的行為”を行っていたと判断 されなければならない、ということであろう。
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< 著者紹介 >
前川有希子(まえかわゆきこ),米国ワシントンD.C.弁護士
 日立製作所中央研究所で研究者として医用画像機器の研究開発に従事し,博士号を取得した後,米国に移住した。2002年にPatentAgent,2005年にワシントンD.C.弁護士の資格を取得。現在は,米国大手法律事務所を経て、現在 Snyder, Clark, Lesch &
Chung, LLP にて,主に,特許権取得業務,オピニオン(知的所有権に関する有効無効性や侵害に関するアドバイス)ならびにデュー・ディリジェンス(知的所有権,ライセンス,共同研究契約に関する様々な調査)を担当している。 ※著者の所属先・肩書きは、本コラム執筆時のものです。

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