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米国内のライセンス活動に警鐘を鳴らす
LG Electronics,Inc. 対 Bizcom Electronics判決

モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所 米国弁護士 A. Max Olson氏インタビュー(下)
[2006/08/25]

A. Max Olson氏
 企業経営と知的財産戦略の有機的な連動は日本企業が直面している大きな課題である。そのカギを握る存在としてCIPO(chief intellectual property officer:知財最高責任者)に注目が集まっており,その意義や果たすべき機能と役割の明確化が急務になっている。知財立国のさきがけである米国企業においてCIPOはいかに定義され,またどのような役割を担っているのか。先進企業における知的財産経営の状況に精通し,数多くの侵害訴訟代理人を務めてきた,モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所カリフォルニア州およびニューヨーク州弁護士のA. Max Olson氏に日米の状況を比較してもらい,日本企業におけるCIPOへの提言を聞いた。
(聞き手は河井貴之=日経BP知財Awareness編集)


知的財産と経営の有機的な連動を図る上で戦略的な知財法務あるいは「技術法務」の必要性が日本企業の間で唱えられている。米国企業においてはどのような状況にあるか。




 前回指摘したように,米国企業の多くは特許侵害訴訟やライセンス活動を経営上の大きなリスク要因,コスト要因として認識している。特に米国国内における特許訴訟費用は非常に高く,さらに莫大な賠償金を課される可能性がある。時間的な側面においても和解や訴訟解決には少なくとも数年間を要する。加えて米国の司法制度は各裁判所の規則の独自性が強く,対応は一様ではない。
 CIPOにはこうした訴訟発生リスクを回避したり費用を削減したりする知財戦略立案が望まれる。主要な米国企業では複数の弁護士事務所への依頼を削減,合理化することが最近の課題になっている。米国内外を問わず事業の拡大に伴い増える弁護士コストを削減するために,従来の個別的な契約から,包括的な顧問契約や「事業」,「技術」,「地域」といった領域別の契約へ転換が図られている。その意味では複数分野に専門性を持つ大規模な弁護士事務所が有利である。

特許侵害訴訟などに関連して,最近の米国企業が関心を持っている動きは何か。




 2005年の特許制度改正で創設された再審査制度が注目されている。侵害訴訟対策としては,訴訟提起より安価で事前に相手特許の無効化を図れるためである。再審査は米国特許商標庁(USPTO)の新たに構成した20名の専門審査官が担当しており,迅速に処理されるという点も魅力である。また訴訟は,陪審員つまり一般市民の判断が含まれるため,純粋に専門的・高度な判断に基づいた妥当な結果に至るとは,必ずしも言えない。
 米国で活動している日本企業の中には,すでに再審査制度の実践的活用を知財戦略に織り込み始めている先進的な活動例もある。

CIPO的な観点から注目すべき米国の司法動向にはどのようなものがあるか。




 2006年7月7日に連邦巡回控訴裁判所(CAFC)による「LG Electronics, Inc.対 Bizcom Electronics判決」は,特許消尽の法理と黙示のライセンスの法理に関し,2社間の争いを越えて米国における企業活動全般に大きな影響を及ぼす可能性がある。
 具体的には,韓国LG Electronics, Inc.は所有する複数の特許をIntel Corp.にライセンス供与し,Intel Corp.はこの特許の使用に該当する用途に用いられうる部品を製造していた。このライセンス契約には,Intel Corp.が製造した対象部品を他社の部品と組み合わせて使うことを禁じる項目を含んでおり,この項目に基づきLG Electronics, Inc.は,Intel Corp.から対象部品を購入しIntel Corp.製以外の部品と組み合わせていたカナダBizcom Electronics Inc.など複数の企業を特許権侵害で訴えたのである。
 CAFCはライセンス契約中の制約規定を行使し,「LG Electronics, Inc.の特許は消尽しておらず,また,“黙示的ライセンス”がIntel Corp.の顧客に及ぶものではない」と判断し,裁判の差し戻しを命じた。
 この判決は確定判決ではないものの,経営における知財を考える上で2つの大きな意義を含んでいる。

 第1には,事前に当事者間で締結した契約の効力が,特許法が定める消尽よりも優先された点である。特許権を含む製品や部品を第三者に譲渡したり販売したりした際には特許権の効力が無くなるとする消尽については,本件では「消尽していない」とした上で,当初のライセンス契約の有効性が認められた。換言すれば,「当事者間の特定契約が一般法よりも優先された」ということであり,企業は契約の位置付け,重要性を改めて認識しなくてはならない。知財戦略上,「攻め」においてはあらかじめ綿密に契約内容を構築する戦略が想定できる一方,「守り」においては,慎重に契約内容を吟味し将来の事業リスクを回避することが必須となる。

 第2には,今後も同様の事例において,ライセンス契約の直接の当事者ではない「川下」での事業活動であっても,サプライヤが結んだ契約内容によっては知財権の効力が波及し,予期せぬ訴訟や事業の差し止めに直面する恐れがある,という経営リスクの高まりである。当初,2社間で締結されたライセンス契約がビジネスラインの延長線上の複数企業へ効力を及ぼす状況は非常に深刻であり,こうした連鎖的なリスクの影響は計り知れない。


A. Max Olson氏 プロフィール
モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所東京オフィス,パートナー。
ハーバート大学卒B.A.およびM.A.取得(1981年)。ミシガン大学ロースクールJ.D.取得(1986年)。
米国カリフォルニア州弁護士,ニューヨーク州弁護士。訴訟部門所属。
主な業務分野は特許訴訟,特許ライセンス交渉および国際仲裁など。
2004年11月から2006年8月までモリソン・フォースターLLPロサンゼルス・オフィスの代表を務める。米国法曹協会の訴訟部門及び特許・商標・著作権法部門,米国知的財産権法協会,ロサンゼルス知的財産権法協会,Association of Business Trial Lawyers,JBA(Japan Business Association)の会員。
2006年の南カリフォルニア“Super Lawyer”に選出。





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