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大量の特許出願が技術流出の温床に, 営業秘密を保護できる制度の充実が必要 日高東亜国際特許事務所所長 弁理士 日高賢治氏が提言(下) [2006/02/27]
日本企業による国内での大量特許出願は,技術流出の重大な原因の1つになっていると考えた方が良い。知的財産権は,属地主義の原則から権利は出願された国でのみ有効であり,各国で権利化しない限り,何の保護も受けられない。「他人に権利を取られるよりはましだ」という考えから「とりあえず出願する」といった,いわゆる「防衛出願」が多いことは,先願主義の弊害である。 戦略なき大量の特許出願がアジア各国に先端技術の教科書を提供 日本人による国内での特許出願は約40万件/年にも達する。国内総生産(GDP)と自国への特許出願件数の関係を見てみると,米国はGDPが10兆米ドルで出願件数が約20万件/年であるのに対し,日本のGDPは4兆ドル程度しかないのに約40万件/年である。GDPが米国の半分にも満たないのに特許出願件数は2倍もある(図1)。 日本に出願された約40万件の特許出願のうち,その後,外国でも権利化されるのは約3万件程度と推定される。特許権が付与されない発明は,単に公開されて世界各国に知れ渡ることになる。近年はインターネットの発展により,世界のどこにいても日本国特許庁の電子図書館(IPDL)を通じて特許情報を自由に検索できる。 つまり特許出願という行為は,全世界に対して,先端技術を教授する教科書のような存在になっているのである。これでは日本の国策として「知財を保護する」というより,日本全体で技術を流出させているようなものだ。米国には,国内だけの出願には早期公開制度は適用されない。これも特許情報を教科書化させないための政策だろう。特に製品ライフサイクルの短い製品向けの技術や生産技術に関する出願は,韓国・台湾・中国メーカーにとって有益な情報源となっている。日本企業による戦略なき大量の特許出願は,東アジア企業の技術力向上を加速させる結果になっていると見るべきである。 企業戦略として秘密に管理したい発明に「先発明自己実施権」を与えよ 現行の特許法では,発明した時点で発明者に与えられる権利は「特許を受ける権利」だけしかなく,特許権は排他的独占権である。また第三者の特許出願前に同様の発明を秘密に実施している発明については「先使用権」が与えられ,また不正競争防止法上の営業秘密として保護されている。 ところが,「発明は完成したが,排他的独占権(=特許権)は必要なく,しかも当面の間は実施する予定もない」ような発明についてはどうすれば良いか。この場合,現行法では何ら保護する仕組みがなく,仮にこの発明を実施するまでの間に,第三者が同じ発明を特許出願したとすれば,先の発明者には何ら法的対抗手段はなく,自己実施する権利すら奪われてしまうのである。 従って,「排他的独占権は要らない」,「秘密にしておきたい」と思っている発明であっても当面実施する予定がない(あるいは実施までに相当の期間を要する)場合,第三者に対応するには特許を出願する選択肢しかないのである。この結果,大量の「防衛出願」も含め,IPDLの情報は各国に対する有益な情報源となってしまっている。こうした弊害を補完する仕組みの構築が急務であり,その制度として考えられるのが「先発明自己実施権」である。 本来,産業の発展に必要なことは,発明を促し,製品につなげる(すなわち実施する)ことであり,特許権の取得競争を促すことではない。先発明自己実施権は,発明内容の完成を証明できた発明に与えられる自己実施権であり,自ら同様の発明をした第三者の実施や後の特許権を何ら妨げるものではない。逆に,後の発明者が特許取得を欲して出願すれば,ラッキーにも自分が特許権者となることができるのである。米国特許法には,先使用権すら保護されていないが,その代わりに先発明主義の下に1年間の猶予期間が与えられている(関連記事1)。ただし米国の場合,あくまで「特許権」の取得に関する猶予であり,本質的に「先発明自己実施権」とは全く異質な概念であるが,こういった戦略的な保護規定が日本にはない。特許庁の審議会では,特許法の枠組みの中で秘密に管理している発明の保護のあり方について議論したようであるが,結局,現行法の枠組みである「先使用権の立証の緩和」に留まった(関連記事2)。 特許法に規定する「排他的独占権」でないと発明者の利益を守れないという分野は,製薬業界や一部の化学品などに限られるだろう。多くの分野では,互いの技術を使用しなければ製品を作れないはずであり,近代特許法の原型が出来上がった200年前ならいざ知らず,現代において,多くの産業分野で排他的独占権だけで保護すべき必要性は乏しい。日本が真の「知的財産立国」になるためには,発明に対するその法的保護の選択肢を広げ,安心して事業を行える環境整備が必要と思えてならない(図2)。 (前回の記事)
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