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映画出演のギャラだけで年間1億円の収入を得る日本の俳優や女優はおそらくいないと思われるが、フランスの今年の映画俳優年収ランキングで1位になったマリオン・コティヤールの収入は235万ユーロ(約2億4千500万円)、ジェラール・ドパルデューは200万ユーロ(約2億800万円)であり、トップ18人の俳優の年収がみな1億円を超えている。ハリウッドスターのギャラもそうだが、どうして欧米の映画俳優は何億円もの収入を得て、自家用飛行機を何台も持ったり島をいくつも買ったりできるのであろうか。それは、映画会社と結ぶ出演契約の際、必ず出演料とは別個に、映画の興行収益やその後のDVDの売上げに比例した歩合報酬が定められているからである。出演契約の際のこの歩合報酬の設定はフランス法では義務であり、それに反した報酬体系は違法とされる。 映画俳優の報酬に関するフランス著作権法の原則 映画俳優は、実演家(artiste-interprete)として著作隣接権を有しているが、フランス著作権法で映画俳優の報酬に適用されるルールを定めているのは、以下の2つの条文である。 知的所有権法L 212-3条: 実演家の実演を録音・録画、複製、上演・公開する場合や、実演の音と画像が一緒に録音・録画されている場合に音と画像を別々に使用する場合には、実演家の書面による許諾が必要である。 知的所有権法L 212-4条: 映画・テレビ作品の制作のために実演家と制作者との間で契約が結ばれる場合には、実演家がその契約に署名したことは実演家が自分の実演を録音・録画、複製、上演・公開することを制作者に許諾したものと見なす。 このように、原則的に実演家の実演を録音・録画、複製、公開するためには書面による許諾が必要となる。映画俳優が映画制作会社と出演契約を交わす場合には、俳優がその契約に署名することで、映画中の自分の実演を制作会社が録音・録画し、複製し、公開することを許諾したとみなされる(許諾の推定)ことになる。したがって、映画制作のために俳優と映画会社との間で出演契約が結ばれる場合、出演契約とは別途に複製権や上演権の譲渡契約を交わす必要はない。ただし、この推定が働くためには必ず、出演契約の中で映画作品が使用される形態ごとに、俳優に支払われる報酬が規定されなければならない。 この「作品の各使用形態それぞれについて定められる別個の報酬」とは、俳優が著作隣接権を譲渡することの対価、すなわちロイヤリティ(redevances)である。著作隣接権譲渡のロイヤリティは、俳優が映画に出演し、演技することの対価である出演料(≪cachet≫、「ギャラ」)とははっきり区別され、給与(salaire)とは見なされない(労働法L7121-8条)。したがって、俳優が負担する社会保険の掛金算定のベースには含まれない。 映画俳優に支払われる歩合報酬の決定の仕方 実演家の著作隣接権譲渡のロイヤリティは著作権譲渡のロイヤリティと同様、著作隣接権使用の利益に応じて定められなければならない。俳優と映画制作会社との出演契約で定められる俳優のロイヤリティでベースとなる著作隣接権使用の利益は、映画制作会社が映画作品の映画館での上映、テレビでの放映及びビデオ(DVD)の販売によって受ける収入とされている。この3つの使用形態それぞれについて別個の報酬が規定されていなければならない。 俳優の出演契約で著作隣接権譲渡のロイヤリティが定められない場合や、出演料とロイヤリティが一緒されている場合、または映画館・テレビ・ビデオの使用形態が区別されずに「全ての使用方法について」ロイヤリティが定められている場合には、その報酬規定は無効となり、裁判所により、その業界で一般的に適用されているロイヤリティの支払いが、出演料の支払いに加えて映画会社に対して命じられる。 フランスの映画俳優の出演契約に盛り込まれる報酬に関する条項は、以下のようなものである。 第xxx条 報酬
a) 全映画館、上映地での映画制作者の興行収入のxxxxx% この報酬率は、俳優に支払われる比例報酬がxxxxxxxユーロに達するまで適用される。俳優に支払われる比例報酬がxxxxxxxユーロに達した後は、この報酬率は各使用形態についてxxxxx%となり、著作隣接権の保護期間中、支払額の上限なしに、適用されるものとする。 さらに、有名な俳優の出演契約では多くの場合、この出演料と著作隣接権譲渡のロイヤリティに加えて、以下のような映画館の動員数に応じた追加報酬に関する規定が加えられる。 3. 上2項で定められた報酬とは別に、俳優は、以下の報酬を支払われるものとする。
動員数に応じた俳優の報酬が規定される場合、報酬算定のもととなる動員数はCINECHIFFRE社(日本の興行通信社に相当)が有料で公開しているデータ(http://www.cinechiffres.com/)をもとに報酬額が算出され、四半期ごとに俳優に支払われる。 固定報酬と歩合報酬の割合の決定が俳優の人気と活動に与える影響 若手監督の低予算の映画作品や、監督と有名俳優が親しく俳優が友情出演する場合には、ギャラを低く設定した上で、興行収入に応じたロイヤリティの報酬率を50%としたり、動員数に応じた高額の追加報酬を取り決めたりする報酬規定が交わされる。 例えば、2010年に公開された映画「ハートブレイカー」(≪Arnacoeur≫)では、パスカル・ショメイユが監督として初めての長編映画だったにも関わらず、フランスの配給会社やテレビ局などが推薦した日本でも「アメリ」や「ダヴィンチ・コード」の主演女優として有名なオドレイ・トトゥの起用を拒否し、ヴァネッサ・パラディとロマン・デュリスの共演を押し通したため、フランスの配給会社やすべてのテレビ局から出資を断られた。そのため、パラディは15万ユーロ、デュリスは20万ユーロのギャラに応じ、それぞれ興行収入と動員数に応じた報酬の割合を多くする出演契約を結んだ。その後、「ハートブレイカー」はフランスで動員数が380万人近くに達し、またパラディ、デュリスともにフランスのアカデミー賞にあたるセザール賞にノミネートされたこともあって、映画のDVDの売上げも大幅に伸びた。その結果、本映画への出演でヴァネッサ・パラディは130万ユーロ(約1億3500万円)、ロマン・デュリスは220万ユーロ(約2億2800万円)の収入を得ることになった。 また、ギョーム・カネが監督した映画、「小さなハンカチ」(≪Les Petits Mouchoirs≫)では、主演したカネ監督の恋人、マリオン・コティヤールのギャラは20万ユーロであったが、本映画はフランスだけで550万人の動員数を獲得したため、コティヤールは2010年度の映画俳優年収ランキング1位の座に就くことになった。 有名俳優が有名でない監督の映画に出演する場合には、興行成績が悪かった場合のリスクを少なくするために固定報酬は高く設定されるが、フランスでは「採算の悪い俳優ランキング」も毎年公開されるため、注意が必要である。例えば、オドレイ・トトゥは2010年に約1.2億円のギャラで主演したピエール・サルバドーリの映画がフランス全土で54万人しか入らなかったため、多くのマスコミに、ギャラが高く採算の悪い俳優第1位として取り上げられ、今夏には近々女優から引退をするという噂も立った。 こうした映画スターの報酬とその採算性のランキングは、俳優の人気や将来の活動に直接影響してくるため、弁護士を交えた映画会社と俳優のエージェンシーとの間の出演契約の交渉においては、しばしば時間をかけて作品とその経済的なポテンシャルの非常に細かい分析と予測を行い、固定報酬と歩合報酬の割合が決定されている。
< 著者紹介 >永澤亜季子(ながさわあきこ) ミゲレス・ムラン総合法律事務所、フランス共和国弁護士 フランス共和国弁護士(C.A.P.A.)、パリ弁護士会登録。1999年東京大学卒業後、パリの弁護士事務所や国際機関で研修、勤務。2006年パリ第2大学法学修士、2007年フランスの司法試験(C.R.F.P.A.)に合格する。特許事務所や知財専門の弁護士事務所に勤務後、独立してFabienne Goubault弁護士とパートナーシップ。2012年1月からMIGUERES MOULIN総合法律事務所勤務。知財法、商法、労働法、訴訟の案件を主に扱っている。 |
<過去の連載>
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