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先進企業が知的財産経営で重視すべき「独占禁止法への対応」
弁護士 雨宮 慶氏インタビュー(下)
[2006/11/20]

雨宮 慶氏
雨宮 慶氏
 近年,企業の研究開発活動,事業化においては,「アライアンス」,「コラボレーション」が活発化しており,こうした協働を念頭に置いた知的財産経営や戦略構築が重視されている。一方では,公正かつ健全な競争環境を維持する観点から知的財産と独占禁止法との関係性に注目が集まってきた(関連記事)。「独占と排他」を基礎とする知的財産権とその活動は,独占禁止法が規制するような“不健全・不公正な競争環境”を生み出す潜在的なリスクを内包している。
 こうした独占禁止法と知的財産権をめぐる状況について,伊藤 見富法律事務所/モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所の雨宮 慶氏に,具体的な課題と今後の方向性を聞いた。同氏は最近まで公正取引委員会にて審査専門官として勤務し,私的独占や不公正な取引方法などに関する審査・審判案件や企業結合案件に従事した経験を持ち,弁護士として多面的な企業実務に精通している。その経験から,知的財産権と独占禁止法のアプローチの相違と実務における近時の傾向を指摘し,先進企業の知的財産活動における具体的な課題を提示した。
(聞き手は河井貴之=日経BP知財Awareness編集)

日本の公正取引委員会が2005年6月に公表したガイドライン,「標準化に伴うパテント・プールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」はどのような意義があるのか。また,どのような効果が期待されるのか。


 独占禁止法の文言は抽象的であるため,それだけから適法違法の判断をすることが難しい場合が多い。それにもかかわらず,特に日本では個別事例の適法性を判断する際に比較対照できる行為や取引についての先例の蓄積が乏しかったり,仮にそのような事例があっても,第三者が事案の詳細を把握することが困難だったりする場合が多い。
 このような問題に対処するため,公正取引委員会は,日頃の企業との意見交換,委員会に寄せられた照会事例などをガイドラインにまとめ,さらに海外事例なども検討した上で,判断基準の明確化を図り,企業の予測可能性に役立てようとしている。すでに業界ごと,あるいは企業活動の局面ごとの判断指針として公表している(関連ページ)。
 2005年6月29日に公表された「標準化に伴うパテント・プールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」は,大局的にはこうした活動の一環として取りまとめられた(関連資料)。知的財産権ラインセンスについて公正取引委員会は「特許・ノウハウ・ライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」を1999年に公表している。同指針自体も2006年11月現在,改訂作業中であるが,パテント・プールに関するガイドラインはその補足的な位置付けである(関連記事)。
 「パテント・プールの形成等」という具体的な文言が挿入されていることからも分かる通り,近年の企業の知的財産活動における技術標準への取り組みと,その実効的手段の一つであるパテント・プールの運営と形成に関し,独占禁止法との接点,摩擦に関する公正取引委員会の基本的な考え方を取りまとめている(関連記事)。
 ただし,ガイドライン自体も万能ではないので,それをどう解釈するかといった作業も大切だ。
知的財産権に関する要素を含め,独占禁止法については欧米諸国の方が日本よりも厳格な制度運営を実施しているように感じる。専門家の立場からはどのように見るか。


 例えば,「米国の反トラスト法は日本の独占禁止法よりも厳格か否か」といった単純な比較はあまり意味がない。事例として,ソフトウエアのライセンスをめぐる企業間の契約について米国では正当性が認知された商行為に対し,日本では公正取引委員会が違法性を指摘したケースがある。こうした各国当局による違法性判断が相違する事例は数多く存在し,これらは国や地域の違いに依拠した「権利の濫用」や「私的独占」ひいては「公正な競争」などの概念の微妙な違いを反映している。
 ただ,確かに周辺の制度の違いや従来の企業慣習などに関しては,日本よりも欧米,特に米国は事実上厳しい環境下にあるといえるだろう。大きな特徴の1つとして,当局による摘発とは別個に,独占禁止法への抵触を理由とする民事訴訟が頻繁に起きている状況を挙げることができる。知的財産権に限らず,懲罰的な「3倍賠償」や厳格なディスカバリー(証拠開示)など米国特有の訴訟制度によって,企業がこの問題に関して負うリスクは非常に大きい。
今後,知的財産権に関する独占禁止法リスクが増えると予測される中,日本企業は経営の観点ではどのような対応を採用するべきか。


 日本においても一部の先進的な企業では,知的財産戦略においてこうした独占禁止法と知的財産をめぐる諸問題や,日本における民事訴訟リスクの可能性などを認識した上で,予防的対応に努めている。これらの問題は,一方では企業のモラルやコンプライアンス(法令順守)の姿勢にも関わる要素であり,他方では企業の生命線である知的財産権戦略を左右する問題である。そのため各社とも個別の契約への対応のみならず,そこに至るかなり前の自社の知的財産権ポリシーの策定やビジネス・モデルの検討段階から,これらの問題に取り組んでいる。
従来の日本において,独占禁止法に関しては,公正取引委員会による摘発や法執行の場合がほとんどであり,どちらかといえば,「公的な規制」といった色彩が強かった。しかし,近時は独占禁止法に対する認知度が高まっており,特に最近は企業などが主体になって独占禁止法違反を主張して訴訟を提起する動きも加速している。
 知的財産活動は多くの場合,グローバルな企業戦略の一環になっている。その意味では日本あるいは外国の「どちらか一方」だけの分析では不十分である。日本企業の採るべき方向としては,米国をはじめとする諸外国の動向をにらみつつ,足もとである日本の独占禁止法に配慮した,バランスのとれた対応が急務だと思う。


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