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シリーズ:企業経営と知的財産(4)

「ものづくり」を支援する「知恵づくり」が知財活動の本質
豊田合成,青色LEDの研究開発・事業化における知的財産の意義(下)
[2006/05/10]

小滝正宏氏 豊田合成の青色や白色発光ダイオード(LED)の研究開発から事業化に至る過程では,知的財産が大きな役割を果たしてきた。豊田合成・知的財産部弁理士・次長級の小滝正宏氏は,同社の知財活動の基本姿勢が「攻めと守りの両輪」をバランスよく回すことだと述べ,各場面における具体的な対応ポイントを指摘する。本記事は日本弁理士会・東海支部が主催した「知的財産セミナー2006」(2006年1月27日,名古屋市)における小滝氏の講演を,知財Awareness編集部が要約したものである。
(まとめは河井貴之=日経BP知財Awareness編集)


「攻め」と「守り」を両輪にしたバランスのよい知的財産活動が目標
 われわれは,知的財産活動において,「攻めと守りを車の両輪にすること」を基本姿勢としている。
 「攻め」とは,研究開発の成果である技術を早期に権利化し,その権利を有効に活用することである。そのためには,権利の取得を有効に進めることが肝要であり,「早いこと(技術開発,権利出願の速度)」,「広いこと(幅広い領域の発明を権利の中に盛り込む)」,「強いこと(他の権利との係争において)」がポイントになる。その上で,(1)事業の独占的な実施と他社への牽制を通じた優位性の確保,(2)ライセンス収入などの増加による経営への貢献,これらを実現していく。こうした強い特許権を集約することは,強固な特許網の構築につながる。
 「守り」とは,製品の発売前に,他者の特許によって事業が妨げられるリスクを完全に取り除くことである。具体的には,問題が発生する可能性がある他者特許については,技術の企画開発段階で調査と分析,判定を徹底的に実施し,適切な対策を講じていく。次に,製品の設計から生産準備に至る段階では,設計変更,問題視する特許の無効化,あるいはライセンス契約といった諸対策を完了させる。時期的には,製品のロール・アウト(発表)の1年前を1つの目安とする。また,量産・販売開始から約1年半が経過した時期には開発・設計段階において未公開だった特許が登録されている可能性があるため,フォローアップ調査を実施する。
 攻めと守りは両輪であり,そのバランスが最も大切である。特許権の独占的な実施などによって事業の優位性を確保しつつ,市場における製品差異化を図り,場合によってはライセンス収入へとつなげていくのである。

係争時に大きなカギとなる3つの要素への対応は平時から不可欠
 青色など発光ダイオード(LED)事業についても,われわれの知的財産活動の原則は同じだ。研究開発段階では,名古屋大学や豊田中央研究所との共同研究を通じて多くの重要特許を出願した。
 1990年代中期以降は,競合他社との特許権をめぐる係争に直面した。特許権侵害訴訟だけではなく,特許庁の審決に対する審決取消訴訟など,多い時期には約11件の侵害訴訟(東京地裁,大阪地裁)と約20件の審決取消訴訟に,同時に対応した。これら係争を行う法廷は,東京地方裁判所,大阪地方裁判所,東京高等裁判所の3カ所に及び,愛知県に本拠地を持つわれわれには多大な負担になった。
 こうした状況に対し,副社長の指揮の下,複数の部門からメンバーを集めたプロジェクト・チームが直接的な対応を担った。ただし,情報交換や社内における士気維持など幅広い対応については,知的財産部門,研究開発部門,技術部門,事業部門が一致団結して取り組んだ。
 一連の対応では,以下の3つの要素がカギになった。これらは必ずしも係争対策という意味だけではなく,平時の知的財産活動においても重要な要素である。
 第1は,情報の収集・分析である。自分たちが特許を出願する際の基本的な業務に加え,競合他社の出願動向や注力領域,あるいは業界全体の関連分野についての知的財産活動の動向を定常的に観測し,必要に応じて社内の研究開発部門や技術部門にフィードバックし,迅速に調整する。
 第2は,企業として一貫した研究開発の方向性を定めることである。特に係争が複数の分野にまたがっている場合,あるいは複数の係争を同時に処理している場合は,それぞれの主張を総合して矛盾が生じないように,十分に留意しなくてはならない。
 第3に,第三者(裁判時は裁判官)に技術を理解してもらうことである。LEDの発光原理や電気の流れは目に見えず,技術が複雑で専門的である。技術用語あるいは言葉だけの説明では理解を得られにくいため,準備書面などでの工夫が必要になる。資料のカラー化や写真・画像などの利用が有効である。当社の場合は,裁判官や特許庁の審査官に対して技術説明会を開いたり,技術を分かりやすく説明したプレゼンテーション・ビデオを作成したりする場合がある。さらに,技術分野の専門家に見解書を作成してもらって裁判所などに提出することも有効である。

「ものづくり」を支援するための「知恵づくり」が知的財産活動の意義
 当社のLED事業において知的財産活動が果たしてきた役割を1語で表現するならば,まさに「玉磨かざれば光なし」である。つまり,優れた技術や発明であっても,それを実際に輝かせるためには磨かなくてはならない,ということである。
 さらにいえば,すでに特許権を取得している場合でも,事業化に即して製品化の過程で,多様な観点から柔軟に権利を補強できなければならない。例えば,明細書は様々な角度から書かれており,かつ,複数の権利の組み合わせによって,その重要性は大きく変化する。基本発明を再度見直したり,様々な方向からクレームを作成して分割出願を実施したりすることで特許権の価値は一変することがある。こうした場合に備えるためには,技術動向と事業の方向性の両方を理解した上で,コア技術や各層に属する技術を見極めなくてはならない。
 「ものづくり」を支援するための「知恵づくり」としての知的財産活動は,こうした局面でその本領を発揮するだろう。


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