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江藤 学氏 東アジアなど世界的な
知財戦略のカギを握る国際標準

経済産業省・工業標準調査室長 江藤 学氏に聞く(下)


[2005/12/26]

 近年,知的財産権を活用した国際競争力の強化手段として,技術の標準化活動が注目を集めるようになってきた。従来の標準化活動は既存の主流技術(デファクト標準:事実上の業界標準)の追認する形態が主だったが,ここへ来て将来技術の標準化活動が盛んになってきた。この結果,自社が開発もしくは推進している技術を標準規格に昇格させることによってビジネスを有利に展開しようとする企業活動が急増し,さらに国際競争力強化の観点から国などによるマクロ・レベルの政策目標になっている。日本においては,経済産業省内に設置された審議会,日本工業標準調査会(JISC)が知的財産と標準化の誤論に関する国際交渉において「窓口」となっている。JISCの事務局であり,標準化活動における知的財産政策を立案している産業技術環境局基準認証ユニット・工業標準調査室室長の江藤 学氏に,技術標準化をめぐる国際動向と今後の課題を聞いた。全3回連載の最終回である。
(まとめは河井貴之=日経BP知財Awareness編集)

国際標準化の獲得が世界各国の産業政策上の課題に
 本連載の冒頭で指摘したように,標準化活動は,各国・各地域が自らの技術をグローバル市場で浸透させるために戦略的に公的な国際標準(デジュール標準)の獲得を狙う政策は,世界的な潮流になっている。それに伴い,国際標準化の主流は「事後標準」から「事前標準」へと転換した。
 国際標準化制度は歴史的に欧州が主導しており,近年は欧州統合が進む中でEU(欧州連合)域内の規格の統合を図り,これを国際標準化する動きが顕著になってきた。欧州の主要な企業は,国際標準化を事業戦略の目標として明確に意識し,担当部署や人員を配置している。加えて,国際標準化機構(ISO),国際電気標準会議(IEC)などは「1国1票」で採択するため,欧州に優位な制度といえる。これに対し,米国は1990年代後半以降,国際標準化活動へ積極的に参画しており,例えば規格ごとに設けられた「幹事国」の引受数は,1989年の89件から2002年の165件へと増えている。

東アジアにおける知的財産戦略で国際標準が焦点に
 今後,日本にとっては対東アジア戦略において,標準化がカギとなるだろう。特に中国は,現時点で国際標準においてライセンシーとなる場合が多いため,独自規格を設定して対抗する政策を進めている。例えば, DVD分野において中国は多くのライセンス料を日本,米国,欧州の企業群(6C,前回記事参照)に支払っているため,中国独自の知的財産権を含む規格,EVD(enhanced versatile disk)を設定したことや,2004年には無線LAN分野において,独自規格のWAPI(wireless authentication and privacy infrastructure)を強制的に採用しようとしたことは大きな注目を集めた。
 最近は,欧州との共同研究開発に注力したり,2006年に予定されている貿易の技術的障壁に関する協定(TBT協定)の見直しに際してライセンス料の軽減を求めるなど,巻き返しを図っている。

JISCを中心に日本としての戦略的対応を推進
 日本政府としては,標準化活動をグローバル経済の動向を見すえた産業政策の重要目標として認識し,企業などの活動を後押しする一方,国際標準化活動を積極的に推進しなくてはならない。具体的には,日本工業規格(JIS)など日本国内の技術標準と国際標準の関係を強化するなどして,日本が主導する国際標準の獲得を目指す。その上で,例えば「基礎的技術分野でデジュール標準を獲得し,上位技術をフォーラム規格化する」といった,デジュール標準とフォーラム規格の戦略的な分化などを考える必要がある。こうした分化によって,各企業は「共通かつ競争的な環境」を創造できる。
 経済産業省は,省内に設置した日本工業標準調査会(JISC)を中心に,施策を推進している。有識者による「特許権等を含む標準制定に関する検討委員会」(座長:キヤノン顧問・丸島儀一氏,関連記事)を設け,JIS策定の際に知的財産権をいかに取り扱うかといったルールの改訂や,国際機関に対して日本としての発信するべき意見の集約・整理などを実施している。JISCとしては,JISの獲得と同様に国際標準の獲得を推奨しており,例えば,既存の国際標準を日本の規格とする,いわゆる「翻訳JIS」制度の活用などを各産業団体や企業へ働きかけている。こうした活動では,財団法人・日本規格協会(JSA)などの標準化機関との連携が欠かせない。

短期的課題は「パテント・プールを安定・充実させること」
 短期的には,パテント・プールを安定・充実させることが大きな課題である。パテント・プールを利用しやすくし,知的財産権の権利を安定させることによって,標準化活動への参加者の負担やリスクを軽減する。そのためには,(a)パテント・プール形成に関するガイドラインやフォーム,パテント・ポリシーの整備支援,(b)標準化活動における知的財産権の取り扱いに関するルールの明確化・共通化(裁定実施権,独占禁止法との関係など),(c)ホールド・アップ問題など事業停止リスクを低減する仕組みの策定,(d)特許調査に関する企業負担の軽減(包括宣言の容認),(e)内包する特許の必須性を客観的に判断・評価する第三者機関の整備,などが必要である。(b)に関連して,公正取引委員会は「規格の標準化に伴うパテント・プールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」(公正取引委員会Webサイト,6月29日を参照)を2005年6月に公表した(関連記事)。また,(d)については,JISなど公的な日本国内の標準に関してWebサイトなどを活用する「公開制度」の導入を検討中である。加えて,訴訟,倒産,企業買収・合併などの場面におけるパテント・プールの保全対策も検討するべきである。
 以上の課題の達成とともに,長期的には,(ア)標準化機関が必須特許の判断などで責任を持つ体制の可能性,(イ)標準化作業とパテント・プール整備を一体化して行うことのメリットとデメリット,(ウ)世界知的所有権機関(WIPO)や各国の特許庁など公的機関が特許調査に協力できる可能性,などを検討し,標準の普及に資する知的財産取り扱い制度を実現していくべきだろう。



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