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米国知財レター

米国特許法改正、日本企業が留意すべきこと
異議申立制度の利用と、ディスカバリーによる特許権者側の作業負担
[2011/12/27]

 米国特許法改正法案が2011年9月に成立した。法改正の各項目の内容と解説についてはすでに日本でも関係各所から発表されている(関連資料1)。「先願主義への移行」が一つの大きな話題となる一方で、奈良先端科学技術大学院大学・客員准教授で米国特許事務所Posz Law Group所属の吉田哲氏は、「米国の先願主義移行の影響は、日本企業にとってさほど大きくないであろう。日本企業が留意すべきは、特許の有効性を判断する異議申立制度や優先審査制度ではないであろうか」と指摘する。同氏が今回の米国特許制度改革の注目点として挙げ、他社特許を排除するための規定である異議申立制度の概略と留意事項について解説する。また、それに関連する情報提供制度について、東京しらかば国際特許事務所・弁理士の庄司亮氏が解説する。

1.異議申立制度の概略
吉田哲 氏
奈良先端科学技術大学院大学
産官学連携推進本部、客員准教授/弁理士
POSZ LAW GROUP, PLC
吉田哲 氏

 これまで他社特許を無効にする制度として、米国特許制度では「当事者系」と「査定系」の再審査制度を設けていた。しかし、米国政府および産業界は、現状の再審査制度では不十分であるとして、より早くかつ慎重に特許性の判断がなされる仕組みを求めていた(関連資料3)。今回の改正では、これらの要望に対応すべく、新たに査定系のPost Grant Review (PGR)と当事者系のInter Partes Review (IPR)の二つの異議申立制度を設けた。法案成立までの経緯を考えると、この異議申立制度は裁判所よりも“簡単・早い・安い”制度であり、これまでの米国特許商標庁(USPTO)の再審査制度よりも慎重に特許性を判断する制度と考えられる。異議申立制度を設立する必要性については、特許制度改革について意見をまとめた米国商務局の白書にも述べられている(関連資料4)。
 なお、IPRの設立により、これまでの当事者系再審査制度は廃止となる。一方、査定系再審査制度とPRGは並存する。したがって、今後、他社特許の無効を狙う利害関係人は、「IPR」、「PRG」、「査定系再審査」の3つの制度を利用できることになる。
 以下、異議申立制度の概略として、二種類の異議申立制度についての共通点と相違点を紹介する。

【共通の特徴】
 二種類の異議申立制度に共通する特徴は次のとおりである。
  規定の内容
申立人適格 ・申立人適格は利害関係者であり、制度上、匿名は認められない(§312(a)(2)、§322(a)(2))。匿名で特許性を争う場合は査定系再審査を利用する。
取り下げの有無 ・特許権者と申立人との合意により、取り下げが可能。ただし、長官は裁量により継続することができる(§317、§326))。申し立てが和解により取り下げられた場合、エストッペルは当事者には発生しない(§317、§327)。
制裁措置 ・ディスカバリー制度の濫用に対する制裁措置が設けられている(316(6)、§326(6))。
口頭審理 ・いずれの当事者(特許権者を含む)にも口頭審理(oral hearing)の権利が与えられる(§316(10)、§326(10)
審理期間 ・予定される審理期間は、長官の審理開始決定から12ヶ月(更に6ヶ月の延長あり)以内(§316(a)(11)、§326(a)(11))。
書面提出の機会 ・申立人には、少なくとも一回の書面提出の機会が与えられる(§316(12)、§326(12)
エストッペル ・審理終了後、(特許無効に失敗した)申立人は、その後にUSPTO・地裁・ITCに実質的に同じ特許無効の主張をすることは許されない(§315(e)、§325(e))。
補正(その回数) ・特許権者の権利としての補正は1回、それ以上の補正については特許権者と申立人の合意が必要。クレームを拡張する補正・新規事項を追加する補正は認められない(§316(d)、§326(d))。
他の審理との調整 ・申し立て前に、申立人が特許の有効性を地裁に訴えている場合、審理は開始されない(§315(a)(1)、§325(a)(10)。申し立て後に、申立人が特許の有効性を地裁に訴えた場合、特許権者の特定のアクションがあるまで地裁は審理を保留する(同(a)(2))。つまり、異議申立制度と地裁の審理において先に開始した方の審理が優先されるといえる。
法定実施権 ・法定実施権(intervening rights,§252)が引用されている(§318(c)、§328(c))。留意事項5参照。

【両制度の相違点】
 両制度の相違点は次のとおりである。(左側が査定系のPGR、右側が当事者系のIPR)
  PGR IPR
申立期限 ・許可(grant)から9ヶ月間、or
・再交付(Reissue)後の場合、権利拡大の場合に限り発行後9ヶ月間(§325(f))
・PGR可能な9ヶ月間の経過後
・PGRの終了後(§311)、or
・特許訴訟の被告は、訴訟提起から一年以内(§315(b))←交渉から一年以内の申立が必要
無効理由の範囲 特許適格性、新規性、進歩性、記載要件(ベストモードは除く)(§321) 特許・刊行物に基づく新規性・進歩性に限られる(§311)←PGRより狭い
無効理由の程度 相当の見込(§324(a)) 合理的可能性(§314(a))
※現行の当事者系再審査制度の程度よりハードルは高いと紹介される(関連資料5
合併・参加の有無 複数の申し立ては一つに集約される(§325(c)) 長官は審理に参加することができる(§315(c))
審理保留の有無 特許後3ヶ月以内に提訴された特許訴訟において、PGR開始を理由にした仮差し押さえの審理保留は必ずしも認められない(§325(b))  
ディスカバリー&デポジション 制限的なディスカバリーあり、ただし、専門家のデポジションの規定なし(§326(5)) 制限的なディスカバリーあり、専門家のデポジションもあり(§316 (5))
施行時期 2012年9月16日
ただし、異議申立の対象は、2013年3月16日後の有効出願日を持つ特許
2012年9月16日
当日前に発行した特許も対象(ただし、特許許可後の9ヶ月間は待機する必要あり)。

Note:
1) PGRは、査定系の異議申立制度であり、申立人は基本的に審理に参加することはない。IPRは、当事者系の異議申立制度であり、申立人には審理に参加する機会が与えられるはずであるが、それらを明記する規定を見つけることはできなかった。
2) PGRとIPRとの審理は、制度上、同時に行われることはない。また、上記の通り、地裁に特許無効訴訟を提訴している申立人も異議申立制度を利用できない(§315(a), §325(a))。よって、地裁での無効訴訟と異議申立制度との並存もない。


2.留意事項および対策など

 以下、留意事項・対策などを紹介する。

【これまでの再審査制度との比較】
 これまでにも再審査制度は存在していたにも関わらず、異議申立制度を創設した理由を考えると、これまでの再審査制度よりも特許性は厳しく判断がなされるものと考える。
 その理由として、米国社会がUSPTOに対して、長年「特許の質(Quality Patent)」の向上を要求している点が挙げられる。"Quality"の意味については様々な意見があるものの、少なくとも進歩性の程度が低く特許訴訟で無効と判断されてしまうような特許が多く存在している点を、米国社会は問題視している印象である。そして、この問題の解決手段としてこの異議申立制度が設けられた点を考えると、USPTOの特許性の判断はこれまでの再審査制度よりも厳しくなると予想する。
 もし甘い審査の結果、形式的な補正程度で特許維持と判断されるようでは異議申立制度の利用者から「これなら地裁で争ったほうがましだ・・・」といった評価がなされかねない。その結果、利用数が減少する事態はUSPTOとして望まないであろう。すでに異議申立制度に向けて100〜150名のJudge(判事)の採用が発表されており、本制度に対するUSPTOの意気込みが感じられる。
 なお、影響の大きさは未定であるものの、これまでの再審査制度は審査官が審査主体であったのに対して、今後の異議申立制度ではPatent Trial and Appeal Board(異議審判部)のJudge(判事)が主体となる(§316(c)、§326(c))。弁護士の意見として、「一般的にJudgeは高学歴で審査官よりスマートであろう」という声もある。クレーム文言の形式的な差異の議論だけではなく、技術的な判断が期待されている。

【ディスカバリーによる作業負担】
 日本企業が最も留意すべき事項としては、両制度とも制限的ではあるがディスカバリーが採用されている点と考える。申立人側に特許性に関する証拠があるとは必ずしも期待できないため、実際の運用では、特許権者側に多くの書類の提出が求められることになるであろう。どのような運用になるかは不明であるものの、それなりの作業負担が特許権者側に強いられることとなる。明らかな点は、異議申立制度により、特許権者が特許を維持するための負担が増加する点である。
 ディスカバリー対策の一つは、日々の書面作成業務において誤解のない文言を使うことだろう。問題になる表現としては、例えば、「絶対に特許は無理」や「他社特許を思いっきり侵害しています」といった表現である。これらの表現は、会話の中であれば、驚きと笑いをもって使われる表現なのかもしれないが、これらが書面となって第三者が読むとすれば「自分たちの発明に特許性がないと自覚していた」や「他社特許の侵害を認識していた」というように判断されかねない。これまで、ディスカバリーといえば特許訴訟での手続きであったものの、今後はUSPTOを相手とする異議申立制度でもディスカバリーが要求されるようになる。発明者を含み知財関係者は、これまでと同様に適切な表現を使うことを徹底すべきであろう。

(1)秘匿特権
 米国弁護士との交信記録については秘匿特権が設けられており、それらの交信記録はディスカバリーの対象からは外れている。秘匿特権を確実に利用する視点からは、秘匿対象である書面については守秘(confidential)との表記を用い、いざディスカバリーが始まったときに簡易かつ確実に裁判所への提出書面から除外できる仕組みを準備しておくことが望ましいであろう。これは異議申立制度だけの対策ではなく、通常の特許訴訟対策としても有効である。

(2)翻訳の必要性
 日本の関係者で話題になっているのが、日本語資料を提出する際、英文翻訳が要求されるのか否かである。日本企業であれば米国特許に関する書類であってもその多くは日本語で記載されているであろう。例えば、日本人発明者と知財部員との交信履歴である。これらのすべてが英語で提出する必要があるとすれば、その翻訳の作業負担・費用はそれなりに大きいと考えられる。  この点については、今後、USPTOから発表される運用ガイドラインに注意する必要があるであろう。ガイドラインが定まるまで特に対策は必要ないものの、日ごろの書類管理のシステム化や機械翻訳の試験的利用などは望ましい準備といえる。

【補正の回数】
 両制度ともに、権利としての補正は一回に限られている(米国で開催される法改正セミナーでもそのように説明されている)。したがって、特許権者は、異議申し立ての審理では段階的に減縮補正をすることはできない。一回の補正で先行技術を確実に回避するとともに、最大限の権利範囲を確保するための対策をとる必要がある。このような補正の見極めは通常の審査時以上に大きな負担となるであろう。
 全クレームが無効と判断されてしまうと、一体どこまで限定すべきかその判断が難しくなる。このような状況を避ける対策としては、権利範囲の広い独立クレームだけでなく、段階的に特許性を限定した多様な従属クレームを準備しておくことが望ましいと考える。先行技術に対して制限的過ぎる従属クレームであったとしても、少なくとも一つの従属クレームについて裁判官らが特許性ありと認めるならば、その後の補正ではそのクレームをボトムラインとしてより広い権利範囲を狙うクレームの記載・議論が可能になるからである。筆者らの簡易な統計であるものの、従属クレームの特許性が認められることにより、特許査定までの拒絶理由回数が減少する傾向が確認されている(関連資料6)。このような従属クレームを活用する視点は、この異議申立制度でも同様に利用できるものと考える。どのような従属クレームの記載が望ましいのか? 従属クレームの記載内容については、米国出願時だけでなく国内出願時の段階から対応すべき課題であろう。明細書作成者である日本の弁理士らの理解と協力が、米国実務においても重要になると考える。
 なお、異議申立の審理結果で特許無効と判断されると、次はCAFC(連邦巡回区控訴裁判所)であり、そこでの補正は期待できない。十分な減縮補正に失敗したときの保険として「PGRが申請されたら自動的に再交付(Reissue)を申請してはどうか?」とのアイデアも出されている。Reissueでは段階的に補正が可能かつ、継続審査請求(RCE)も利用できるからである。

【無効理由の程度】
 異議申立の審理が開始されるためには、申立人はそれなりの無効理由を説明する必要がある。その程度として、PGRでは「相当の見込み: more likely than not (§324(a))」と定められ、IPRでは「合理的可能性: reasonable likelihood (§314(a))」と定められている。これらの言葉の意味から、異議申立の開始条件は、これまでの再審査制度の基準(substantial new question:SNQ)よりも高く設定されていると紹介される。しかし、一体どの程度高くなるのか、その程度は現時点では不明である。
 異議申立制度ではディスカバリーも採用されており、特許権者側の負担は審理を開始するか否か判断の際に考慮されるであろう。とすれば、審査済みの先行文献を単に組み合わせて新しい無効理由を主張するといった程度では審理が開始されない可能性が高い。少なくとも、これまでの再審査制度よりも高いハードルである点は間違いない。
 「相当の見込み」や「合理的可能性」の言葉の意味を、現時点でどれだけ議論しても無意味であろう。これらの程度については、今後の運用を通じて明らかになると考える。筆者の推測であるものの、その程度としては、新しい先行文献や審査官が見落としたであろう重要な開示個所を根拠に日本の知財関係者が自信を持って無効を主張できる程度であれば十分と考える。

【いずれを利用すべきか?】
 他社特許を無効にする対策として、PGRとIPR、いずれを使うべきか? との質問をいただく。現時点では、双方に特徴があるので、特徴に応じて使い分けるべきとしか回答できない。そもそも不適切な特許を排除するという共通の目的に向けて、いずれか一方が目的達成の手段として優れているのであれば、二つの制度を並存させる理由がないからである。
 極めて当たり前の基準であるが、安い費用で自分の作業負担を小さくしたいのであればPGRを利用すべきであろう。一方、費用よりも確実な特許無効を望み、積極的に審理に参加することに躊躇がないのであれば、現時点ではIPRを利用すべき、といえる。

【補足資料:再審査制度の傾向】
 当事者系と査定系の審査結果の違いは、これまでの再審査制度から読み取れる。2011年6月に発表されたUSPTOのデータを紹介する。なお、再審査請求は特許権者が行う場合もある。今回は、第三者が請求した場合のデータを紹介する。

 −審決統計−
  査定系(5192件) 当事者系(278件)
全クレーム維持 24% 13%
全クレーム拒絶 13% 44%
補正あり 63% 43%
 ・査定系再審査のデータは81年に制度が開始した時からの統計である(関連資料7)。
 ・当事者系再審査のデータは99年に制度開始した時からの統計である(関連資料8)。

 全クレーム維持の割合は、査定系が24%で当事者系の13%よりも高い数値となっている。全クレーム拒絶の割合は、査定系の13%であるのに対して当事者系が44%と、大きな差が存在する。いずれの結果も、当事者系の結果が特許権者に厳しい結果となっている。補正については、査定系が63%で補正が行われており、当事者系の43%よりも高い値となっている。査定系では高い頻度で補正が行われている。この点が、全クレーム拒絶となる割合を小さくしているものと考える。
 全クレーム拒絶と補正ありのデータを組み合わせると、いずれの再審査でも約8割のケースで、権利範囲は限定されていると考えられる。したがって、特許の有効性を問い直す再審査制度の目的はそれなりに達成されていると考える。その中でも、44%の確率で全クレームが拒絶となっている当事者系の再審査は注目に値するであろう。推測となるが、当事者系の再審査を選ぶ場合は、特許性を否定できる有力な先行文献が見つかった場合が多いと考えられる。その他、特許無効を主張する申請人の意気込みや審査官に対する機敏な対応が特許無効とする心象を審査官に少なからず与えているのかもしれない。
 以上は再審査制度による比較であるものの、当事者系と査定系では、当事者系のほうが特許権者に厳しい結果となる傾向があることがわかる。この傾向から類推するならば、異議申立制度においても、当事者系の方が特許権者に厳しい結果となる確率が高いと予想する。

【法定実施権の設定】
 米国特許制度にも、日本特許と同様に法定実施権の規定が設けられている(§252)。制度趣旨は、Reissueにより権利範囲が変更された後の善意の実施者の保護である。権利の概要は、特許の権利範囲が実質的に変更された場合(拡張のみならず縮小を含む)、補正後の特許が発行される前に該当特許を実施していた者に対してその継続的な実施が認められる、というものである。そして、この法定実施権の規定は、本異議申立制度でも引用されている(§318 (c)、§328(c))。
 偶然であるものの、2011年9月にこの法定実施権が特許侵害訴訟の被告に認められた判決があった(Marine Polymer Technologies Inc. v. Hemcom Inc.)。この判決で注目された点は、クレーム文言の補正はなかったものの、明細書中でクレーム文言の定義を変更したことにより、「発明の実質的な変更があった」として法定実施権が認められた点と、その結果、それまでの損害額29,400,000ドルが消滅したという点である(関連資料9)。
 異議申し立ての審理が開始すれば、特許維持が優先事項であることは間違いない。しかし、補正を行う場合には、常に法定実施権の発生の影響についても考えるべきであろう。さらに、上記判決のように巨額の損害額が消滅してしまうようであれば、申立人との和解による審理終結はビジネスとして考慮すべき視点と考える。なお、法定実施権の発生は「実質的な変更」があった場合であり、形式的な修正程度であれば問題とならない。実質的な変更か否かの判断も特許権者として重要な視点といえるであろう。

【施行時期】
 PGRとIPRが並存するとしても、PGRが実際に利用されるのは、2013年3月16日以降の有効出願日を有する特許に対してである。最低でも一年間の審査期間を考えると、その利用開始時期としては2014年3月以降になるであろう。一方、IPRは2012年9月16日から利用できる。したがって、現時点では、まずIPRの利用を考えるのが妥当であろう。なお、IPRの申請は、特許発行後の9ヶ月は(PGRの申請期間であるために)待機する必要がある。この空白の9ヶ月については批判的意見が述べられている(関連資料10)。今後、修正が発表されるかもしれない。
 その他、ビジネスモデル特許については例外的にPGRの利用が早期に認められる(法改正条文Sec. 18)。ビジネスモデル特許に対する運用が始まれば、ディスカバリーの運用や特許権者側の負担が明らかになるものと期待される。

【第三者による先行文献提出】
 異議申立制度を規定するSec. 6において、第三者による先行文献提出が規定されている(§301)。本規定により、第三者であっても、(おそらく匿名で)、USPTOに先行文献を提出することが可能となる。他者特許の無効を願う第三者にとって都合の良い制度であるものの、折角の先行資料であっても明瞭な主張をしなければUSPTOに十分に考慮されないおそれがあるであろう。そうなっては、その資料に基づく無効理由の主張が将来難しくなってしまう。現状として、本気で無効にしたい特許に対しては、自分で異議申立を行っておく方がその後の後悔を招くことはないのではないか、と指摘されている。


3.情報提供制度の概要と留意事項など
庄司亮 氏
東京しらかば国際特許事務所
パートナー・弁理士
庄司亮 氏

 従来、米国においても他社特許出願を拒絶に導く制度として情報提供制度が設けられている(Third-party submission in published application(37CFR1.99))。しかしながら、日本の情報提供制度とは異なり、米国の情報提供制度の提出期間は出願公開後2ヶ月と短く、かつ情報提供者のコメントなど情報提供者が審理に参加することができない。さらに、審理に対するフィードバックもないことから、利用するには難しい側面があったことは否定できない。

(1)改正点の概要
 今回の改正では、提出期間と関連性の説明についての改定が行われた。

@提出期間
 提出期間は現行の出願公開後2ヶ月から出願公開後6ヶ月またはFirst Office Action(最初の拒絶通知)のうちのいずれか遅い方までになった。これにより、従来に比べて提出期間が実質的に長くなった。

A関連性の説明
 情報提供者には、情報提供する文献との関連性を説明することが義務づけられる。これにより、情報提供者が特許性に関して実質的に意見を述べられるようになった。
 以上の改正点はいずれも情報提供者側に有利に作用すると考えられ、従来より利用する価値が高まることが期待されている。

(2)意見および留意事項
 確かに、日本の情報提供制度と同様、情報提供者の参加には制限があるとともに(情報提供時のみ)、情報提供後には特許出願人に補正や反論の機会が十分に保証されるため、異議申立制度が新設された以上、当該情報提供制度を推奨しない現地代理人も多く存在する。また、情報開示義務(いわゆるIDS)とは異なり、今のところ提出された書面について審査しなければならないという審査官を拘束する規定はない。審査上、どの程度考慮されるかも未知数であるので、有効な手段であるかどうか疑問があることも確かである。

 しかしながら、異議申立制度には、ディスカバリーやデポジションがある以上、その費用は安くはないと予測される。一方で、情報提供制度の費用は、いまだ未定であるとはいえ、従来と同様であればIDSの手続きと同程度(180ドル(37CFR1.17(p))であり、情報提供時にコメントの作成費用がかかるとしても、異議申立制度よりは、はるかに低コストでできる点はメリットとなると思われる。
 また、情報提供に関しては、情報提供する文献と情報提供の対象となる出願の関連性を説明すれば事足りる。そのため、上述したように、異議申し立てを行う際に要求される無効理由のハードルなどの要件とは無関係に、情報提供制度を利用することができることから、異議申立制度より比較的簡単に利用することができることもメリットの一つと言える。
 さらに、現行では提供する情報について、情報提供者は情報提供の対象となる出願人に当該情報を送付する必要があり(37 CFR 1.248)、情報開示義務の観点から出願人は送付された情報をUSPTOに提出せざるを得ない。最終的に、情報提供者が提供する情報については審査されることになるので、本改正でもその点が維持されれば有効な手段になると思われる。特に、データなどの解析は今後に委ねるとして、筆者の感覚ではあるが、審査官はIDSとして提出された先行文献に基づいてOffice Action(拒絶通知)をすることも多く、これらの文献などにより権利化を断念せざる状況に追い込まれたことも少なくはない。このため、提供された情報が審査対象となれば、出願を拒絶する有効な手段として機能することが期待できる。

 一方、日本でも良く言われていることではあるが、有力な先行技術文献を提供する場合には慎重に判断すべきである。せっかく、情報提供したとしても、その文献を考慮した上で特許となった場合には、その後、異議申し立てなどにより無効にするための情報が無くなり、その特許権を強めることになってしまうからである。
 また、本改正においても言及が無い以上、おそらく情報提供者に審理のフィードバックについては採用されることはないと思われる。したがって、情報提供者自らが情報提供対象の出願の審査状況を特許公報やUSPTOが提供するPatent Application Information Retrieval (PAIR) systemなどにおいてモニターしなければならい点も留意する必要がある。

 このように、費用、及び、異議申立制度などの特許を無効にするための戦略とそれらの留意事項を総合的に勘案し、今後は情報提供制度を利用していくことも必要であると思われる。その一方で、異議申立制度だけでなく、情報提供制度により第三者が特許の有効性に関われるような制度が充実していくことにより、米国における特許の信頼性は今後向上していくだろう。
 なお、補足ではあるが、情報提供期間後においては、米国の情報開示義務を利用して技術文献などの先行技術情報を出願人に提出させる対策を紹介する代理人も存在する。すなわち、情報提供対象の出願人またはその代理人に、先行技術文献などの情報を送りつける。当該文献を受け取った出願人または代理人は、それらの文献の存在を認識してしまった以上、それらの文献を情報開示義務としてUSPTOに提出する、というものである。このような対策は理論上可能であり、活用例もあると聞く。したがって、情報提供期間後においては、異議申立制度だけではなく、このような手法についても検討してみることも必要であるだろう。
 最後に、情報提供制度における改正は、2012年9月16に発効となり、以降、USPTOに継続している出願に適用されることになる。


おわりに

 以上、今回の米国特許法改正の中で、日本企業への影響が大きいであろうと予想する異議申立制度またそれに関連して情報提供制度について、その概要と留意事項を紹介した。実際の運用が開始されるまではまだ時間があるものの、その準備として有用な情報を提供できたとすれば幸いである。

以上



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