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環境技術移転に有効な「WIPO-Green」が始動(上)
〜このままでは日本企業は勝ち残れない〜
[2011/11/22]
 環境技術の移転の枠組みとして日本知的財産協会が提唱したコンセプトと仕組みが、国際連合の専門機関であるWIPO(世界知的所有権機関)が運営する「WIPO-Green」となって具体的に動き始めた。特許だけでなくノウハウも含めて新興国などが技術を導入しやすいようにパッケージ化し、技術を保有する側と導入する側を引き合わせる仕組みである。WIPOという世界的な中立機関が関わる大きなメリットにいち早く気がついた海外の大手企業の経営層が、この仕組みを積極的に活用しようと触手を伸ばし始めている。一方、発案元の日本企業においては、知的財産部門から経営陣への説明不足もあり、スタートダッシュに出遅れている。このままで日本企業は環境技術を生かした国際競争で勝ち残れるのか、「WIPO-Green」の立ち上げにかかわった当事者たちが議論した。

出席者:
知的財産戦略研究所 理事長(三好内外国特許事務所 副所長) 澤井敬史 氏
日本知的財産協会 常務理事(本田技研工業 知的財産部長) 川村裕一郎 氏
本田技研工業 知的財産部参与 久慈 直登 氏
司会:テクノアソシエーツ 日経BP知財Awareness編集長 朝倉博史

「WIPO-Green」とは?

朝倉 「WIPO-Green」とは一口に言ってどのようなものでしょうか?

川村裕一郎 氏
日本知的財産協会 常務理事
本田技研工業 知的財産部長
川村裕一郎 氏

川村 「WIPO-Green」は、データベースに載せた技術を保有する側と導入する側を“お見合い”をさせるサイトで、国際連合(国連)の専門機関であるWIPO(世界知的所有権機関)が運営するものです。基本的に無償であり、両者を引き合わせたら、あとは当事者同士にまかせ、取り引きが成立したときだけWIPOの事務局に報告してもらいます。そのほか、データベースに技術を導入する側のニーズ情報を載せる点も特徴として挙げられます。ニーズ情報についてはUNIDO(国際連合工業開発機関)などの組織を通じて途上国に協力してもらえるように働きかけています。

朝倉 データベースには、ほかにどのような情報が載っていますか。

川村 あまり複雑だと見てもらえなくなるため、技術名称や特許番号などできるだけシンプルな内容にしています。


日本発の国際的な技術移転の枠組み

朝倉 WIPOが、なぜ環境技術移転のプラットフォーム(枠組み)の構築に取り組むことになったのでしょうか?

久慈 直登 氏
本田技研工業 知的財産部参与
久慈 直登 氏

久慈 きっかけは、2007年にベトナムで開かれたWIPO主催の「途上国研修セミナー」の講師をしたときに、現地の人たちから「環境技術は欲しいがどこに何があるか分からない」という声を聞いたことです。途上国では日本の環境技術を使いたい一方で、海外展開力に乏しい日本の企業は環境技術を持っていてもそれを出す術がありません。両者のニーズを満たす仕組みが、日本企業の国際展開の手助けになると思いました。そのコンセプトをまとめた提案書を作り、ベトナムで一緒に仕事をしたWIPOのディレクターに話すと非常に興味を持ってくれて、その後のWIPOからの協力につながりました。

朝倉 その提案にWIPOが関心を持ってくれたということですが、日本国内での取り組みはどのように進展していったのでしょうか?

久慈 WIPOは国連機関なので、この提案を実行するためには産業界からのバックアップが必要です。この提案は日本発ですから、日本の産業界で推進母体となる組織をさがしました。技術移転は知財を中心とするビジネスとして構成されるので日本企業約1000社を会員に持つ日本知的財産協会(知財協)に声をかけました。知的財産分野の専門家は特許出願だけをすれば良いという伝統的な考えが支配的で、技術を世界で売るという発想があまりありませんでした。「技術をノウハウ、設備、人的サービスも含めたパッケージにして世界に売る」という今回のコンセプトを推進することで、知的財産分野での仕事のやり方が、出願のみの守りから活用という攻めに脱皮できるのではないかとの期待もありました。

朝倉 知財協では、そのコンセプトに対してどのような反応だったのでしょうか?

久慈 一部で賛同する意見もありましたが、特許出願だけをやってきた企業の知財部門の人たちにはあまりピンとこなかったようです。ビジネスでの判断要素が入ってきますので、やはり経営層の理解が重要だということから日本経済団体連合会(経団連)にも話を持っていきました。

川村 経団連では数回にわたってコンセプトと中身の詳細や国際的な進展状況を紹介しましたが、総論賛成でも各論になると否定的な見方をする企業が少なくありませんでした。特にノウハウを出すことについて過敏に反応する向きがありました。それは、このスキームを利用すると企業の意図に反して技術やノウハウを出すことにつながるのではないかという危惧を抱く方がいるためです。

澤井敬史 氏
知的財産戦略研究所 理事長
三好内外国特許事務所 副所長
澤井敬史 氏

澤井 このスキームは、当事者同士のビジネス交渉を大前提としたものですから、なんらノウハウの流出を危惧するようなことはありません。なぜ、そのような心配が出てくるかと考えてみると、技術移転が技術開発部門や事業部門に関わる要素が多く、知的財産部門が率先してそこまで踏み込んで社内横断的にコンセンサスを形成することに不慣れなのが原因ではないかと思われます。

川村 ノウハウの保護については、場合によってはブラックボックス化したり、出す技術を制限したりしても良いのです。それは技術を提供する企業が自由に決定できるのです。その意味では企業にとって失うものはなく、自社の技術を広めるチャネルが増えたと、とらえてほしいのです。実際の技術移転では、導入先のニーズに応じてその分野の専門家が技術を選択したり、カスタマイズしたりする必要があり、特許だけでは取り引きが進まないという現実があります。従って、むしろノウハウ等も含めてパッケージにすればその技術を有効活用しやすくなるわけです。


海外の大手企業が飛びついた三つのメリット

朝倉 日本企業がいつの間にか保守的になっていて、国際展開において積極性が欠けるということでしょうか?

川村 今回のコンセプトに対する反応を見ても、明らかに日本企業と海外企業で違いがあります。日本企業は守りの姿勢ですが、海外企業はメリットがあるならそれを積極的に利用しようとする攻めの姿勢があります。

朝倉 「WIPO-Green」にはどんなメリットがあるのでしょうか?

澤井 第1に、環境分野における企業ブランドの国際的なイメージアップにつながることです。環境技術に関する技術移転サイトで、しかもそれが世界的な中立機関であるWIPOで運営されるわけですから、そこに技術を掲載し技術移転の実績が蓄積されることになれば、グローバルな広告効果としては計り知れないものがあると思います。

川村 第2のメリットとして、新興国へのインフラ輸出における営業チャネルを拡大する上でも有効だということです。例えば、世界に名が通る企業でも新興国ではそのブランド力がほとんど通用せず、現地政府が関わるインフラ絡みの大きなプロジェクトになかなか入り込めないことが多いようです。ある海外の大手企業がこの話に飛びついたのは、WIPOという世界的な中立機関を介して地球環境維持に貢献する仕組みに参加することが、新興国政府に食い込む際に営業上プラスになると思ったからです。この海外企業でも知的財産担当者が最初は否定的なことを言っていましたが、ある時点から手のひらを返したように積極的な姿勢に転じています。知的財産担当の判断よりも経営陣の決定が優先しているからだと思われます。その意味では、国際的な技術移転の仕組みを新興国ビジネスの営業に生かすという着眼点の良さと決定の速さに裏打ちされた、強い攻めの姿勢を感じています。

朝倉 しかし、新興国にノウハウを出すことは逆にデメリットになりませんか?

川村 技術を利用してもらうためのノウハウなら積極的に出す価値があります。さきほども言いましたように、ノウハウを組み込んでブラックボックス化すれば良いのであり、人の頭の中にとどめておくこともできます。見ただけで真似されるノウハウはそれほど多くはありません。

久慈 別の視点で言うと、一般に1件の特許を日本、米国、欧州で20年維持するには費用が約1000万円かかります。そうなると、とても新興国にまで特許を出す余裕がないということになります。今回のプラットフォームを利用すれば、特許を出していない新興国に対してもノウハウとして技術を提供し、代価を得ることが可能となります。

澤井 ノウハウもいろいろあり、どこまでなら出せるという線引きをすることが重要だと思います。このプラットフォームを使ってのメリットを受けられる企業は、ノウハウ・マネジメントの優れたところといえるかもしれません。

朝倉 先ほどの二つ以外にも何かメリットはあるのでしょうか?

川村 日本の中小企業や大学が持っていて表に出ない環境技術は、たくさんあると思いますが、そのような技術をWIPOの世界的ネットワークを活用して情報発信すれば、新たに資金を調達したり、ODA(政府開発援助)の様な政府系ファンドや開発銀行ファンドなどの国際的な資金援助の枠組みが使える可能性も広がります。

澤井 そうですね。環境技術の普及における国際的なファンドの活用が期待できることが、第3のメリットと言えます。




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