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「特許の有効性」の判断において知財高裁が果たす役割とは
知的財産高等裁判所 所長 篠原勝美氏インタビュー(下)
[2006/04/13]

 2002年に知的財産基本法が成立して以来,「世界有数の経済・社会システムを有する知的財産立国」(「知的財産の創造,保護及び活用に関する推進計画」より)に向けた制度改革が急速に進んだ。2005年4月に創設された知的財産高等裁判所(知財高裁)は,こうした変革の象徴といえる。設立から1年を迎え,知財高裁はいかに機能し,今後どのように発展していくのかについて,同裁判所長の篠原勝美氏が日経BP知財Awarenessに語った。
(聞き手は河井貴之=日経BP知財Awareness編集)

知的財産権の保護という観点では,審決取消訴訟において知財高裁が果たす役割が注目されている。現況について,どのようにみているのか。


 1994〜2004年に東京高等裁判所が担当した審決取消訴訟の推移を見ると,新受件数は10年間で2倍近くに増えている(図表1)。2005年は,新受件数が588件,既済件数が606件,平均審理期間が9.4カ月だった(編注:いずれも概数値,最高裁判所行政局調べ)。新受件数が増える一方で,審理期間において3カ月以上の短縮を実現した。
 審決取消訴訟については,特許庁が「特許無効審判請求が成立しない」とした審決(有効審決)の半数以上が取り消されている実態がある。また,特許権侵害訴訟が起きた際に,その多くで被告側が無効審判請求を行っているとの指摘がある。これらのことから,無効審判と審判取消訴訟は,近年の知財実務上,大きな意味を持っていると思われる。「予防型」といわれる従来の企業の知財戦略に加えて,積極的な訴訟提起などを含めた「対処型」の知財戦略においても,審決取消訴訟は,重要度を増すのではないだろうか。それに比例して,知財高裁に要請される責任も大きくなると予測する。
篠原勝美氏
知的財産高等裁判所
所長 篠原勝美氏
1970年4月,東京地裁判事補に就任。1985年4月,最高裁調査官に就任。その後,東京地裁判事部総括,横浜地裁判事部総括などを歴任後,1999年3月に函館地家裁所長,2000年8月に東京高裁判事部総括に就任。2005年4月に知財高裁所長に就任。

図表1:審決取消訴訟の件数推移
審決取消訴訟の件数推移図
出所:知的財産高等裁判所のWebサイトより引用。

審決取消訴訟と特許権侵害訴訟の関係性について,いわゆる「ダブルトラック」が1つの課題になっている。これに対し,知財高裁としてはどのような対応を考えているのか。


 2004年の特許法104条の3の導入によって,特許権侵害訴訟において被告側が相手特許の無効を主張すること(無効の抗弁)が認められた。これにより,特許の有効性に関する判断は,(1)特許庁における無効審判,(2)特許法104条の3に基づく裁判所における判断,の2つの方法が併存することになった。大合議による一太郎事件は,(2)の判断がなされた最初の事例である(関連記事)。
 実務上では,特許権侵害訴訟において特許の有効性が争われつつ,並行して無効審判の審理が進む場合が起こりうる。さらにいえば,訴訟における裁判所の判断と特許庁の判断が異なる場合がありえる(関連記事)。
 無効審判は行政庁の判断であり,基本的な手続きとしての無効審判独自の存在意義は否定しえない。知財高裁においては,訴訟の当事者,特許庁との協働を通じて,判断の食い違いをできるだけ抑制することに努めたい。具体的には運用面において配慮し,侵害訴訟の第1審の判決と無効審判の審決が同時期に出て,それぞれの控訴審と審決取消訴訟が同時に知財高裁で行われるような場合は,原則的に同じ部で2つの事件を審理することなどがある。いずれにしても,知財高裁として慎重に対処すべき大きな課題の1つだととらえている。

(編注)富士通と米Texas Instruments Inc.(TI)が特許権侵害による損害賠償請求権について争った訴訟(キルビー事件)において,2000年,最高裁は「TIの特許は無効になる可能性が極めて高く,そのような特許権に基づき第三者に対して権利行使することは権利の濫用で許されない」との判決を下した(無効の抗弁の容認)。2004年の特許法改正では,第104条の3において,「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,特許権者又は専用実施権者は,相手方に対しその権利を行使することができない」(第1項),「前項の規定による攻撃又は防御の方法については,これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは,裁判所は,申立により又は職権で,却下の決定をすることができる」(第2項)とされた。
日本における特許出願審査の件数は今後数年間にピークを迎えるとされており(関連記事),それに伴い,審決取消訴訟や企業間の特許権侵害訴訟が急増するのではないかという懸念がある。


 裁判の迅速化と審理の質のさらなる改善は,知的財産分野に限らず司法全体の継続的な課題であり,知財高裁としても当然尽力する。今後に予想される審決取消訴訟,侵害訴訟の増加は早急に取り組むべき課題としており,すでに具体的な対策を講じている。
 当事者に向けては,特許と実用新案の審決取消訴訟に関する審理要領を2005年12月に作成して知財高裁のWebサイトに掲載した(関連ページ)。知財高裁の所内の取り組みとしては,審理の効率化を図るために,基本的に(a)第1部,第2部,第3部は第1回弁論準備手続期日で進行スケジュールを調整し,第2回弁論準備手続期日で集中的に争点を整理する審理方式(A方式),(b)第4部は事前に進行スケジュールを調整し,第1回の弁論準備手続期日において集中的に争点を整理する審理方式(B方式),をそれぞれ採用している。
 この問題についても,訴訟の当事者や特許庁などとの連携がカギであり,協働を通じて対応していきたい。

図表2:知的財産権関係民事事件の推移(東京高裁控訴審)
知的財産権関係民事事件の推移図
出所:知的財産高等裁判所のWebサイトより引用。
編注:2005年は新受件数86件,既済件数108件,平均審理期間9.7カ月(いずれも概数値,最高裁判所行政局調べ)。
2年目を迎えるに当たっての抱負を教えて欲しい。


篠原勝美氏 専門的な知見に基づいた信頼性の高い審理と迅速な判断の実現が,裁判官をはじめとする知財高裁の職員全員に課せられた最大の使命であると認識している。また,2005年は法科大学院や司法研修所などの法曹関係者を中心とした知的財産人材の育成の場への協力に力を注いできた。これに,2006年も引き続き取り組んでいく。
 その上で,こうした知財高裁の姿勢が社会における「知的財産を尊重する意識」の高まりにつながることを願っている。そのためには,知財高裁が主体となった情報発信や交流活動などを積極的に推進すべきだろう。


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