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シリーズ:企業経営と知的財産(3)

韓国Samsung Electronics が進める「知的財産経営」の全容
専務,法務・知的財産担当役員のKim Gwang-Ho氏が講演(下)
[2006/03/24]

Kim Gwang-Ho氏
専務,法務・知的財産担当役員
Kim Gwang-Ho氏
 知的財産を経営資源として最大限に活用する「知的財産経営」が先進工業国間のグローバル・スタンダードとして注目されているが,効果的に実践している企業は世界でもまだ限られている。韓国Samsung Electronics co., ltd.はこうした経営視点から知的財産をとらえる先進企業の1社といえよう。同社の専務で法務・知財担当役員のKim Gwang-Ho氏は,市場における技術保護だけでなく,企業の内部において技術や研究開発に対する中長期的な投資を決定したりコア・コンピタンスを理解したりして,「未来のための成長エンジン」を持続的に発掘・育成することこそが,知的財産経営の目標だと断言する。同社は,2006年1月にCPO(chief patent officer:最高特許責任者)を設けて,経営に密着した知的財産戦略を展開している。本記事は,日本知的財産協会が2006年2月22日に開催したフォーラム(関連記事)における,同氏の講演の要約である。
(まとめは河井貴之=日経BP知財Awareness編集)

2005年は総売上高の9.2%に相当する52億米ドルを研究開発に投資
 われわれは特許戦略の実施において,特許の(1)生産,(2)活用,(3)インフラストラクチャ(基盤)の構築,を重視する。
 (1)の生産では,各事業分野において基本になる特許を確保するために先行研究を強化している。具体的には,研究開発への投資を拡大しつつ先行的な研究開発に重点を置いた自社の各研究所などにおける役割分担を確立し,「SAB(science advisory board)」を設置することで,研究開発や技術の動向の分析強化・方向性の決定を行っている(表1)。
 これに加えて,特許権の質,中でも特許明細書の質の向上を心がけている。研究活動の拡大によって発明件数が増えていることに対処し,同時に各総括(部門)の特殊性を考慮した弾力的な運営に留意している。研究開発と特許活動の連携強化を推進する中では,すでに登録した特許権を周期的に再評価する仕組みを整えた。また,特許明細書の質を高めるために,社内で明細書作成を専門とする担当者の育成に力を入れている。将来の事業展開で重要な核となる技術については,社内でドラフトを優先的に作成するなど戦略的な出願を実行している。また,全社レベルで特許明細書の作成ガイドラインを策定し,運営中である。

表1:研究開発費と売上高比(1997年,2000〜2005年)
  1997年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年
研究開発費 8億米ドル 17億米ドル 18億米ドル 24億米ドル 29億米ドル 45億米ドル 52億米ドル
対売上高比 4.1% 5.8% 7.4% 7.3% 8.0% 8.3% 9.2%
出所:Kim Gwang-Ho氏の講演資料に基づき日経BP知財Awareness編集部が作成。

知的財産戦略では「特許ポートフォリオの構築」と「グローバル化」を重視
 (2)の特許の活用では,全社レベルでの特許ポートフォリオのマネジメントに力を注いでいる。ポートフォリオの最適化を図るために,われわれは主に次の課題に取り組んでいる。
 第1は,国際標準化活動への積極的な参加である。世界的に見て技術障壁の構築が一般化しており,事業を実現するためには標準化への参加が不可欠な局面が増えている。そのため,国際標準化の動きに効率的に対応するために,研究開発担当者や知的財産担当者の間で相互協力を進めている。具体的には,初期の標準化団体を結成するための活動,事業部門ごとの標準化担当部署の設置,そして全社規模の統括的な標準化対応に従事する専任部署の運営である。
 第2は,技術的な先進企業との戦略的な提携(アライアンス)の推進である。近年の技術動向は複数の分野にまたがる技術が収斂(しゅうれん),あるいは複合化・融合化する傾向が強い。特に当社を含めたSamsungグループの事業の主軸である半導体や通信といった分野は,こうした動向が顕著であり,対応するためには多角的に外部資源の導入を検討しなくてはならない場面が急増している。そこで,オープン型の研究開発体制を採用したり,協力体制をグローバルな規模へ拡大したりしている。その中には,従来の競合企業との事業提携なども含まれる。あるいは,共同研究や戦略的なクロス・ライセンス契約の実施など研究開発段階からのアライアンスが増えている。
 このほか,すでに取得している特許に関する再評価を実施している。こうした評価を通じて有効性の高い特許あるいは技術を再発掘し,われわれの事業の核となる分野の技術に関する特許網を補足していく。特に戦略性の高い製品については,綿密に特許網を構築する。

「専門性の高い知財人材の確保」は基盤整備における最重要課題
 (3)特許のインフラストラクチャとしては,(ア)専門人材の確保とスキルの強化,(イ)特許情報システムの運営,(ウ)大学や外部の研究機関との協力体制作り,を念頭に置いている。
 このうち人材の確保と育成は,特許インフラストラクチャの構築において最重要の課題と位置付けている。CPO体制の開始に際し,全社レベルでの戦略的な機能強化を図っている。高い質の成長基盤を築くために特許に関して専門的なスキルを持つ社員を積極的に確保するため,弁理士や弁護士など特許関係の専門資格保有者の採用を拡大し,また社内では研究員から特許部門への職務転換を進めている。これらによって,われわれは社内の特許担当者を2010年までに現時点のおよそ2倍に拡充する予定である。育成面では,法律事務所へのインターンシップ派遣の実施や,韓国弁理士資格の取得支援などを推奨している。
 特許情報のシステム化では,社内における「電子出願管理システム」の整備に加え,「発明評価システム」ライセンスや侵害訴訟などを支援するための特定情報システムの運営している。
 大学や研究機関との協力関係では,基礎科学分野における技術の確保を目指し,研究能力や潜在的な開発能力の高い大学などを対象にして研究開発費を支援している。さらに,信頼関係の構築に留意して,「Win-Win」を実現するための友好的なアライアンスの維持と拡大に励んでいる。こうした連携先は,韓国国内の研究機関だけでなく海外の研究機関も含めており,研究開発段階からの共同研究体制の構築などを視野に入れている。

知的財産経営を通じて企業のブランド価値を高める
 われわれが「特許経営宣言」などを通じて目指している「あるべき姿」は,次のようにまとめることができる。

すべての社員の認識に基づく「特許重視」の企業文化の創造
CPO体制による戦略的な特許経営の推進
多角的な研究開発活動と知的財産活動の連携,有機的な結合
事業に貢献する特許活動を担う実行組織の具体的な構築
将来に備える知財産専門人材の育成

 これらは目標であると共に,われわれの「強み」,企業価値になりつつある。こうした強みを背景に,今後,Samsungブランド,あるいはアイデンティティの強化と保護をより強化していく。
 例えば,ブランド・アイデンティティの統一化では,全社的,あるいはグループとしての商標権の使用基準の統一や,広告宣伝活動の展開を図り,Samsungブランドへの認識度やイメージを世界各国で高めていく必要がある。その観点では,模倣品・海賊版などの取り締り活動も並行して進め,ブランド価値の希釈化を防止しなくてはならない。
 いずれにしても,こうしたブランド力の源泉は技術や人材などの知的財産であり,われわれの経営理念である「人材や技術に基づいて最高の製品やサービスを創出すること」の実現によって目標へ近づくことが可能になる。


表2:Samsung Electronicsの「ブランドの価値」
  2001年 2002年 2003年 2004年 2005年
ブランド価値 63億米ドル 83億米ドル 108億米ドル 125億米ドル 149億米ドル
順 位 42位 34位 25位 21位 20位
出所:Inter Brand Co.の調査を基にしたKim Gwang-Ho氏の講演資料から日経BP知財Awareness編集部が作成。



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