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特集:企業経営と知的財産(2)
デジタル放送の「ARIB標準規格」の必須特許を弁理士らが判定
三好内外国特許事務所 所長代理 弁理士 伊藤市太郎氏に聞く(下)
[2007/03/15]

 「エレクトロニクス分野などの技術革新(イノベーション)や研究開発活動が漸進化に伴い,従来とは異なる文脈で技術標準化が重要な意味を持ち始めている」。三好内外国特許事務所・所長代理の弁理士,伊藤市太郎氏は企業における技術標準化戦略の必要性をこのように指摘する。企業の第一線で技術標準化戦略に従事した経験を有し,現在は弁理士の立場からこの課題を取り組む同氏に,技術標準化活動の重要性を知的財産経営の観点から聞く。
(聞き手は河井貴之=日経BP知財Awareness編集)


標準化活動と知的財産活動の連携を図る上での,具体的な実務課題は何か。


伊藤市太郎氏 従来,例えば通信分野の企業では,「研究開発部門や技術部門が標準化活動を主導し,知的財産部門は側面から支援する」といった構図が一般的だった。この際,知財部門は,(1)パテント・プールごとに異なるルールやライセンス料率の事前確認と交渉,(2)パテント・プールからもたらされる収益の確認と検証,(3)パテント・プールに対する自社技術ないしは特許権の供出についての可否判断,が主な活動だった。
 最近は,企業の総体的なライセンス戦略や知的財産権に関するポートフォリオ・マネジメントなどの活発化の影響があり,標準化活動においても知財部門が高い次元でかつ能動的な機能を果たす機会が増えつつある。ただし,同業団体間での交渉など一定の領域では研究開発部門や技術部門に依拠する要素が多く,こうした場面では,複数の部署間の連携が従来以上に重視されている(関連記事)。
 企業の実務現場では,おそらく既存部門の要員が標準化活動に関する業務を兼務している場合が多いと思われる。できれば,標準化活動と知財活動の連携が不可欠な領域を専任で担当する「標準化部門」や「標準化人材」の配置が理想的だ(関連記事)。

標準化活動の推進においてCIPOが果たすべき業務機能は具体的にどのようなものか。


 複数の部署間での連携を通じて対応する場合でも,それらの活動を統括して適切な経営判断を下す意思決定者ないしは実務責任者が欠かせない。その点では,標準化活動とはまさにCIPO (知的財産最高責任者)などが掌握すべき事業課題だと言えよう。
 本連載の《上》において,中小・ベンチャー企業が標準化活動に取り組むべきメリットを指摘した。これらの企業は経営としての意思決定と,研究開発戦略や知財戦略の“距離”が短く,その点では大企業よりも柔軟性や機動性の面で有利な場合がある。規模がメリットになり,中小・ベンチャー企業の方が標準化活動を効率的に推進できる可能性がある。

CIPO独自の視点としては,標準化活動をどのように認識するべきか。


 CIPOが経営課題として標準化活動を見る場合には,企業経営全般に影響を及ぼしている“グローバル化”の議論と関連付けた検討が肝要である。統括者としては純然な研究開発戦略やイノベーション(技術革新)のマネジメントの側面のみならず,国際間関係のバランス面,グローバルな市場環境における“市場支配力”の観点から標準化活動の意義を理解する姿勢が必要である。
 国際標準化機関が定めた標準を例として挙げると,“国際”の文言が付きつつもその多くが欧州諸国や米国が主導的な立場で設定してきた技術標準である。敢えて言えば,そもそもの標準化を策定する制度や仕組みからそうした過程で使う言語に至る広い範囲で,日本は“追う立場”である。
 市場性の観点では,多くの日本企業にとってEU(欧州連合)域内や米国が主な市場であり,その戦略的な重要性や市場規模は日本国内の市場を凌駕している。これに加え,最近は標準化に対する中国や韓国などアジア諸国の関心が急速に高まっており,今後の競争の激化は容易に想像できる。

企業が知的財産経営の主要な課題として標準化活動に注目する一方,弁理士など知財専門家はどのような役割を果たすべきか。


 第一に,当然ながら企業のニーズに応えるべく,標準化活動に関する専門的な知見を弁理士も備えなくてはならない。特に標準化を念頭に置いた知財の「創造」局面での対応がポイントになる。
 必ずしも標準化活動に限定することではないが,各企業は知的財産経営を標榜し実践する上で,新しい取り組みだけでなく,特許出願など既存業務を見直し,高度化・戦略化を図るべき時期を迎えている。こうした企業の置かれた状況や活動に対し,包括的なコンサルティング的支援や,既存の知財権の再評価なども含め知財価値の増大を目指す特許戦略の立案支援が要請されている。こうした企業と弁理士事務所の協働の切り口の1つとして,技術標準化を認識することも可能だ。
 加えて,弁理士に対してはより広範な社会的役割が求められる機会が増えていくと予測する。具体的には,パテント・プールの構築時に個々の技術を対象に「含むことが妥当か(必須特許か)否か」」を技術的見地から第三者として公正に鑑定する役割などがある。
 こうした必須特許の判定はすでに実務の場で始まっている。日本弁理士会と日本弁護士連合会が共同設立したADR(裁判外の紛争解決手段)機関,「日本知的財産仲裁センター」は,テレビジョンのデジタル放送規格(ARIB標準規格)に関連し,同規格のパテント・プールに含むべき必須特許を2006年から判定している。
 シャープ,ソニー,日本ビクター,松下電器産業,三菱電機が合同で設立したパテント・プールのライセンス管理会社,アルダージからの要請に基づく活動で,具体的には,(a)10社の保有特許を必須と認定し,(b)その認定に基づきアルダージは必須特許権者を招集し,(c)複数の特許権者が所有する特許を「公平かつ合理的な条件(RAND条件)」で一括許諾する新たなパテント・プールのライセンス契約を検討してきた。アルダージは2007年2月時点で引き続き日本知的財産仲裁センターが定めた手続きに則って必須特許を募集しており,必須と判定された特許権は順次パテント・プールに追加するという(参考ページ,編注:3月15日時点で11社が参加)。
 周知の通りパテント・プールには実務上で微妙な課題点がいくつかあり(関連記事),技術標準化の策定過程,さらにいえばその成立後も,係争に結び付きかねない複雑な権利関係が存在する。ゆえに当初のルール策定や手順の遵守が重要であり,それを担保しうる公共性の高い第三者機関としての日本知的財産仲裁センターの活動は大きな意味を持つ。こうしたパテント・プールの周辺環境の整備と公正性の確保が標準化活動を促進し,そして弁理士がその一翼を担うことを期待している。


伊藤市太郎先生プロフィール
弁理士。上智大学理工学部電気電子工学科卒。1993-2000年 KDD:データ通信システムの開発及び運用,システムエンジニア,KDDアメリカNY(トレーニー1年)。
2001年,三好内外国特許事務所に入所。所長代理。主な著作に「知的財産権用語辞典」(共著,日刊工業新聞社,2002年)など。日本弁理士会において,日本弁理士会中央知的財産研究所・研究員(2004年〜),知財流通流動化検討委員会委員(2005年〜),技術標準委員会副委員長(2005年)などを務める。

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