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マーケティング・マインドを持った技術移転人材を育成
奈良先端科学技術大学院大学・先端科学技術研究調査センター(上)
[2006/06/05]

先端科学技術研究調査センター 教授 久保浩三氏
教授 久保浩三氏
先端科学技術研究調査センター教授 助教授 吉田 哲氏
助教授 吉田 哲氏
 奈良先端科学技術大学院大学は,先端科学技術分野の基礎研究の推進とともに,大学の研究者,企業の研究開発担当者の養成と再教育を目指し1991年に設置された大学院大学である。創設以来,同大学は学内に蓄積した発明や技術といった知的財産を社会へ移転するため,産学連携に積極的に取り組んできた。2005年には,技術移転人材を育成するための実践的なプログラムを独自に策定し,工業所有権情報・研修館の「技術移転人材育成OJTプログラムの調査研究」に採択された。同プログラムの統括マネージャーで先端科学技術研究調査センター教授の久保浩三氏と助教授の吉田 哲氏に,プログラムの全容と日本の技術移転の現状と課題について聞いた。
(聞き手は河井貴之=日経BP知財Awareness編集)

「技術移転人材育成OJTプログラムの調査研究」を開始した経緯はどのようなものか。


 本学は,従来から知的財産,技術経営(MOT)に関する教育を実施してきた。情報通信,バイオテクノロジ,ナノテクノロジといった技術分野ごとに,(1)知的財産の創造・保護・活用といったサイクルの習得,(2)知的財産を活用した事業化・産業化のための各種方法論の取得,を主な目標に掲げ, 講義に加えてケース・スタディやOJT(on the job training)形式のプログラム開発に注力してきた。特色は,「研究者・技術者にとって必要不可欠な知的財産の専門性」の習得を目指す点であり,加えて研究開発型ベンチャーなどで必要な知財人材の育成もミッションの1つに掲げている。
 このような人材育成活動の一環として,先端科学技術研究調査センターでは,技術移転人材育成プロジェクトを開始した。これは2005年度の工業所有権情報・研修館の「技術移転人材育成OJTプログラムの調査研究」に採択され,2005年9月から2006年3月に至るプログラムを実施した。
 本学では知的財産本部を2003年に設置して以来,大学の技術や知的財産権を様々な形で社会に移転してきた。発明の開示から権利化業務,契約に至る一連の流れについて,学内のスタッフが一貫して携わっている。2004年度は1,730万円のライセンス収入を得た。教員1人当たりに換算すると約10万円であり,日本の大学全体の平均額(約3,000円)を大きく上回る。こうした実績を通じて獲得してきたノウハウを,今回のプロジェクトに反映した。
技術移転人材に必要な資質やスキルとして,特に重視する要素は何か。


 日本の場合,従来は技術移転機関(TLO)の職員などには企業OBを登用することが多かった。これは,まず知的財産や事業に関する知識と経験を重視してきた姿勢の表れだと感じる。今後,技術移転をより効果的に実施するためには,技術移転自体の専門的な教育を受けた人材が必要になる。
 一般に,技術移転人材(ライセンス・アソシエイト)が技術移転を成功に導くためには,研究機関と企業の共同研究の企画段階から両者に積極的なコンサルティングを実施することが不可欠といわれる。確かに技術,法律,事業に関する知識やスキル,あるいは語学力といった専門性も必要な要素だが,実務的な観点では,コミュニケーション能力が必須だと思う。また,技術移転の最終的な目標は事業創造であるため,一定のスピードを維持しつつ技術を動かす行動力や事業全体を見渡せるような大局的な視点も備えなくてはいけない。今回はこうした課題を配慮しつつプログラムを構成した。
 加えて,大学院生という若年層を教育対象にした点に意義があると思う。技術移転人材が増えることによって技術移転の機会が増えれば,循環的に,技術移転人材へのニーズの高まりにつながる。それによって,将来的には技術移転人材というカテゴリーが,従来以上に学生の進路や選択肢の1つとして定着することも期待できる。


 個人的には,自分が夢や可能性を感じた技術については「技術移転が駄目ならば自分で起業する」というくらいの気概や強い意志を持った人材が育つことを願っている。そのような人材育成に向けて,権利の主張だけでなく,技術の普及や産業界との調和といった俯瞰(ふかん)的な視点の養成についても,プログラムの主要な目的の1つとした。
具体的に,プログラムはどのような内容で構成されたのか。


 このOJTプログラムでは,技術移転を(ア)発明の把握,(イ)発明の権利化,(ウ)マーケティング,(エ)交渉,(オ)契約,の5つのステージに分け,「実習1」,「実習2」の2段階で学んだ(図1)。実習1では,知的財産に関する全体講義,個別のグループ・ディスカッションのほか,本学知的財産本部のスタッフや外部の専門家にインタビューを行った。実習2では,本学教授の佐野浩氏らが進めた,遺伝子組み換えによる低カフェイン・コーヒー(LCC)の技術を取り上げ,海外企業への紹介,この技術に関心を持つ企業の調査,そして海外企業との連絡やコミュニケーションを通じたマーケティングを学んだ(図2)。


 受講生の多くは知的財産に関する学習をしたことがなく,当初は技術移転についてイメージを把握できていない学生もいた。そこで,技術移転の全体像の把握をうながしつつ,知的財産に関する基礎知識を取得してもらうことを第1に心がけ,その上でOJTを最大限に活用した実践経験の体得を目指した。
 LCCに関する技術移転については,本学の知的財産本部のスタッフの協力を得て,発明の把握から契約に至る一連の業務工程を経験できた。ただし,技術情報の機密性保持など実務的な側面に細心の注意を払い,具体的には発明相談,発明評価,マーケティング活動といった業務での共同作業を中心にした
図1
実習1の日程図
出所:工業所有権情報・研修館「平成17年度技術移転人材育成OJTプログラム研究成果報告書」
図2
実習2の日程図
出所:工業所有権情報・研修館「平成17年度技術移転人材育成OJTプログラム研究成果報告書」


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