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卓越した「技術」,「技」,「マインド」の伝承は知的財産経営の重要課題 セイコーインスツル 技術本部長・春日政雄氏,知的財産センター長・竹田和俊氏(下) [2006/10/24]
ものづくりのアイデンティティと伝統の継承を宣言した「匠・ときめき」
CIを実現するための具体的な行動計画として,発想指針,行動指針,環境指針を定めている。特に発想指針の「匠・ときめき」は,SIIグループのものづくりの伝統とアイデンティティを色濃く反映している。「匠」とは文字通り,匠(たくみ)の精神,卓越した繊細な技や技術などを指す。その精神に,新しい価値を創り出しユーザーに提供する「ときめき」を兼ね備えた発想を,社員1人1人が持つべき姿勢と考えている。 匠・ときめきを重視した発想姿勢は,次世代の技術や事業に向けた研究活動などを通じて具体化している。情報携帯機器用の小型燃料電池,微弱な電源からでも起動できる「チャージポンプIC」,ミニ生産システムなど,これまでの活動の中で蓄積した技術をより前へ進め,実用化技術の創出に結び付ける取り組みであり,「匠(しょう)」,「小」,「省」の3つをキーワードとする「“SYO”ism」を目指している。 各社員が持つ「知的財産」を発掘・伝承する「プロフェッショナル人材制度」 研究開発活動,知的財産活動,事業活動の三位一体化を進める過程では,自社独自の技術や高度な専門技能に関するマネジメントが課題に浮上している。 技術のマネジメントにおける主題は,「イノベーション(技術革新)の創出」や「生産技術の向上」など,いわば将来の発展である。だが,その成長基盤は過去から現在に至る技術,技,知識の蓄積ないし集積であり,継続的な発展の達成には,そうした技術や技能を伝承し育成し続けることが不可欠である。特にわれわれの事業活動では社員個々人が持つ専門性や技能,換言すれば「匠の技」を発揮する製品や場面が多く,企業としても独自の「強み」として尊重してきた。 広い意味で知的財産を考えた場合,まず「人」が当てはまる,と述べても過言ではないだろう。その意味においては,「優れた技能」,「高度な専門性」,「知識」などの知的財産を備えた人材に対する取り組みは,技術マネジメントや知的財産マネジメントの一環として位置付ける必要がある。 われわれは,グループの全社員を対象とする「プロフェッショナル人材制度」を2004年に導入した。この制度は,各業務分野で優れた人材を認定・顕彰し,その技能や知識を社内で伝承することが目的であり,(a)知財,法務,開発・設計業務などに専門性を持つ「スペシャリスト」,(b)加工,組み立てなど製造業務などで専門性を持つ「マイスター」,として認定し,認定証とバッジを授与する。特に優れた人材には,「ゴールド」,「シルバー」の称号を設けている。2006年の時点で,62名がスペシャリストとマイスターに認定されている。 プロフェッショナル人材制度の導入は,(ア)技能や専門性の評価に関する人事制度上の整備,に加え,(イ)従来は可視化が難しかった社内の「人に付随する知財」を広く認識し尊重する体制の構築,につながった。これらは,今後,グループにおける各業務や各事業の高付加価値化を図る上での基盤として大きな意義を持つ。 【写真1】加工,組み立てなど製造業務などで専門性を持つ「マイスター」に贈られる認定証とバッジ ![]() 写真提供:SII “SII”のものづくりの伝統と未来を結ぶ「雫石高級時計工房」 2004年9月にリニューアル・オープンした「雫石高級時計工房」(岩手県,盛岡セイコー工業)は,SIIグループが創業以来培ってきた「ものづくり」の精神と伝統,そして未来の象徴というべき取り組みである。 高級機械式腕時計はウォッチ(腕時計)事業の原点であり,今も頂点に位置する。同工房は高級機械式腕時計を部品製造から組み立てまで一貫生産できる日本唯一の専門工房であり,「先進テクノロジとクラフトマン・シップの融合」をコンセプトとして掲げている。世界有数の設備とともに,「現代の名工(卓越技能士)」に選ばれた桜田 守,照井 清など多くの時計技能士や彫金技能士が在籍している。 【写真2】岩手県にある「雫石高級時計工房」 ![]()
高級機械式腕時計は,大量消費型のビジネス・モデルからいち早く脱却し,製品個々の高付加価値化,差異化をユーザーが求め始めた産業分野である。背景の1つには1970年代初頭のいわゆる「クオーツ・ショック」によるイノベーションと事業モデルの壊滅的打撃があるが,1980年代以降に欧州や米国の市場を中心に一種の「見直し」の動きが現れ,その後,技術や技への感性がユーザーの購買意欲に大きく作用する独特の市場が世界規模で形成されてきた。SIIグループの歴史で述べると,1881年の「服部時計店」の創業を皮切りに,国産初の腕時計の開発など日本の時計産業の核を担ってきたが,1980年代前半に日本国内での生産をほぼ休止した。1988年に「機械式時計復活プロジェクト」が発足,1991年に国内生産を再開した。その後,1998年に新型ムーブメントを開発,2006年に機械式腕時計の12振動ムーブメントの開発を行うなど,世界有数の「マニュファクチュール(自社生産)」メーカとしての地位を確立した。 高級機械式腕時計を巡る事業環境の変遷は,最近指摘される「知識経済」,「知識社会」の下で事業戦略,さらに研究開発戦略や知的財産戦略のあり方を考えていく上で,多くの示唆点を含んでいると感じる。雫石高級時計工房からの「日本でしか作れない製品」,「“SII”でしか作れない製品」の発信を通じて新しい価値を生み出していくことは,われわれの伝統の継承であると同時に,未来に向けたアイデンティティの追求である。
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