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検証:インク・カートリッジ事件,知財高裁判決
「リサイクル」と「特許権侵害」の境界を明確にした知財高裁判決
西村ときわ法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士 岩倉正和氏インタビュー(1)
[2006/04/03]

 「知的財産高等裁判所の判決は,リサイクルの精神の重要性を指摘した上で,しかし,それが特許権の侵害や侵害行為に対抗するための特許権者の正当な権利行使を制約してはならない,ということを明確化した」。インクジェット・プリンタ用のインク・カートリッジの特許権侵害を巡ってキヤノンとリサイクル・アシスト(東京都豊島区)が争った裁判の控訴審で,原告であるキヤノン側の代理人を務めた西村ときわ法律事務所の弁護士・ニューヨーク州弁護士の岩倉正和氏は,控訴審判決の意義をこのように総括する。
 今回の訴訟を担当した知的財産高等裁判所(知財高裁)は,裁判官5名による大合議判決として原告側の主張を全面的に認め,侵害品の輸入を差し止める判決を2006年1月31日に下した。岩倉氏は,「今回の判決は原告側の代理人という立場を離れて見ても極めて妥当性な判決であり,一般社会への説明責任を果たしつつ,知財専門の裁判所として法解釈に深く踏み込んだ知財高裁の姿勢は高く評価できる」と指摘する。
 この控訴審では,何が争点となり,知財高裁はどのような判断を下したのか。さらに,この裁判の社会的な影響について,岩倉氏に法曹者としての立場からの分析を聞き,検証していく。3回連載の第1回は,特許権とリサイクルの関係に関する知財高裁の判断ついて,である。
(聞き手は河井貴之=日経BP知財Awareness編集)

今回,知的財産高等裁判所が下した判決内容について,どのように見るか。


 客観的に見て,極めて妥当な判決内容だと思う。これは,1法曹者としての率直な感想である。
 大合議による判決であることに加え,知財高裁として相当力を入れて,(1)一般に「リサイクル品」とされる物品の特許権侵害の範囲について経済的な価値などを加味しつつ大局的に判断したこと,(2)知的財産法の観点からは消尽理論(関連記事)を真正面から取り扱ったこと,である。
 知財高裁が訴訟の本論だけではなく,リサイクル行為の考え方とその重要性,原告のビジネス・モデルが適正であることにまで言及したことは,非常に大きい。この訴訟は,被告の製品による特許侵害の有無を争う裁判であったにも関わらず,1審から本質的な争点ではない部分で「リサイクル」や「ビジネス・モデル」といった要素が入り混じってきた。これらは本来,特許侵害の有無の判断とは異なる文脈において考えるべきであり,さらに事実とは異なる誤解などが生じた結果,社会的に大きな注目を集めることになった。知財高裁の判決には,世論に対する説明責任を果たすために,慎重な解釈と丁寧な説明を目指した姿勢が読み取れる。
岩倉正和氏
西村ときわ法律事務所
岩倉正和氏
弁護士・ニューヨーク州弁護士。1987年西村ときわ法律事務所入所,M&A(企業買収・合併)取引,企業の再編・再組織化,破綻処理・事業再生,企業危機管理,会社訴訟,知的財産権法・エンターテインメント法,企業税務,国際訴訟,国際取引等の企業法務に従事する。現在は,エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク理事や事業再生実務家協会理事まで幅広い業務を手掛ける。主な著書に『知的財産法概説』(共編著,弘文堂)などがある。2006年4月一橋大学大学院国際企業戦略研究科(専任)教授 (会社法・M&A法)に就任。

まず,「リサイクル」という言葉の一般的なイメージが,訴訟に与えてきた影響については,どのように考えるか。


 知財高裁の判決は,大前提として「リサイクル」の精神の重要性を指摘しつつ,しかし,「それが特許権の侵害や侵害行為に対する特許権者の正当な権利行使を制約するものであってはならない」,ことを明確に指摘した。つまり,特許権に対する侵害行為や権利行使や侵害行為の判断が,「リサイクルの保護」という別の次元の要素と結び付けられるべきではない,という妥当な判断が示された。知財高裁は,「リサイクルが大切だから,権利侵害品の存在を認めよ」という論理の飛躍を完全に否定して,逆に本件の判決が,適正で問題のないリサイクル活動やその製品を制約したり影響を及ぼしたりしてはならない,ということにまで配慮している。
 今回の裁判で原告側は,「リサイクル」を「資源を使い,製品を作り,それを利用し終わった後に,また資源化する」といった循環(サイクル)の繰り返しだと定義した上で,再資源化こそが実効性のあるリサイクル行為であり,原告が使い終わったインク・カートリッジを回収し,セメントの材料にするなどして,その全ての再資源化を図っていることを明示した。
 これに対して,被告側は,被告製品(以下,侵害品)について,「『再利用』しているから,『リサイクル』であり,リサイクルは許されるべきだ」と主張した。しかし,侵害品は,純正品との比較では印刷品質に再現性がないばかりか,うまく印刷できなかったり,インクの目詰まりを起こしてプリンタ本体の故障につながったりする危険性がある。そのため,原告側は,侵害品について再利用とはいえない,と主張してきた。

「ビジネス・モデル」に関する論議は,この裁判においてどのような意味があったのか。


 今回の一連の訴訟は,あくまで,被告の侵害品による特許権侵害の有無が,その争点である。しかし,被告側は,原告のビジネス・モデルの適否を,独占禁止法との関係から主張してきた。これは,訴訟の本論とは全く関係がなく内容的にも誤解を招きかねない,判決自体に加味される余地の無い要素だが,誤解を正すためにも原告側は,敢えてビジネスの仕組みを説明した。
 詳細は割愛するが,端的には,研究開発投資だけではなく,多額にわたるリサイクルに関するコストも負担している原告の状況と,その価格設定の適正さを証明した。
 裁判の本論ではないにも関わらず,知財高裁が判決文の中で「原告のビジネス・モデルが法に反するという証拠は無い」と言及したことは,この問題に関して社会的な影響への配慮を含んでいると思う。訴訟の本論だけでなく,こうした経済社会の実情にきちんと目を向け,それを綿密に判決に反映させた知財高裁を評価する。

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 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 ハーバード大学ロー・スクール客員教授 相澤英孝氏



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