「知的財産高等裁判所の判決は,リサイクルの精神の重要性を指摘した上で,しかし,それが特許権の侵害や侵害行為に対抗するための特許権者の正当な権利行使を制約してはならない,ということを明確化した」。インクジェット・プリンタ用のインク・カートリッジの特許権侵害を巡ってキヤノンとリサイクル・アシスト(東京都豊島区)が争った裁判の控訴審で,原告であるキヤノン側の代理人を務めた西村ときわ法律事務所の弁護士・ニューヨーク州弁護士の岩倉正和氏は,控訴審判決の意義をこのように総括する。
今回の訴訟を担当した知的財産高等裁判所(知財高裁)は,裁判官5名による大合議判決として原告側の主張を全面的に認め,侵害品の輸入を差し止める判決を2006年1月31日に下した。岩倉氏は,「今回の判決は原告側の代理人という立場を離れて見ても極めて妥当性な判決であり,一般社会への説明責任を果たしつつ,知財専門の裁判所として法解釈に深く踏み込んだ知財高裁の姿勢は高く評価できる」と指摘する。
この控訴審では,何が争点となり,知財高裁はどのような判断を下したのか。さらに,この裁判の社会的な影響について,岩倉氏に法曹者としての立場からの分析を聞き,検証していく。3回連載の第1回は,特許権とリサイクルの関係に関する知財高裁の判断ついて,である。
(聞き手は河井貴之=日経BP知財Awareness編集)
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今回,知的財産高等裁判所が下した判決内容について,どのように見るか。 |
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岩 倉 氏 |
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客観的に見て,極めて妥当な判決内容だと思う。これは,1法曹者としての率直な感想である。
大合議による判決であることに加え,知財高裁として相当力を入れて,(1)一般に「リサイクル品」とされる物品の特許権侵害の範囲について経済的な価値などを加味しつつ大局的に判断したこと,(2)知的財産法の観点からは消尽理論(関連記事)を真正面から取り扱ったこと,である。
知財高裁が訴訟の本論だけではなく,リサイクル行為の考え方とその重要性,原告のビジネス・モデルが適正であることにまで言及したことは,非常に大きい。この訴訟は,被告の製品による特許侵害の有無を争う裁判であったにも関わらず,1審から本質的な争点ではない部分で「リサイクル」や「ビジネス・モデル」といった要素が入り混じってきた。これらは本来,特許侵害の有無の判断とは異なる文脈において考えるべきであり,さらに事実とは異なる誤解などが生じた結果,社会的に大きな注目を集めることになった。知財高裁の判決には,世論に対する説明責任を果たすために,慎重な解釈と丁寧な説明を目指した姿勢が読み取れる。 |
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西村ときわ法律事務所 岩倉正和氏
弁護士・ニューヨーク州弁護士。1987年西村ときわ法律事務所入所,M&A(企業買収・合併)取引,企業の再編・再組織化,破綻処理・事業再生,企業危機管理,会社訴訟,知的財産権法・エンターテインメント法,企業税務,国際訴訟,国際取引等の企業法務に従事する。現在は,エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク理事や事業再生実務家協会理事まで幅広い業務を手掛ける。主な著書に『知的財産法概説』(共編著,弘文堂)などがある。2006年4月一橋大学大学院国際企業戦略研究科(専任)教授 (会社法・M&A法)に就任。
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