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特集:企業経営と知的財産(1)
「ポスト知的財産立国」時代の「知的財産・経営・法務」の方向性
西村ときわ法律事務所 パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士 岩倉正和氏(下)
[2007/03/05]

 「グローバル化が進む経済活動において,“知的財産”はもはや競争優位性を確保する特別な手段ではない。知的財産自体が企業や国家経済の競争要因(forces)の1つであり,知的財産経営は企業の必然的な姿勢だ」。企業経営において“知的財産”が果たす意味を,西村ときわ法律事務所の弁護士・岩倉正和氏はこのように示す。
 先進工業国の産業競争力の核が「生産」から「高付加価値」へと移る中,経済社会も大きく変容し,「知識経済」,「知識社会」がグローバル規模に表出しつつある。こうしたコンテクストの中で“知的財産”自体の意味や価値が大きく変化し,企業活動における重要性が必然的に増している。パラダイム・シフト(時代規範の変移)に直面する企業が「いかに“知的財産”を認識しマネジメントするべきか」,その方向性を岩倉氏に聞いた。
(聞き手は河井貴之=日経BP知財Awareness編集)


知的財産経営の実践において企業が進むべき方向性をどう見るか。


岩倉正和氏 基本的な姿勢としては,経営の中で「知的財産」は特別な事業課題ではなく,ごく当たり前に,事業遂行上,必然的に生じる要素であることを認識しつつ取り組むことが大切だ。つまり,従来からの事業や業務の中に「知的財産」の考え方が浸透し,それぞれの場面で多様な意味の知的財産がイシューになりうる状況を想定しなくてはならない,ことを意味する。
 例えば,(a)税務や財務会計の領域での知的財産のあり方の変化,(b)近時の会社法の改正と日本版SOX法の導入などに伴うコンプライアンス(法令遵守)やガバナンス(企業内統治)の領域における知的財産,(c)独占禁止法と知的財産の交差(関連記事),などが新たな論点として存在する。重要な点は,これらは企業内部から生じるだけでなく,事業の外部環境においてもキー・イシューになったり従来の事業に課題と複合化したりする場面が増えていることだ。最近注目されている「移転価格税制」における無形資産の取り扱いなどはその1例といえよう(関連記事)。この移転価格税制問題からは,国税当局が企業活動における知的財産の“財産価値”の大きさを認識した上で,新たな課税対象として注目しているスタンスが伺える。加えて,私の実務上の経験から述べると,M&A(企業の買収・合併)取引では知的財産が判断材料として重視される場合が増えつつある。
 企業はこうした新しい変化に問題意識を持ちつつ,従来から必要性を謳ってきた研究開発活動・事業活動・知的財産活動の「三位一体」経営の内容を吟味するべき時を迎えている。成果の検証,目標の設定,社内体制の整備などを体系的かつ恒常的に実施することが経営戦略を構築する際の本質に存在する。あるいは,大局的な視野とそれに基づく戦略の有無自体が企業の競争優位性,企業価値の要素そのものといえる。

「知的財産」の意味が多様化する中,特許などの知的財産権は産業上,あるいは社会的に今後どのような位置を占めることになると思うか。


 無体的な企業価値,知的財産の中で「具現化しているもの」,「手がかりになるもの」といえる知的財産権の重要性はこれまで以上に増す,と思われる(関連記事)。
 例えば前述の移転価格税制のように,新たな課税制度の設計においては“課税対象”として重視され,また知的財産融資や知的財産信託などのいわゆる「知財金融」や技術売買などの流通・流動化では“媒介手段”としての役割が注目されるだろう。敢えて述べれば,こうした状況の広がりにおいて,知的財産の経済価値の評価に関する議論が活発化する可能性がある。評価手法の確立や取引事例の蓄積,流通市場の形成などは従来からの課題であるが,今後は新たなニーズなどを加味して議論の深耕が望ましい。(関連記事)。

知的財産を始めとして企業のビジネス環境が大きく変化する中,弁護士が果たすべき役割をどのように考えるか。


 知的財産活動に限らずビジネスの主役は企業であり,「弁護士は法務の専門家として経営を支援する」という構図は今後も同様であり,かつ不変だと思う。ただし,支援の形については,係争などが起きた後の局地的な対応から,事業全体を俯瞰しつつ法務リスクを包括的に未然に排除する戦略的な対応へと確実に変遷している。そうした新たな状況下で,弁護士への期待は,経営の中枢での意思決定や対外的な契約締結前の段階などから積極的に経営に参画したり助言したりすることにある,と考えられる。
 企業サイドから見ると,弁護士は「法務分野のアウトソーシング先」ではなく「事業の重要なパートナー」としての役割が増えるだろう。その意味では,弁護士が提供するリーガル(法務)・サービスの総合性・戦略性の高さが1つの指標になる。弁護士個人の資質はもちろん,ロー・ファーム(弁護士事務所)の規模や質がこれまで以上に問われる時代を迎えつつあるかもしれない。
 我々の場合は,「多様な分野の弁護士が所属している」という“ワンストップ・サービス”の提供のみならず,ある事業課題に対して複数の専門分野を持つ弁護士が対応したり,あるいは,分野ごとの弁護士がグループを組んで対応したりして,相乗効果の獲得や効率性の向上を重視している。
 より大きな視点から弁護士の存在意義を考えると,社会において,企業実務と法律を結び付ける“仲介者”としての役割が重要だと思う。実務の妥当性を法律に照らし合わせて判断する。それと同様に,アカデミックな法律の世界に対しても実務上の課題を指摘し議論を喚起する役割があると感じる。特に知的財産に関する領域ではこうした役割を求められる機会が多い。あるべき姿の弁護士像としては,「学問的な専門家と実務家の両方との意見交換や交流を通じ,両者の視点を持つこと」が理想型の1つである。

企業実務と法律の間に横たわる課題の中,知的財産分野ではどのような問題に注目しているのか。


 解決には,既存の法概念や制度を抜本的に検討するべき深刻なテーマの問題が多い。例えば,「デジタル・コンテンツ」に関する著作権などの処理の問題は,以前のインタビューでも指摘した通り,従来的な著作権の概念だけでの定義が不可能な要素を含んでいる(関連記事)。権利保護の主張だけでなく,公正な利用を促進できる仕組み,つまり権利の“バランス感”が重要だ。従来の制度の枠組みに拘泥されることなく,例えば米国における「フェア・ユース」のような新しい考え方についても検討の余地がある。
 同様に,ライセンス契約上のライセンシーの権利保護の問題なども,既存の経済活動の概念や法解釈に囚われない,企業実務の現状に則した対応が望まれる(関連記事)。
 大切なことは,いずれの問題も“日本”に終止せず,グローバルな意識を持って取り組む姿勢だと思う。地域,権利の概念,ステークホルダー,専門性などの多様化を視野に入れた施策が「知的財産立国」の次の局面には必要である。この意味では,企業が知的財産活動でCIPO(知的財産最高責任者)を要する状況と同じ構図だといえよう。


岩倉正和氏プロフィール
弁護士・ニューヨーク州弁護士。
1987年西村ときわ法律事務所入所,M&A(企業買収・合併)取引,企業の再編・再組織化,破綻処理・事業再生,企業危機管理,会社訴訟,知的財産権法・エンターテインメント法,企業税務,国際訴訟,国際取引等の企業法務に従事する。現在は,エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク理事や事業再生実務家協会理事まで幅広い業務を手掛ける。
主な著書に『知的財産法概説』(共編著,弘文堂)などがある。
2006年4月一橋大学大学院国際企業戦略研究科(専任)教授 (会社法・M&A法)に就任。



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