「知財戦略による事業の成功」で先鞭をつけた,産業界の先駆者である丸島儀一氏に,わが国の知財戦略に対する問題意識について尋ねた。丸島氏は,「突破するのは不可能」とされた米ゼロックスの複写機の特許を徹底的に調査して,闘いを挑み,キヤノンの複写機事業をグローバルな成功に導いた実績をもつ。
丸島氏は,知財の問題を解決するために,裁判より交渉が事業にとってメリットがあると論じた。
(まとめは村中敏彦=日経BP知財Awareness編集委員)
キヤノンとゼロックスは知財で闘った
私が長く勤めたキヤノンは,先行開発した技術のメリットを生かして事業展開することを旨とする,研究開発重視型の企業である。私が入社した1960年代のフィルム・カメラは技術的に飽和していたため,カメラ・メーカー各社はそれぞれの知財を活用して,棲み分けることができていた。
これに対して複写機では,米ゼロックスが競合他社が事業に参入するのを防ぐために,知財を頑丈な障壁として活用していた。ゼロックスは,知財の活用という点で,理想郷として参考にすべき対象であった。
ゼロックスの既存の知財に対抗するために,キヤノンは当時,技術的に伸び盛りだった電子写真技術に着目した。キヤノンは,複写機事業を始めようとした時点から特許を意識していたのだ。キヤノンは知恵を絞り,ゼロックスの特許に抵触しない方法を見つけ,交渉によりゼロックスに認めさせた。ゼロックスの特許の突破に成功した技術者は,「自分の研究開発成果は他社に突破されたくない」という意識で知的財産の形成活動に取り組んだ。
こうした技術者が経営幹部となって,現在のキヤノンを築いてきた。キヤノンは研究開発者が知財を考え,知財部門が研究開発に入り込んで,研究開発と知財を事業に連動させてきた。 |
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丸島儀一氏のプロフィール
弁理士。早稲田大学客員教授。キヤノン顧問。
早稲田大学卒業後,キヤノンカメラ(現キヤノン)入社,弁理士登録,特許部長,特許法務センター所長,専務取締役を経て,2000年から同社顧問。各種団体の知的財産関連の要職や委員を歴任しているほか,2004年1月から知的財産検定・検定委員会検定委員を務めている。
著書「キヤノン特許部隊」(光文社発行)では,キヤノン入社以来,一貫して知財分野に携わり,米ゼロックスに闘いを挑み,複写機をキヤノンの新規事業として成功に導いた経緯を語っている。共著「知財立国への道」(ぎょうせい発行,内閣官房・知的財産戦略推進事務局編)では,「ものづくり」を通じた知財立国について論じている。 |