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減らない中国の意匠模倣品
知財関連法の不備を巧妙に突く

[2007/12/21]

服部正明
日本貿易振興機構(JETRO)
在外企業支援・知的財産部
アドバイザ
 服部正明氏
 一部の中国企業が現行の中国知財関連法に抵触しないよう,巧妙に意匠模倣品を製造・販売している。現行の中国知財関連法には部分意匠制度がないなど不備な点が存在することが主な理由である。このため,日本企業は日本における場合以上に迅速に意匠を出願・登録し,その上で模倣品製造企業に対して民事訴訟などの手段を講じる必要がある。中国の意匠模倣品の現状と巧妙化する原因とその対策について日本貿易振興機構(JETRO)在外企業支援・知的財産部のアドバイザの服部正明氏に聞いた。
(聞き手は品田 茂=日経BP知財Awareness編集)


巧妙化する中国企業による意匠模倣品
 一部の中国企業による意匠模倣品の製造・販売が巧妙化している。この原因は中国知財関連法の不備に依るところが大きい。(1)意匠が同一または類似で商標が異なる場合,(2)数社の意匠を組み合わせて1つの製品にする場合,はいずれも現行の中国知財関連法に抵触しない場合があるので,意匠模倣品の取り締まりが不十分になってしまう(参考記事)。
 (1)に関しては,意匠登録をしていれば,日本でも中国でも製品の意匠が同一または類似であれば意匠権侵害となる。また意匠登録をしていない場合でも,日本では不正競争防止法によって法的措置を取ることができる。しかし,中国で意匠登録をしていないと,反不正当競争法(日本の不正競争防止法に相当)には商品形態の模倣が違法行為という規定がないため,法的措置を取ることができない。このため,中国では意匠を模倣して商標のみを替えた模倣品が出回りやすい。さらに巧妙な模倣行為としては,製造元で外観形態が類似した商標のない商品を出荷し,販売店で真正品と同一の商標を付けてユーザーに販売するといった事例がある。この場合,出荷時点では商標権侵害にならないため,商標も模倣した侵害であるにも関わらず,販売店だけしか摘発できない。製造元を摘発できず,模倣品の量産が継続してしまう。
 (2)に関しては,日本の意匠法には,“全体意匠”,“部品意匠”,“部分意匠”等の意匠制度が存在するが,中国知財関連法には部分意匠制度が存在しない。全体意匠とは,自動車であれば完成車全体の意匠のことを指す。部品意匠とは,自動車であればヘッドライトやバンパーなどの部品の意匠を指す。部分意匠とは,例えばヘッドライトやバンパーなど数点の部品を組み合わせて構成した自動車の車体前部の意匠などのことである。現行の中国知財関連法には部分意匠制度がないため,数社の部分意匠を組み合わせて1つの自動車として構成した場合,違法にあたらない。これに対し,部品単位で意匠登録していれば当該模倣部品に対して権利を行使できるが,中国企業が当該模倣部品の意匠を変更してしまうと,違法ではなくなる。こうなると法的手段を講じることは難しくなる。
 このように中国知財関連法は日本など先進国の意匠法と比較して異なる点が存在する。日本企業などからは,中国政府に対して反不正当競争法の改正や部分意匠制度の導入を要望する声が高まっている。

迅速に意匠出願・登録することで中国模倣品被害が軽減
 日本では,製品などの意匠を創作した場合,日本特許庁に意匠を出願・登録する。登録した意匠を第三者が無断で使用することを防ぐことが大きな目的である。中国での意匠出願も日本と同じ目的であるが,中国では意匠出願を特に急ぐ必要がある。その理由は,中国知財関連法の(i)新規性の要件である“公知・公用でないこと”に関して刊行物公知は国内外だが公知,公用は国内のみ,(ii)意匠の無審査主義,という2つの特徴である。
 (i)に関しては,刊行物公知について日本も中国も同じく,登録を希望する意匠が出願以前に文献などに掲載の事実があった場合,文献の国内と国外のいずれでも新規性を認めない。しかし,公知,公用については日本と中国の解釈が異なる。日本では国内と国外のいずれでも開示・販売があれば公知,公用を認めるが,中国では国内で開示・販売していた場合のみを公知,公用とする。したがって,中国では外国のみで開示・販売していた場合には,公用に当たらず,新規性を認めてしまう(表1)。
 (ii)は,意匠登録の方式さえ正しければ意匠そのものの審査(実体審査)をしないで登録する主義である。日本の特許庁は,方式審査後に先願意匠と同一または類似でないか,などの実体審査をする。これに対して中国は,国家知識産権局(日本の特許庁に相当)が,意匠に関してこのような実体審査をする制度になっていない。このため,同一または類似の意匠が登録される恐れがある。
 中国で開示・販売せずに外国のみで開示・販売している場合,中国では新規性があると判断されるので,その製品の意匠を知った第三者が,中国で創作者よりも先に当該意匠を出願してしまう恐れがある。しかも,その出願は簡単に登録されてしまう。このことから,日本企業は創作した意匠を中国で使用する予定があれば迅速に意匠を出願し,登録する必要がある。日本企業などからは,中国政府に対して公知,公用の範囲拡大や意匠の実体審査制度の導入を要望する声が高まっている。

表1:新規性喪失の判断基準
表1:新規性喪失の判断基準


中国での商標権侵害への対抗手段は2つ
 中国での模倣品などの商標権侵害への対抗手段としては(a)行政機関である工商行政管理局などに取り締まりを求める,(b)司法機関である人民法院に訴訟提起する,の2つがある。
 (a)については,日本にはない制度であり,この制度を使って商標法や反不正当競争法を管轄する中国の工商行政管理局に罰金や製造機器の没収,営業許可証の停止といった行政処分を求めることができる。利点は,迅速に対応してもらえることである。しかし,罰金の額は多くなく,損害賠償を命ずる権利もない。営業許可証の停止は,当局の特権であるが,処分を受けた中国企業の中には,経営者を自分の身内などに変更して新たな会社として登録して違反を繰返す事例もある。
 (b)については,日本とほぼ同様の制度であり,この制度を使って差止請求や損害賠償請求,信用回復措置請求,不当利得返還請求など司法による民事処分を求めることができる。(a)と比べて,時間と費用はかかるものの,証拠の差し押えや販売停止の仮処分,損害賠償命令などを強制できる利点がある。
 かつて中国で海外企業が知財関連訴訟を提起した場合,地場産業保護の観点や,裁判官の質の問題から外国企業に対して公平を欠く判決が下されることが多かった。昨今では,裁判官への知財教育などによって裁判官の質が高くなっており,特に北京・上海などの主要都市では公平な判決が下ることが増えている。地方都市では裁判官の質の問題などが残っているものの,天津や南京といった地方都市でも原告(権利者)である外国企業が勝訴する事例を見られるようになってきた(表2)。

中国進出を考える経営者に必要な知財意識
 中国進出を考えている企業の経営者は,中国での商標や意匠の出願・登録を“財産を守るための先行投資”と考えることが重要である。商標や意匠の出願・登録をおこたると,あっという間に意匠模倣品が市場に出回り,ブランドや信用に大きな傷がついてしまい,回復に多額の費用と時間を要する。中国進出が決まったら迅速に出願・登録する。そのために,経営者自身が知財意識を高めて社内を啓発する。こうした意識や取り組みが重要である。多くの中小企業では,社内に知財担当者を設置していない企業を見受けるが,社内で知財担当者を任命,あるいは外部から知財専門人材を雇用することも視野に入れるべきである。中国での円滑な事業運営のための知財権保護・活用の重要性を経営者が認識することが中国進出の第1歩といえるだろう。



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