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環境技術移転に有効な「WIPO-Green」が始動(下)
〜このままでは日本企業は勝ち残れない〜
[2011/11/24]
 環境技術の移転の枠組みとして日本知的財産協会が提唱したコンセプトと仕組みが、国際連合の専門機関であるWIPO(世界知的所有権機関)が運営する「WIPO-Green」となって具体的に動き始めた。特許だけでなくノウハウも含めて新興国などが技術を導入しやすいようにパッケージ化し、技術を保有する側と導入する側を引き合わせる仕組みである。WIPOという世界的な中立機関が関わる大きなメリットにいち早く気がついた海外の大手企業の経営層が、この仕組みを積極的に活用しようと触手を伸ばし始めている。一方、発案元の日本企業においては、知的財産部門から経営陣への説明不足もあり、スタートダッシュに出遅れている。このままで日本企業は環境技術を生かした国際競争で勝ち残れるのか、「WIPO-Green」の立ち上げにかかわった当事者たちが議論した。

出席者:
知的財産戦略研究所 理事長(三好内外国特許事務所 副所長) 澤井敬史 氏
日本知的財産協会 常務理事(本田技研工業 知的財産部長) 川村裕一郎 氏
本田技研工業 知的財産部参与 久慈 直登 氏
司会:テクノアソシエーツ 日経BP知財Awareness編集長 朝倉博史

「COP17」でプロモーションの予定

朝倉 ところで、知財協で「Green Technology Package Platform(GTPP)」と称していた技術移転のプラットフォームが「WIPO-Green」に変わっていますが、その意義はどんな点にあるのでしょうか?

澤井敬史 氏
知的財産戦略研究所 理事長
三好内外国特許事務所 副所長
澤井敬史 氏

澤井 知財協がコンセプトだけでなく詳細設計まで手がけていますが、システム構築と運営主体はWIPOが行うことになっています。WIPOという国際的に中立性が極めて高い機関がその役割を担ってもらったところが、むしろこのプラットフォームの利用価値を大きくしていると思います。

川村 WIPOでは、(1)途上国に知財制度をいかに根付かせるか、(2)眠っている特許をいかに活用するか、という課題解決に向けた組織として2010年4月にGlobal Challenge Divisionという組織を立ち上げました。そのテーマの一つである「環境」の具体的な取り組みが「WIPO-Green」になったわけです。2011年7月に開催された「WIPO気候変動会議」では、環境技術移転のためのデータベースとして「WIPO-Green」を設立することを宣言しました。その後、9月末にデータベースが完成し、WIPO事務局長から「WIPO-Green」に技術を載せてほしい旨、それまでコンタクトしてきた大学や企業などの関係者に手紙を出しました。11月28日〜12月9日の第17回気候変動枠組条約締約国会議(COP17)では、WIPOがブースを設けて「WIPO-Green」のプロモーションをする予定です。

朝倉 「WIPO-Green」と同様の仕組みはこれまでなかったのでしょうか?

川村裕一郎 氏
日本知的財産協会 常務理事
本田技研工業 知的財産部長
川村裕一郎 氏

川村 技術移転にかかわる仕組みとして似たものはいくつかありますが、WIPOのような国際的な中立機関が関与したものはありません。実際に世界で利用されているということで代表的な例は、世界経済人会議(WBCSD)が運営する「Eco-Patent Commons」があります。環境目的であれば特許を無償で使ってよいとする特許に限定した取引サイトです。無償ということなので企業にとって実利はありませんが、欧米企業の多くは戦略的に別の目的でここに参加しています。企業活動として環境に貢献しているということをPRすることで、企業イメージを向上させる効果を狙って参加しているのです。そのほかに、米国のyet2.comが運営するオークション・サイトがあります。特許をオークションに出すわけですが、成立すると取引額に応じた対価を払う必要があります。このサイトでは落札額で相手先が確定するため、パテント・トロールのような好ましくない相手が取引先となるリスクがあります。


日本の経営層は意識改革し攻めの技術移転を!

朝倉 「WIPO-Green」を経営的により有効に機能させるための今後の課題は何でしょうか?

川村 実際に技術を動かすための工夫です。データベースに技術を載せただけではなかなか動きません。まず、ファンドの呼び込みです。技術を出したいところと使いたいところがあり、金があれば技術が動かないはずはありません。例えば、アジア開発銀行は独自に新興国の政府と組んで取引保証の仕組みを動かそうとしています。新興国に技術を出す際に契約を遵守しなかったり、対価を支払ってもらえなかったりした場合に政府経由で銀行が損害を補填するものです。WIPOのような中立の国連機関が関与すれば、このような取引保証も設定しやすくなります。

澤井 私もこれを聞いて面白いと思いました。ファンドを呼び込んで安心してビジネスを組み立てることが技術移転を実効的に動かすカギになるからです。

川村 さらに、リソースに乏しい中小企業などのために間に入ってサポートする人材が重要になってきます。そのような人材確保に向けた政府の支援も必要になるでしょう。

朝倉 企業の経営層の意識も変える必要がありますね。

川村 環境関連のビジネスは特に経営層のトップ・セールスが欠かせません。今回の話は、「売り上げが何%上がるか」という実利を見ただけでは「WIPO-Green」の特徴を生かせません。環境企業としての国際的なブランド力の向上や、相手先の政府に食い込むための営業チャネルの拡大効果といった名目の利益をうまく使い分けるトップ判断が経営層に求められます。欧米企業はそこをしたたかに狙ってきています。

3人並び写真

澤井 日本企業は優れた技術を持っているにもかかわらず、これまでシステム全体を売り込むトップ・セールスをほとんどやってこなかったのではないでしょうか。ただ今後、環境ビジネスで勝ち残りたいなら、日本の経営層の意識改革が必要です。せっかくの日本発案の「WIPO Green」を、日本企業の国際的価値を上げるツールとして、ぜひ積極的に活用してほしいですね。また、このような斬新な枠組みを利用して、環境ファンドや取引保証を上手に取り込んで、攻めの技術移転を実行してほしいと思います。




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